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憎しみ湧き立つ再会Ⅰ

一話で終わらせようと思ったけど、できなかった……


すまぬ!




 クラブ活動見学は月曜日から金曜日にかけて、五日間という期間に渡って開催される。さらに、その週末の土曜日と日曜日には自治会の役員試験が行われる予定だ。


 この一週間は新入生達が入学してすぐに体験することになるイベント期間の一つ。


 そんなイベント期間も、もう中盤に差し掛かった木曜日の朝。


 いつも通りの時間帯に目覚めた祢音は、これまたいつも通りシャワーを浴び、朝食を取り、学校への仕度をしてから、部屋を出た。


 いつも祢音が先に学生寮のフロントで炎理を待つのだが、今日は珍しいことに炎理の方が早く下で待っていた。


「……炎理の方が早いなんて珍しいな?今日は槍の雨でも降るのか?」

「朝からひどい言い草だなっ!?」


 友人関係も板についてきたのか、軽口を交わし合うほどには、二人の仲は良くなっていた。


 学園までの道すがら、祢音は炎理が早起きだった理由を尋ねる。いつもは待ち合わせ時間のギリギリになって現れるというのに、本当にどうしたのだろうか。


「それにしても今日はずいぶんと早いな?何してたんだ?」

「へへ!実は早起きして特訓してんだよ!週末の役員試験のためにな!」

「へぇ」


 自慢げに呟く炎理に、本当にやる気なんだなと感心する。不純な動機にもかかわらず、朝早く起きて努力するほど本気で生徒会に入りたいとは、炎理の生徒会長への憧れは本物だなと、ただの美少女好き(巨乳)の変態ではないのだなと、祢音は少しだけ反省した。


「それで?どんな特訓してるんだ?」


 役員試験に向けて、一体炎理がどういうトレーニングを積んでいるのか気になった祢音。隣を歩く炎理に聞いてみると、


「筋トレだ!月曜の夜から腕立て、腹筋、スクワット、毎日朝晩にそれぞれ千回ずつやってるんだぜ!」


 予想外の脳筋発言に、思わず、ズッコケそうになった。


「いや……お前、努力の方向間違ってねーか?」

「えっ!?」


 呆れた顔で祢音に指摘され、炎理はそんなバカなっ!とでも言いたげに目を大きく見開く。筋トレで本当に生徒会の役員試験に通ると思っていたかのような反応に、祢音は余計疲れたようなため息を吐いた。


「はぁ、あのなぁ~そもそも生徒会の役員試験の内容は入学試験と似たような形式なはずだろ――」


 生徒会の役員試験は筆記と実技。これは入学試験と似ているが、少しだけ、方式が違う。


 この武蔵学園の生徒会という組織は、通常の学校の生徒会と同じ、学校生活を送る上で問題点や課題などを改善・解決することを目的に組織されている。


 だが、それ以外に一つだけ、他の教育機関とは違った機能があった。


 それが、学園の運営機能を一部譲渡されて、学園運営に携わっているということだ。その為、生徒会の役員達に求められる能力はデスクワークに対応する頭と基準以上の魔法素養の二つ。


 また、学園の運営を携わることから、役員の一人一人は学園でも高い権限を与えられており、生徒会長に至っては場合によって、校長と同権限を持つほど。だからか、下手な人選はまずいということもあり、試験による能力の高い者の選出をし、さらには、最後に現役生徒会役員達による面接によって、最終選考する方式が出来上がった。


 ただ、これは高い権限が与えられている生徒会だけの方式であり、これが他の自治会――例えば風紀委員会など――では試験の成績だけで判断し、役員を選ぶことになっている。ちなみに風紀委員会の試験内容は実技だけであり、受験者達の戦闘力を競い合う、弱肉強食のお手本のような試験だ。学園の秩序や風紀、それに防衛を司る風紀委員会に、特に必要なのは単純に戦闘力なのだから、それも当然と言えば当然かもしれない。


「――だから、お前、筋トレって、生徒会の役員試験を受けようとする奴の発想じゃないぞ……勉強しろよ。あと魔法の修練をしろよ」

「う、嘘だろ、じゃ、じゃあこの三日間やってきた俺の努力は無駄だったてことなのか……!?」


 祢音の話をすべて聞き終えた炎理は愕然と口を開け、項垂れるように意気消沈していた。受ける試験の内容も把握していないのかと疑問はあるが、そんなことがどうでもよくなるほど落ち込むその姿を見て、不憫に思った祢音は少しだけフォローを入れる。


「あー筋トレもいつかは絶対にお前の役に立つさ。ただ、それは今ではなかったというだけで。……確か、生徒会の役員試験の筆記は土曜日だから、今日を入れてまだ二日ある。勉強とか付き合うから機嫌直せよ」

