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魔法師という存在

 



(はぁ~、やっぱこの人、魔法お化けだわ……)


 修行時にも感じていたことだが、より強く再認識する。この人は生物というカテゴリーを超越した、魔法お化けという知的生命体なんだと。手に持つMAWの重みを感じながら、袮音はそんな失礼なことを思った。


「むっ!なんか今ものすごく失礼なこと思ったでしょ!」

「い、いや……何も思ってねーよ」


 袮音の失礼な想像を持ち前の勘の良さを発揮し、何となく察したアリアはジト目で袮音を睨みつける。その視線に袮音は気まずそうに目を逸らした。


「そ、それよりどうして俺にこれを?」


 だけど、それでもずっと向けられるジト目に耐えきれず、袮音は何とか話題を変えようと空中に視線を彷徨わせ、そして、自分の手元のものに行きつく。そのバレバレな話題転換にアリアはこれぐらいで勘弁してやるかとでも言いたそうに肩を竦めると袮音に言葉を返した。


「どうしてって?プレゼントだから送ったんだよ?」

「いや、それはわかってるんだが、アリアのことだからただこれをプレゼントしたかったわけじゃないんだろ?」

「あはは!さすが、袮音!やっぱりわかっちゃう?」

「当たり前だろ?もう何年一緒に居ると思ってるんだよ……アリアのことなら大体わかるさ」

「え?」

「ん?どうしたんだよ?」

「……い、いつの間にそんな不意打ちができるようになったの袮音?」

「何のことだ?……それよりなんでそんな真っ赤になってんだよ?」

「……ま、まさか天然?お、恐ろしい子……」


 不意を突くように放たれた袮音の言葉にアリアは思わず本気で照れた。本人は気づいていないが、袮音は身内贔屓無しでかなり端正な顔立ちをした少年だ。そんな袮音がキリッと鋭く凛々しい目つきでそんな言葉を真剣に呟いたら、誰だって少なからず照れてしまうだろう。


(袮音は血は繋がってないけど、息子!だからこの感情は家族愛みたいなもの!袮音は息子!袮音は息子!……よし!)


 心の中で何度か念を押すように自分に言い聞かせ、どうにか平静を取り戻すアリア。いまだに顔はすこし赤いが、そのまま袮音にMAWをプレゼントした理由を説明した。


「あ、あのね……袮音。そのMAWをあなたに送った理由はね……あなたに魔法師学校に行ってほしいからなの」

「魔法師……」


 アリアの本意を聞き、袮音は一つの単語を反芻するように口にする。


 第三次世界大戦の影響から文明は崩壊し、国々は混沌と化し、人類は衰退の末、全滅の一途を辿るだろうと言われていた世界は魔法のおかげでそれを免れた。


 現代の人間のほとんどは誰しもが過去に夢を見たフィクションの中の魔法使いだ。魔法は誰にでも使える力の一つとなっていた。だが、彼ら一人一人が大魔法師のように強大な力を持っているというわけではない。それぞれがせいぜいライター程度の火を起こせたり、そよ風を生み出せたりするくらいの力しかないのだ。本当に魔法という力を使える(・・・)程度の人間達ばかり。


 その為、各国は大魔法師のような魔法を専門に扱う者達――魔法師の育成に取り掛かった。それは大魔法師が第三次世界大戦で見せた力によるものが大きい。指を弾けば地を這う戦車は潰れ、腕を振れば空を舞う戦闘機やミサイルは燃え散り、手を翳せば核の破壊力を防ぐ。そんな人知を超えた力を見れば、各国の首脳陣も夢を見てしまう。各国では魔法師の育成競争が勃発。それぞれの国は独自の方法で第二の大魔法師を育てようと躍起になっていた。


 魔法師学校。正式名称、国立魔法師養成学校は日本が作った文字通り魔法師を育成するための教育機関だ。通常の学校カリキュラムに加え、魔法関連の科目を取り入れた授業を専門的に行う最新教育施設。難関な試験をくぐり抜けて、ようやく入学が果たせる、そんな一部の才ある者しか入れないエリート学校。


