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第6話 U-チューバー軍団で大炎上

 私は夕陽を浴びながら、U-チューブをスマホで眺めている。

 メイド服のまま寝転んで、ホテルのベッドに甘えるばかり。

 ここでも、ミンチンは容赦なく叩かれているようだ。

 突撃者までが現れて面白い。

 ピーター・ポールなどは事件を起こしてくれた。

 私の予想を超えた炎上ぶり。

 笑いを漏らしてしまう。

 涙が零れてくる。心の痛みが激しくなってきた。どうしてだろう?




「どうもーっ。Gバターでぇす!」


 おどけるように両手を広げて、茶髪の三十路男が叫ぶ。

 自部屋で撮影をしているようだ。

 彼の名は、Gバター。

 U-チューバーの1人である。

 プロレスラーでもあるらしく、筋肉質な体を誇っている。

 人を煽るのが得意芸らしい。

 彼は語りだす。


「今回は、例の動画について話します。心が凄く痛んだわ。胸が締めつけられるような気分だよ。もう、ネチネチと陰湿極まりない嫌がらせをしているだろう。それも、相手は幼い子供なのによぉ。ミンチンは教育者失格と言われているけど、まず人間としてどうよ?」


「身寄りもなく、一文無しになった少女を預かったのはいい。どうせ、世間の目を気にしてのことだろうがな。思春期の女の子が繊細なのは、俺よりも知っているわな。それを言葉で傷つけ、顔まで叩きまくる。馬小屋に住まわせて、食事抜きのオンパレード?」


「マリア・ミンチン!」


「お前は、いい年をした大人だ。何をやっているんだ?」


「でもなぁ。ミンチンだって教育者として立派に働いてきた。あんたに心より感謝している教え子もいるらしいな。根からの悪じゃないと思うんだ。何が原因かは知らないけど、道を間違えてしまったと思う。人間だもんな。あんたなら反省できる。俺は信じているよ」


 しばらく黙ってから、Gバターは大声で叫ぶ。

 見ているだけで苛つかされるような顔芸だ。殴りたい気分にさせられる。

 ふざけた口調でまくしたてる。


「なぁんてな。嘘だよん。ミンチンよぅ。お前は反省なんて無理だ。なぜなら、お前は人間の屑だから。心が腐りきっているんだ。もう、てめぇは再起不能。そのまま、最底辺まで潰れるしかない。再就職先なんて見つからないだろうな」


「マリア・ミンチン!」


「お前は終わりだぁ。お前の味方なんて、どこにもい・な・い」


 Gバターは哄笑しながら、ミンチン女学院のパンフレットを取りだした。

 ライターを灯して、そいつを鼻歌混じりに燃やす。

 こうして、彼の動画は終わった。

 コメント欄を確認すれば、「便乗乙」や「安定の小物感」と評価されていた。

 物申す系のU-チューバ―は、全員が波に乗るように、ミンチンを叩きまくっている。そうして、高評価を稼ぐのだ。

 アクア・キャットしかり、ペイン・ダンカン・ドラゴンしかり。




「はいっ、どうも。ヴァーチャル・U-チューバーのアイです。本題の前に、ミンチン事件についてお話をしたいと思います。一言、物申す!」


 CGで描かれた美少女がハイテンション。

 露出過多めな衣装を着ており、甲高い声でマシンガントーク。

 生身の人でなく、CGキャラを使ったU-チューバ―も増えている。

 中年男性が演じている場合もあるらしく、地雷原でもあるとの噂。

 オーバーアクションで、眺めているだけで疲れそう。

 

「みんなの気持ちは分かるよ。ミンチン、許せないもんね。私だってオラオラオラで殴りたい。でも、学園に石を投げたりするのは犯罪だよ。落書きもアウト。サーバルキャットを連れてミンチンを襲わせようとした人もいるけど、動物さんに迷惑かけるのはいけないよ。弁護士U-チューバーのKUBOさんも仰っていたじゃありませんか。あと未成年者のプライバシーを晒すのも、めっだからね。もちろん、私も虐めは許せない。生まれたての人工知能だって、そんなの分かるもん。でも、私としては、みんなが捕まるのは悲しいんだから」


