表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

泣き声

 特に問題が起きる訳でもなく、それなりに楽しんで順調に大学を卒業して1人暮らしをしていた俺の家の洗濯機が、つい先日壊れてしまった。

 このままだとコインランドリーで金を大量に持ってかれる事になっちまうので、急ぎ大型電気屋に洗濯機を買いに向かった。


 誰でも出来るだけ安く済ませたいと思うもので、隅から隅まで見て回り1番安い洗濯機を見付けて購入した。

 その洗濯機は本当に隅のかなり見づらい所に、僅か数千円で置かれていた。

 値段の割に、あまり使われて無さそうで新品みたいに綺麗な洗濯機だった。


 帰路に着く俺は、これで懐事情も安泰だと思うだけで、なぜこんなに安いのか考える事もしなかった。


 家に着いて設置を済ませた俺は、早速溜めてあった洗濯物を放り込んで動かしてみた。

 見た感じどこも問題なさそうでちゃんと作動している。


 よしよしと頷きながら居間に戻って来た俺の耳に、赤ん坊の泣き声が入って来た。

 ・・・隣のカップルが生んだのか?うるせぇな。


 しばらく鳴き声を耳障りに思いながら時間を潰す。

 洗濯が終わる頃には泣き止んでいたようだ。


 次の週の休みの前日、仕事から帰って来た夜中に1週間分の洗濯物を放り込んで洗濯機を回す。

 居間に戻った俺は、また赤ん坊の泣き声を聞いた。

 洗濯待ってる間に寝たいのに、勘弁してくれ。

 洗濯物は明日の朝干す予定だ。

 その日は疲れのせいか、あんまり気にせずに眠りに就くことが出来た。


 翌週も、そのまた翌週も、決まって俺が洗濯機を動かし始めた時に泣き声が聞こえ始めた。

 洗濯機の音が怖くて泣いてるにしても、そろそろ煩わしく感じて来る。

 隣のカップルに文句を言ってやろうかと思っていると、チャイムの鳴る音がしたので玄関に向かう。


 誰が訪ねて来たのかと思ってドアスコープを覗くと、隣のカップルが扉の前に居た。

 謝りに来たのか?そうで無いならちょうどいいから文句言ってやろうとドアを開ける。


 出迎えたカップルは俺の予想とは全く違い、心底迷惑そうに「赤ちゃんの泣き声どうにかなりませんか?」とかほざいて来やがった。

 なんで1人身の俺が赤ん坊育ててると思われるんだ?と言ったら「夜中にもあなたの部屋の方から聞こえて来て困ってます」だと。

 むしろ夜泣きで辟易してんのは俺の方なんだけどな。あんたらの子供が泣いてんだろ?って追い返してやった。


 それからも俺が洗濯機を回すたんび、赤ん坊の泣き声が隣から聞こえて来た。

 イライラしながら過ごしていた俺は、携帯を脱衣所に置き忘れた事を思い出す。

 携帯を取りに来た俺は、ふと違和感に気付く。

 泣き声が近すぎないか・・・?


 とても壁1枚隔てて聞こえて来る様な声量では無く、まるで同じ部屋で聞いている様な・・・

 耳を澄まして注意深く出所を探ると、洗濯機の方から聞こえる気がする。

 やけに安かった理由は・・・いや、まさかな。

 俺は恐る恐る近づき、蓋を開けて中を見る。

 そこには・・・普通に洗濯物が洗われているだけだった。


 だよな。そんな馬鹿な話がある訳無い。泣き声も止んでるみたいでおとなしくなったのかもな。

 胸を撫で下ろしつつ蓋を閉めた俺は、扉に向かいつつ目についた鏡を見て立ち尽くす。

 その鏡は扉の横、ちょうど洗濯機の真正面にある鏡で、室内の様子が後ろ向きでもよく解る。


 鏡の中で、閉めた洗濯機の蓋がゆっくりと開いていった。

 今度は耳鳴りがするぐらい大音量で泣き声が響き渡っているが、それすら耳に入らない勢いで俺の動悸は激しくなっていた。

 鏡に映る洗濯機の中から小さな手が伸びて縁を掴み、血に塗れた赤ん坊が這い出して来ていたから・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