「……やっぱり袮音が捨てられた原因でもある魔法師という存在は嫌い?」

「……」


 少し目を伏せ、悲しそうにつぶやくアリア。その言葉に袮音は手に持つMAWに視線を落としながら、過去を思い出していた。


『あなたみたいな色なし産むんじゃなかったわ!』


 ――穏やかで温かかった母親はトチ狂ったように俺の存在を否定した。


『なんであんたみたいな人間が私の弟なのかしら?』


 ――仲の良かった姉は手のひらを返したように俺を蔑んだ。


『……もう顔も見たくない』


 ――慕って後ろをついてきた双子の妹は姉と同様、俺を見限った。


『魔法師輩出の名門である我が家から、まさかお前のような無能がでるとは思わなかったぞ。この家にゴミはいらない、出ていけ!』


 ――厳しくも家族には優しかったはずの父親は冷酷にも俺を遠くの辺鄙な山奥に捨て去った。


 もうずいぶんと昔の記憶。袮音にとっては忘れたくても忘れなれない嫌な思い出。


 だが、


「…………俺にとってあの人らはもうどうでもいい存在かな。確かに嫌なことではあったけど、別にもう憎しみや恨みっていう感情はないよ。ましてや魔法師が嫌いなんてことあるわけがない。何せ、義母さん(アリア)があの偉大な大魔法師なんだからな!へへッ!」

「袮音……」


 袮音の中ではすでにケリをつけているのか、パッと顔を上げると小さな子供のように無邪気に笑う。その笑顔を見たアリアは思わず、目元を潤ませた。


 そんな様子のアリアを見て、袮音はまた言葉を続ける。


「……それに、俺は捨てられたことにむしろ感謝してるんだ」

「……感謝?どうして?」

「だって…………アリアに出会えたんだから」


 それがとどめの一撃だった。


「う゛う゛……ネ゛イン!!!」


 アリアの目元に溜まっていた涙の雫はポロポロと流れ落ちる。感極まりすぎて、バンッと椅子を吹き飛ばして立ち上がると、そのまま袮音に飛びついた。


「え?……アリア!?うぷ!」

「うわぁぁぁん!!!袮音!!!私も袮音と出会えてよかったよ!!!」

「ちょ!く、苦しい!」


 頭をアリアの大きな胸に強く抱き込まれ、呼吸困難に陥る袮音。手をじたばたと動かし、苦しいアピールするが、感動でむせび泣いているアリアは気づかない。そのまま、袮音は窒息寸前までずっと抱きしめられ、結果、本筋の話に戻るのは今から一時間後のことになるのだった。




「……きょ、凶器……」

「う……ご、ごめんね、袮音。うれしくってつい……」


 美女の巨乳に顔面を挟まれるという男なら一生に一度は味わってみたい嬉し恥ずかしなシチュエーションを体験できたにもかかわらず、袮音は軽く死にかけて、むしろ恐怖を味わった。リアルに三途の川が見えたのだ。修行でもこんなことはなかったのに。袮音がこんな反応を返すのも仕方なかったかもしれない。


「はぁ~もう大丈夫だ。……それより続きを話そう」

「あ!そうだったね!」


 ようやく意識がはっきりしてきた袮音の言葉で、それまですっかり忘れていた話の本筋を思い出すアリア。


「確か魔法師学校に行けって話だったよな?」

「うん。袮音ももう15歳でしょ?この年の子はやっぱり学校に行かないといけないと思うの。学校に行って友達と遊んだり、女の子と仲良くなって恋人を作ったり、あなたにはそんな経験とかをさせたかったんだ。いつまでも私と二人こんな山奥にこもっての生活じゃなくて。本当はもっと早く教えたかったんだけど……私は子供とか育てたことなかったからさ……袮音を遠くに置いておくのが怖くて」

「……」


 袮音の目にはアリアがどこか照れ臭そうで、そしてどこかもの悲しげに映る。


 初めてアリアの本音を聞いた気がした。


 アリアに拾われてから袮音はかなり強くなれた。もともと無能と蔑まれ、何の才能も持たなかったのに、アリアのおかげで大きく成長することができたのだ。すべてはアリアの教えのおかげ。もしかしたら今回も同じことなのかもしれない。だから、アリアの言う通りにしてみようと思った。


「……わかった。魔法師学校に行くよ」

「本当!?」

「ああ。アリアの教えはいつも俺を強くしてくれたからな。だったら今回も聞かないわけにはいかないだろ」

「うう……袮音!!」

「わ!ちょ!だから飛びついてくるなよアリア!」


 素直に自分のお願いを聞いてくれた袮音にアリアはまたも感極まって抱きしめてしまう。嬉しさ爆発といった感じでまたその巨乳に埋もれた袮音は再度死の淵を彷徨いかけることになるのだった。




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