「うぅ!ね、祢音!お前は何ていい奴なんだ!こんなバカな俺のために!」

「わかったから、そんなに迫ってくるな!男にくっつかれる趣味はねーよ!」


 なんとか調子は戻ったが、感極まって、暑苦しく泣きついてくる炎理に、祢音は教室に着くまで対処に困るのだった。




 ♦




 その日の放課後。


 何事もなく一日の授業を終え、クラブ活動見学の時間が始まる。


 ここ最近のクラブ活動見学では、祢音、炎理、命とこの三人で回ることがデフォルトになっていた。


「祢音!命ちゃんのところ行こうぜ!」

「ああ」


 誘い文句を述べながら、席に近づいてきた炎理に、祢音は相槌を返して席を立つ。そして、そのまま炎理を連れたって、教室を出ようとした、その時。


「ちょっといいかしら?」


 教室の後ろ扉から、どこか聞き覚えのある声音で、そんな言葉がⅤ組の教室に響いた。


 声の主の近くにいた祢音のクラスメイト達は唐突に訪ねてきた人物を見て、驚いたように声をあげる。


「な、なんで、鳴雷先輩が一学年のクラスなんかに!?」

「うわっ!間近で見るとほんと綺麗……」

「あ、あの先輩!一体どういった御用なのでしょうか?」


 一瞬にして、教室の後方が騒々しくなった。困惑、感動、疑問などなどクラス中が喧騒に包まれる中、訪ねてきた当の本人である鳴雷紫苑はハイテンションな周りに若干困っていた。


 紫苑にとってはよく体験する光景なのだが、なにぶん、今は親友の頼みごとで来ている。だから、あまり待たせたくないという心情があり、ここで時間を食いたくはなかった。


 自分の一番近くにいた一人の生徒に紫苑は用事を済ませるために、尋ねる。


「無道祢音君という生徒はいる?少し彼に用があるのだけど……」

「え……あ、は、はい!た、たぶん前の方にいると思います!」


 突然、紫苑に声をかけられたことで、その生徒は一瞬テンパる。


 が、何とか身振り手振りも交えて、祢音の居場所を教えた。


「そう。ありがとう」

「い、いえっ!」


 最後に紫苑に感謝を伝えられた生徒はデレっと相好を崩して、離れていく彼女を見送った。


 後ろの方での騒ぎに気を取られて足を止めていた祢音と炎理。


 その原因が紫苑だと知り、さらには自分達に近づいてきたことに、祢音は何の用なんだ?と首を傾げ、炎理は憧れが目前まで来たことで、緊張からなのか、顔や体をカチコチに固め、完全に彫像と化す。


 眼前の距離まで迫った紫苑は二人、というよりかは、祢音に単刀直入に切り出した。


「無道君。少し生徒会室まで一緒に来てもらえないかしら?」

「……生徒会室?俺が?一体何の用なんだ?」

「少しあなたに会いたいって人達がいるのよ。来てもらえないかしら?」

「……」


 自分に会いたいという人物達に心当たりがない祢音。しばらく悩むも、さすがに先輩である紫苑の頼みを断るのも外聞が悪いと思い、その場で頷いた。


「……わかった」

「そう!助かるわ!」


 了承を見せた祢音に、紫苑は嬉しそうに破顔する。


 そのまま祢音は未だ固まって動かない炎理…………は放っておき、紫苑の後ろについて、生徒会室に向かった。


 


 生徒会室に向かう道中。


「無道君はもしかしてあまり敬語とか得意ではないのかしら?」


 途切れ途切れで間を空けながらも、会話をしながら歩いていた二人。その会話で、紫苑は祢音の口調が少しばかり気になったのか、突然そんなことを質問してきたのだ。


「……そうだな。敬語を使うような生活はしてこなかったから、得意でないのは確かだ。……悪いな、もしかして気に障ったか?」

「いえ、大丈夫よ。私はそんなこと気にしないわ。ただ……この学園の人にはそういうことに神経質な先生や学生が多いのよ。だから、少しだけ勉強することをお勧めするわ」


 神経質な先生や学生という言葉に、祢音は真っ先に宇都宮と碓氷を想像した。確かに、敬語が使えない程度であれ(・・)に絡まれるのは嫌だなと想像した祢音は、紫苑のありがたい忠告に慣れないながらも、敬語を取り入れ、感謝を示すのだった。


「わかった。ありがとう…………ございます」

「うん!早速心掛けるのはいいことね!」




 それから五分ほどして、二人は生徒会室の目の前まで辿り着いた。


「この中に俺に会いたいって人物達がいるんだ……ですね?」


 慣れない敬語で祢音は紫苑に尋ねる。語尾が微妙に変なのはご愛嬌ということだ。


 敬語を頑張って使おうとする姿に紫苑は微笑まし気な笑みを浮かべ、それに頷く。


「ええ、そうよ」

「……」


 自分に会いたいという人物。祢音はそれに見当がついていないが、なぜか無性に心がざわついていた。


 紫苑が自分のIDカードを扉の横についたスキャナーに翳す。すると、機械音を響かせ、生徒会室の扉がウィンと開いた。中に入っていく紫苑の後に祢音も続く。


 生徒会室の中。しかもその正面に祢音に会いたいという人物達がいた。


「……やっぱり……そうだったのね」

「な、なんでっ!?」


 誰に問うでもなく一人納得したように祢音を見つめながら、呟いた八頭身の美人。そして、祢音を見た瞬間に、信じられないとでも言うように驚愕を声に出したツインテールの美少女。


 祢音も生徒会室に入った直後に視界に入った二人の人物を認識した瞬間、意表を突かれたように、大きく目を見開く。さらに続いて、心に蓋をしていた憎悪が自身の制御を離れ、内に渦巻きだした。


 生徒会室で祢音に会いたいと言っていた人物達。


 それは祢音と血が繋がった、実の姉、焔魔紅音(えんまこうね)と血を分けた、双子の妹、焔魔朱音(えんまあかね)


 そこで待っていたのは自分のことを捨てた元家族達であった。




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