少女騎士
俺は王様から手切れ金? のような形で金貨二十枚を貰い、城門を抜け、城下町へ出た。
まずは金貨がどれほどの価値があるかを確かめねばと思い、誰かに聞こうとするも周囲の人々は忙しなく動いており、話しかける余裕などなかった。イメージするなら東京の帰宅ラッシュが一番しっくりくるだろう。
それともう一つ、気になるものがある。城の中から城門まで案内をしてくれていた騎士は顔面まで覆う鎧を装備しており、城門で別れたはず、なのだが。
見られている。
先程からもう二時間も。
少し速度を上げて歩くと騎士も同じく合わせてくる。俺はダッシュして路地裏に入り、追ってきた騎士と角でわざと鉢合わせた。
「な!?」
騎士の怯んだところ見逃さず、即座に兜を取り上げる。と、そこには。
「よっと、これ、で?」
「ひぁ!?」
美少女がいた。それもとびきりの。
いや、怪しいとは思っていた、他の騎士より明らかに低い身長、小さい鎧。だが、そういう男もいるだろうと内心納得していた節もあったため、まさかこんな少女だとは思わなかった。
「いてて」
可愛らしく尻もちを付いた少女に手を差し伸べる。
「大丈夫か? ほら」
少女は手を取り、他の騎士たちがしていたようにぴんと背筋を伸ばして礼を述べた。
「はっ! ありがとうございます」
背伸びをしている子どものようで微笑ましく思っている俺は決しておかしくはないはずだ。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「で、騎士さんはどうして俺を追跡していたんだ。王にでも頼まれたか?」
「はっ! 王命により、あなたの騎士になるようにと任務を受けました。ですが、騎士以外の男性にどう声をかけていいものかと戸惑い、こういうような形になってしまった次第であります! 申し訳ない」
ビシッと敬礼をしてからしおらしく項垂れる少女。てっきり命でも狙っているのかと思って警戒していたが、理由は随分と見た目通り可愛らしいものだった。
「そうか。じゃあ早速聞くが名前と、後は通貨の価値を知りたい」
「私の名前はアリル・ペンドラゴンであります。次に通貨は上から黒貨、金貨、銀貨、銅貨とあり、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で黒貨一枚。この国の一日の食費は平均銅貨三枚であります。平均年収が黒貨三枚なので、あなたが持っている金貨二十枚はおよそ年収に近い額であります」
「なるほど、ありがとうアリル」
「いえ、それであなたの名前をお聞きしたいのですが」
「ああ、まだ名乗っていなかったか。俺の名前は謳歌だ」
「ではオウカ殿、これからよろしくお願いいたします。若輩の身ゆえ、侮られることもありますがなにとぞお許しください」
アリルは俺の騎士になると言っていた。要は一緒に旅をするということであり、生活するということだ。
にしても礼儀の正しい子だな、と感心する。
「いや、それについては気にしないが。いいのか? 俺は男だぞ、女の子であるアリルと一緒に生活することになるのはわかってるよな?」
俺はアリルに確認をとる。もしさっき言ったことが間違いであれば……
ぼっ、とアリルの顔が真っ赤になった。そこで、やはり、と俺は思った。
そう、アリルは今のいままで気づかなかったのだろう、王命という強い効力の持った命令に拘束された思考が半ば溶けたのだ。さらに言えば騎士である彼女が女の子扱いされることもほとんどなかったかもしれない。
「だ、だだだ、大丈夫であります! その、しょ、しょ……!」
「いや、無理して言わなくていいからな。まあ王命通り付いてきたとして俺はアリルには一切手は出さないし、出すつもりも最初から無い」
「は、はいであります!」
王様よ、あんた人選ミスってるよ。この子は素直過ぎる。全く持って隠密どころかむしろ騙される側の人種だ。まさか最初から手を加える気なんてなかったのか?
結局謎は解けないまま、アリルに宿屋まで案内してもらい、そこで今後の計画を立てることにした。
☆☆☆☆☆
二段ベッドの上段には小柄な体躯を持つアリルが、下段には俺が。アリルの鎧は壁際においてあるため今のアリルは完全に女の子の姿である。二十歳の俺からしたら格好のタイミングなのかもしれないが、王様の前で人生の記録に触れた時から性的な部分はほとんど鳴りを潜め、ほぼ無欲の状態となっていて、興奮はおろか、胸の高鳴りすらないという常時賢者モードになっているのだ。
「アリル、今後についてだが」
「オウカ殿、私から一つ、提案が」
「ん? 言ってみてくれ」
上段から聞こえる言葉に耳をすませる。
「冒険者ギルドに登録するのが良いかと。各地の村、街、城下にギルドは点在しているので情報網も広く、また仲間も増やせます。依頼や討伐を達成すれば相応の報酬も受け取れるため、旅をするならおすすめします」
冒険者ギルドか、そういえばここへ来る途中もそれらしき風貌をした人と何度かすれ違った。皆、服のどこかに共通して二刀の紋章が付いたワッペンをつけていたがもしかしてあれかね。
「そうだな、他にあてもないし。よし、分かった、アリルの言うとおり冒険者ギルドに明日登録しにいくか」
「はい。では今日はもう明日に備えて休息を取りましょう。疲れは心身ともに鈍らせてしまいますからね」
彼女言うとおりだ。今日はいろいろなことがあったし、無意識下で疲労も溜まっているかもしれない。十分な休息を取るべきだろう。
それに人生の記録についても体にどれほどの負担がかかっているのかも分からないのだから余計気をつけなければなるまい。
次第に意識は途切れ始め、深い眠りについた。