「さて、アニメ・魔法少女サクラについて語りますよっ。何とペンギンの女の子が魔法少女になるのです。ボクと契約して、(以下省略)」




「ヘイッ。みんなの人気者、ピーター・ポールだよ!」


 この動画に、私は登場している。

 何しろ、撮影現場にいたのだから。

 ピーターはアメリカのU-チューバ―だ。

 やたらと稼ぎ、億万長者であるらしい。

 受けるためなら何でもするせいか、評判は良くない。

 最悪と言っても過言ではないだろう。

 市場で買った魚介類を振りまわして、港町で暴れまくっていた。ペンギンのヌイグルミを、通行人へぶつけた。あげくのはてには、首吊り死体へインタビュー。

 まるで、猿みたいな男だ。


「ヘイッ。マックス。ジョバンニ!」


「おう!」


「マリア・ミンチンにジャスティスな制裁を加えてやろうぜ!」


「ひゃっはぁーっ!」


 ピーターは手下どもを引き連れて、ロンドンへやってきた。

 ビッグベンを背景にして、子供みたいにはしゃぐ。

 ふざけているような人達であるが、調査力は凄まじい。

 ホームズファイルという探偵団ともつながっているせいか。

 ミンチンは病院へ連れていかれた。

 アメリアが心配して、心労過多な姉を医者に託したから。

 入院までには至らないが。

 その場所を突き止めて、ホテルまで尾行してきた。

 学院で暮らすのは危険すぎる。警察も頼りにできない。ミンチン姉妹は少し離れた場所へ避難していた。私も同行して、彼女達の世話をしている。

 こいつらの落ちていく姿を見届けるために。

 ミンチンは帽子を深くかぶるも、彼らに見破られた。

 ホテルの前で大声をかけてくる。


「ヘイッ。マリア・ミンチン!」


「何ですか、あなたは?」


「ちょっと話があるんだ。ミンチンはセーラちゃんを虐めつくして、トラウマを心に深く植えつけた。それについて、詳しく訊きたいんだ」


「お姉様は疲れているのです。お願いですから帰ってください」


「セーラちゃんの苦しみは、その程度じゃないんだぞ。どれだけ彼女が苦しんだと思っているんだ。お前、分かっているのか?」


「少しは反省しろよ、ミンチン!」


「そこのメイドちゃんも、こんな女に奉仕するんじゃねぇ」


 ホテル前で騒ぐものだから、野次馬が集まってきた。

 砂糖に群がる蟻のようだ。

 スマホを向けて、興味津々に撮影をしだす。

 ツインターで実況でもするのだろうか。

 ピーターが私を興味深そうに眺めている。

 ミンチンが痛い目に遭うのは嬉しいはず。

 苛々する理由が分からない。

 マッチョなスキンヘッドが、ミンチンの胸倉を掴んで怒鳴りだす。

 いかつい黒人男性に迫られて、恐怖に震えている様子。


「児童虐待をしておきながら、被害者ぶるんじゃねぇよ。貴様がネットで叩かれているのは、セーラちゃんを傷つけた報いなんだよ。自覚しろっ!」


「何も知らない部外者のくせに」


「それが虐待者の態度かよっ!」


「マックス。こいつを使いな」


「サンクス、ジョバンニ。覚悟しろよ。セーラちゃんの悲しみを喰らえっ!」


 ピータ―の仲間に渡されて、マックスはクリームパイを顔面へ叩きつけた。

 アメリアは悲鳴をあげる。

 もっと、やれ!

 さすがに、やりすぎだろう!

 色んな叫びが、周囲から集中豪雨のように注がれる。

 ほとんどの人が他人事のように笑っている。撮っている。

 警察官らが駆けつけてきた。

 ここまで騒ぎを起こせば、通報されるのは当然のことか。

 マリア・ミンチンは走って逃げようとするも、つまづいてしまった。アスファルトに顔面を叩きつけられ、鼻血を零す。眼鏡も割れているようだ。

 みっともない姿をしているよ。

 

「あんた。ミンチンのメイドかと思えば、嬉しそうじゃないか」


 ピーターは私へ声をかけると、仲間の大暴走を止める。

 台本通りにしなければ困るじゃないかと、演技丸出しの台詞を叫ぶ。

 彼らは警察に連れていかれるも、ピーターは上手く釈放された。

 しばらく、イギリスに居座るつもりだという。

 いつものごとく、コメント欄は大炎上。ミンチンを痛めつけたことへの賞賛意見も多い。ぶっ殺してやれという煽りも散見された。

 ツインターを検索してみれば、今回の件で賑わっている。

 私も少しばかり有名人になっていた。



 マリア・ミンチンは入院している。

 ストレス過多で体を壊しきったから。

 ホテル代を渡されて、私は独りで安いところに泊まっている。

 アメリアは姉に寄りそっていることだろう。

 いつも、ビクビクしていたくせに。

 疲れてきたかも。

 セーラお嬢様と会いたいなぁ。

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