1.突然の目覚め(前世)
私には大好きなゲームがあった。
それは家庭用ゲーム機黎明期に発売されたRPGで、勇者が聖女など旅の仲間たちと魔王を倒す旅に出る王道ストーリーだった。
レトロゲームながらハイクオリティのアニメーションシーン、ゲーム音楽史に名を残すBGM、当時新人だった超売れっ子声優陣による名台詞、それに何より敵味方問わず魅力的なキャラクターたちに、私は心奪われていた。
今では知る人ぞ知る状態になっていたマイナーゲームだが、私を含め熱烈なファンのおかげで20周年ファンブックも発売され、移植ソフトの発売も決定し、私はこれからもこのゲームを愛し続けるぞー!と心を新たにしていた。
なぜ、いきなりこんな話を始めたかって?
それはもちろん。
わたくしの生きるこの世界が、そのゲームの中だったからですわ!!!
わたくしが目を覚ますと、そこは豪奢な寝台の中でした。
一瞬なにが起こったかわかりませんでしたが、すぐにここはわたくしのベッドであり、自室であることを思い出しました。
こんなことがわからなくなるなんて、ずいぶん寝ぼけてしまったようです。
そういえば今日はとてもおかしな夢を見たような……
なんだか頭がぼうっとして、ベッドから起き上がりもせずに夢の内容を考えていると、そばに控えていたらしいメイドが慌てて寄ってきました。
「お嬢さま、お目覚めになられたのですね! あぁ良かった! 今お医者さまをお呼びしますっ!」
テンション高くそう叫ぶと部屋を出て行ってしまいました。
お医者さま? わたくしはなにかケガをしてしまったのかしら。
そういえば体がとってもダルい。頭は覚醒しているのに指一本も動かせないレベルでダルい。これは以前やったオールカラオケ並の疲労感……
ってなんですかこの思考は!?
オールカラオケってなんですの!?
わたくしまだ6歳児なんですが!?
あまりの衝撃にパッチリ目が覚めました。
怖い! なにこれ怖い! わたくしの脳内に得体の知れないものが潜んでいます!
いやーっ、乗っ取られる! 私エイリアンとか触手が脳にズボッてされてぐちゃぐちゃーってされる系ホラー大っ嫌いなのに!
いや待て、落ち着くのよスカーレット。私はまだ乗っ取られてない。わたくしの体はわたくしの意思で動かせている。だから後はきっと精神力の強さが運命を決めるのよ。
『意思を強く持つんだ! 幽霊なんかに負けるんじゃない!』みたいなやつよきっと。
よし、まずは落ち着いて自分の記憶を確認しましょう。
「えっと、わたくしの名前はスカーレット・ハミルトン。タリア王国の創設から携わるハミルトン家の次女であり、現在は淑女教育真っ最中の6歳ですわ。
ここはわたくしのお部屋で、パッと見回すかぎり特に変化はないようですね。でもお花が増えて、ソファーの前には贈り物の山があるような……あ、メラニーお姉さまのカードが付いています。開けるのが楽しみですわ。
そういえば先ほど、メイドがお医者さまを呼んで出て行きましたわ。わたくしの身になにが起こったのでしょう……
いいえ、負けてはいけませんわレット!
ハミルトン家直系の娘として、わたくしは誰よりも立派な淑女になるのです。こんなことで弱音など……!
…って、ハミルトン? タリア王国? それにメラニー?
それってあの『ディザイア・ワールド』の地名や登場人物じゃなかったっけ。
つまり私は《聖女》メラニーの妹!
まじか!
……待ってください、聖女ってなんですの!?」
これまでの出来事を思い返していたら、またもや謎思考が入り込んできました。
しかも聖女? ゲーム?
疑問符を浮かべる端から脳内に回答が浮かんできます。
「確かにメラニーお姉さまは10歳ながらにお美しくてお優しくて大好きな自慢のお姉さまですが、そんな二つ名など聞いたことがございません!
え、未来の話? 数年後、魔王退治のために勇者が旅立ち、そこにお姉さまが同行する? そんな、あの華奢で妖精のようなお姉さまが魔王と戦うなんて!!!
あ、頭に血がのぼって目の前が真っ暗に…………」
「お医者さま、こちらです! ああっ、お嬢さま-!」
すかーれっと は めのまえ が まっくらに なった !