表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/31

第3話 セーラお嬢様との出会い

 そぉっとカーテンを開けて、窓の外を覗いてみる。

 ミンチン女学院をスマホで撮っている野次馬達が集っていた。

 ニュースやワイドショーにも取りあげられていた。

 すっかり、ロンドンの観光名所だ。

 あの女は記者会見に出るらしい。そこで、激しい弾劾を受けるのだろう。その様子を妄想するだけで、笑いがこみあげそうになる。


「ミンチン。さっさと出てこい!」


「世間を騒がせた罰として、土下座しろや!」


「殺害するぞ!」


 それらの声を皮切りに、罵倒の嵐が襲ってきた。

 この様子では、私も外へ出られないだろう。

 アメリアは通報するだろうが、警察官もマリア・ミンチンを嫌っている。この群衆を追い払ってくれるも、嫌味をぶつけてくるものだ。

 セーラちゃんは、もっと苦しんだのですよと。

 窓から離れておかなければ。

 投石する者までいる始末だから。




 こんな事態になるとは、あの日の私は予想もできなかった。

 心を過去へと戻らせる。




 私は何の取りえもない。

 ミドルスクールの成績は最下位だった。

 運動神経も悪い。

 ドジなうえに間抜けで、何をやっても失敗ばかり。

 顔も地味だし。お洒落にも疎くて、華やかさに欠ける芋女だ。

 クラスの誰からも相手にされず、虫みたいに隅っこで暮らしていた。

 義務教育を終えると働くことにした。実家も貧しい。ハイスクールに進めるだけの学力など持ちあわせていない。

 こんな私を雇ってこれる場所を探すのに苦労した。

 コンビ二やファーストフードの面接にも落ち続けるも、ミンチン女学院のメイドに採用された。猫の手も借りたいほど、人手が足りなかったようだ。


 ミンチン女学院へと向かうも、道に迷ってしまった。

 不安定な足取りで、石畳みを踏みしめる。

 ビルディングが建ち並んで、村との違いに圧倒されてしまう。こんな数の自動車が走っているなんて。スマホを手にした人の多いこと。


「あのぅ」


 田舎者丸出しの私を助けてくれたのは、キラキラな美少女だった。

 綺麗な服を着ているなぁ。

 青く澄んだ瞳を向けられて、胸の鼓動は大きく高鳴った。

 とても美しい子だ。顔立ちが整っているだけではない。品の良さというか、心の美しさが内面から現れている感じだ。

 目を奪われてしまい、すぐにも逸らす。

 彼女が引き連れている幼い少女ちゃんが、こちらを見上げてくる。

 ついつい、荷物を落としてしまう。拾ってくれようとする。汚いものを触らせるわけにはいかない。急いで抱えこむ。


「あのうミンチン女学院は、どこでしょうか?」


 彼女は指を差す。

 視線を向けると、ミンチン女学院と門の表札に書かれているではないか。

 幼女さんが、クスクスと笑う。

 それを少女が優しく注意する。

 ここに働きに来たことを彼女達へ伝えた。

 ぱぁっと花が咲き乱れたような笑顔を浮かべて、私の両目を覗いてくる。鼓動が跳ねあがって、体温が高くなってきそう。こんな気持ち産まれて初めてかも。


「私はセーラ・クルー。ミンチン女学院の生徒です。よろしくお願いします」


「私はロッティなの。よろしく」


「ベッキーです。よ、よろしくお願いします」


 私よりも年下に見えるのに、しっかりさんだ。

 心を和ませるような声に意識を奪われてしまい、幼女さんよりも挨拶が遅れた。

 ミンチン女学院の生徒だということは、すっごい令嬢様のはず。こんな私にも丁寧に自己紹介をしてくれるなんて。

 セーラさんは院長室へ案内してくれた。

 その間にも、どんどん話しかけてくる。

 人見知りな私は、きちんと言葉を返せない。内容が頭に入ってこない。

 横目でちらり。

 綺麗に伸ばされた黒髪からは、素敵な香りが漂ってくる。

 U-チューブやテレビで美人さんは目にしたことはあるけど、こんなに優しさと上品さがつまったような美少女はいなかった。

 こんな人がいる学園で働けるなんて、胸が高鳴ってくる。

 お嬢様は高嶺の花と感じるもの。セーラさんは私ごときにも、きさくに話してくれる。ロッティちゃんにも慕われているようだ。


「何ですか。この娘は? アメリア! アメリア!」


 マリア・ミンチという学院長は最悪だった。

 痩せて神経質そうな女性だ。

 私を見るなり、ゴミ虫のように扱ってくれた。

 彼女の前でこけてしまい、荷物をぶちまけるという失敗を犯したが。

 この日から、寄宿学校のメイドとして働くことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