取り返しのつかない道
俺はいつも道を間違えていた。
人生の大事な分岐点をものの見事に。
人生最期に見た光景は酷いものであった。横断歩道に突っ込んできたトラックに轢かれる寸前だった同い年くらいの少女を思いっきり進路の外へ押し出してそのまま凄まじい衝撃とともに暗転。
無論、暗転とは死んだという意味でとってもらって相違ない。
今、このような思考をしていることは先に言ったことを踏まえれば不可思議なことであり、当然俺自身も肉体が生きていた頃を思い出して防衛機制によって現実逃避している。そもそも現実かどうかも定かではない。実はこれまでのことは全て夢で、ふと目を覚ましたらいつもと変わらない日常を送っているかもしれないのだ。
『君は妄想たくましいね。まあそんな人間はいくらでも見ているからどうでもいいとして』
俺の脳内に突然声が聞こえてきた。いや、脳は無いか。
『その通り、君の肉体は無いよ。あるのは生前の記憶をフラッシュメモリのうように記憶した霊魂。つまりUSB魂さ。どうだい? 現代的な言い回しだろう?』
USB魂という奇妙な言い方に違和感を覚えるが間違ってはいないだろう。
そんなことより何故俺はここにいるんだ? 用件は?
『君は少々せっかちな性格だね。分かった、簡単に説明だけしようか。どうして君が霊魂の状態でここに呼ばれたかを』
それから謎の声の主は箇条書きを丸読みしたような説明を始めた。
内容はほとんどが非常識で理解しきれていない部分も多々ある。
一つ、肉体を失った霊魂は通常ならすぐに消滅してしまうが俺の魂は何故か消滅せずに残っていること。
二つ、謎の声の主が管理している世界の内部に異常が発生していること。
三つ、俺の魂には俺を含め十二の人生の記録が残っていること。
四つ、これらのことを踏まえ、俺の魂を管理している世界に送り込み、正常に戻してほしいとのこと。
『と、いった次第でね。今すぐにでも送り込みたいのだけど。いいかな?』
そもそも今の俺にはお前に逆らう方法なんてないんだ。拒否権なんてないんだろう?
『あはは、こりゃ手厳しい。…… そう、君には最初から拒否権なんてないのさ』
ならさっさと送ってくれ、どうせこれ以上話をしたところで変わることなんて何一つないんだから。
『やっぱり君はせっかちだねえ。分かった、すぐにでも送ろう』
途端、真っ暗だった視界に光が差す。だが、不思議と眩しいという感覚はない。恐らく肉体が無いことによる弊害だろう。
『またね』
そう聞こえた後に、俺の意識は光の中へと掻き消えた。