第4話 ワイドショーで大炎上
メイドさんにマイクが差しだされた。
顔をぼかされており、声も変えられている。
それでも、知っている人からみれば、ベッキーと分かるだろう。
十代半ばと思われる少女は、おずおずと答える。
「すみません。守秘義務があるので、その質問に答えることはできません。学園に石を投げてくる人もいるので怖い思いをしています」
「それは恐ろしいですねぇ。ありがとうございます」
ここで、インタビューシーンからスタジオへ舞台は移る。
ワイドショーは話題沸騰中の、ミンチン女学院事件を取りあげていた。
司会者の白人男性は、コメンテーターへ意見を求める。
U-チューブに投稿された告発動画を見せられ、マリア・ミンチンの行った虐待行為に関する解説を聞かされ、彼らは怒りに満ちている。
「同じ教育者として信じられませんね。それまで生徒であった子を奴隷のように扱うなんて。汚い服を着せて、他の生徒達に奉仕をさせる。子は大人の真似をするものです。ミンチンさんの態度を目にして影響を受けたのでしょう。少女は生徒達からも虐めを受けていたようですね」
「いくら反省のためとはいえ、馬小屋に放りこむとは。泥棒の件についても、確証はない。放火犯の容疑をかけて、暴力を振るうとは言語道断!」
「マリア・ミンチンといえば、女子教育に大きな貢献をされてきた方です。それだけにショックを受けますよ。これまでの発言は嘘だったのかと訊きたいです」
「やっぱり、狂っていますよ。顔を見てくださいよ。目はつりあがっているし、顔はぼぉっと浮いているし。これ、き●がいの顔ですわ」
「あのぅ。そういう発言はふさわしくないと思いますが」
「お気持ちは分かりますよ。ソルトさん。被害者の少女は、せんさいな年頃なのですよ。それが毎日のように怒鳴られて、存在自体を否定される。暴力まで振るわれていた。心の傷は広がっていき、深刻な影響を与えることでしょう。教育者ならば、その辺を理解できているはずなのに」
「本当に酷い話です。ここで、著名人の意見を紹介していきます」
司会者は話をまとめると、番組を進ませる。
生放送中に放送禁止用語を出されたせいか、眉間に皺が寄っている。
大型ディスプレイに、ちょい太った中年男性が映された。
起業家で有名なホーリエ・モーンだ。
ツインターでの書きこみが表示される。
【もう学校というシステム自体がオワコンなんだよ。同じ年頃の子供ばかりを寄宿舎に閉じこめて何年も過ごさせるのがナンセンス。閉じた場所だからこういう事件も起こるのは当たり前】
【ミンチンってやっぱ馬鹿だわ(笑)】
その他にも、数人の御意見が紹介されていく。
スポーツマンからコミックライターに渡る幅広いもの。
視聴者からのメッセージも、司会者に読みあげられた。
全てが怒りを露わにしたもの。
被害者少女への思いやりにあふれた手紙もあった。
涙を流しているゲストもいる。
「そろそろインタビューが始まりますね」
インタビュー会場へ舞台は移された。
マリア・ミンチンが項垂れた顔をうつむかせている。
その隣に座っているのは、妹であるアメリア・ミンチンだ。
パシャ、パシャ。
記者軍団は容赦なく撮りまくる。
フラッシュが目に痛そう。
質問が始まる。
「身寄りを失った少女を引き取ったのは立派だと思います。ですが、どうしてあのような酷い扱いをしたのか答えてください」
「彼女は1人で生きていく必要があります。厳しく教育したつもりが」
「ただの虐待にしか見えませんけど?」
「行き過ぎていたことは認めます」
「被害少女を放火犯として責めていましたね。何か証拠がありましたか?」
「馬小屋にいたのは彼女だけでしたから」
「どうして、被害少女を馬小屋で過ごさせたのですか?」
「泥棒の罰として」
「その証拠は? 彼女の話を聞いて判断したのですか?」
「それは」
「仮に窃盗を犯したとしても、行き過ぎた行為だと思いますよ」
「デュファルジュ氏の話によると、些細なことで彼女をぶったそうですね。体罰を日常的に行ってきたのですか?」
「それは遊んでいると思って」
「年少組の子にフランス語を教えさせた。童話を聴かせながら興味を引いた。それのどこが遊んでいると判断したのですか?」
「いや」
「その程度で暴力を振るうのは不適当かと思いますよ」
質問の形をとった弾劾は続く。
マリア・ミンチンは顔を青ざめるばかりで、何も答えられなくなっていく。
記者も大きな声で罵倒を叩きつける。
ここで、スプリングフィールド氏が立ちあがった。
神経質そうな眼鏡男子だ。
007という週刊誌の有名記者である。
端正な声を響かせる。
「虐めは、あってはならない。子供は宝物だから大切にしないといけない。女の子は繊細だから優しくね。全ては貴方の発言内容ですよ。ずいぶんと言動の不一致が激しいのですね。ミンチンさんの教育者としての信用は失われた。昔から裏で悪さをしていたかもしれない。そう疑われても、仕方がないでしょう。我々はミンチン女学院の過去について調べつくしますよ」
スマートな中年男性は歪に哂う。
まるで小鹿を眺める肉食獣のごとき双眸。
彼は容赦なく、言葉で心を抉る。
マリア・ミンチンは涙を流していた。
声も震えており、記者会見も続けられないだろう。
アメリアは不安そうに姉を支えている。
「感心できない行為ですがねぇ。投石や落書きで、ミンチン学院はゴーストハウスのようだ。それも貴方が招いたことですよ。Sさんを大切にしていれば、これまで通り尊敬されていたものを。これからどうするのか聞かせてくださいよ」
「わ、私が馬鹿だったのよーっ!」
堰が切れたかのように、ミンチンは号泣をした。
アメリアは、おろおろするばかり。
カメラのフラッシュが一斉に叩かれる。
スプリングフィールドは酷薄な笑みを浮かべていた。
このシーンは改造されて、U-チューブやペンギン動画に載せられることになる。ネット市民達は容赦をしてくれない。
自業自得だ。
心労で倒れてしまったミンチンの世話をしながら、ベッキーは笑う。
セーラお嬢様の顔を思い浮かべてしまう。
なぜだか、心が痛む。




