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才能(センス)の塊  作者: ぽんこつ
6/7

何でも屋と貴族街

ローベルト・レープが上機嫌(・・・)で帰っていった三日後。

俺は朝早く大通りの城門前に来ていた。


「なに用か。用がないならここを去るがよい」


若い門兵が高圧的な態度でこちらを見る。

城門脇に建てられた門兵の事務所兼休憩所にいる兵士もこちらを注視している。

だがそれも当然のことだ。

俺はマントを身につけてなければ、帯剣もしていない。

どこから見ても平民である。

そんな男が必要以上に城門に近付けば警戒するのは当たり前だ。

平民であればこの城門をくぐり王城アレンハイムに行く必要も貴族街に行く必要もまったくない。

基本この城門をくぐれるのは貴族だけなのだから。

だが今日の俺は違う。

くぐるための理由もその後ろ楯もちゃんと用意してある。


「すいません。ローベルト・レープ様の依頼で学園まで来いといわれまして」


「学園まで?」


いぶかしそうな目付きで睨む門兵に用意していた封筒をさしだす。

これはレープがエジル亭に依頼に来たとき置いていったもので、外にはレープ家の紋章、中身は俺の身分をレープ家が保証しレープ家が貴族街の学園に招く旨が記された書状である。

封筒に記された紋章を見た門兵は態度を改め


「失礼いたしました。それでは確認のため事務所にお越しください」


たとえ平民であっても貴族の招待者に対してでは態度が違う。

今までとは違い、一礼までして事務所を指し示す。

俺は「ありがとうございます」と頭を下げて返礼すると、一度封筒を懐に納めてから歩きだした。

短い距離でも貴族の紋章のついた封筒を手で持ち歩いては不敬だと処罰される恐れがある。

こんなところにも貴族と平民の身分格差は大きい。

平民は必要以上に貴族に対して気を配らなければならないのだ。


「こちらが招待状になります」


「確認させていただきます」


事務所の前で恭しく封筒を差し出すと、事務所にいた去年までの年をめした兵士とではなく、若い兵士が封筒を受って紋章を一瞥した。


「レープ家の紋章、確認いたしました。では開門いたします」


開門っ!事務所の兵士が大声をあげると城門前にいる兵士も、開門っ!と唱和する。

閉じられていた城門から跳ね橋が降りてきて、堀に橋を架ける。

俺はその光景よりも事務所の兵士が封筒を一瞥しただけで確認したことに驚いた。

去年までの老兵士とは違い、今年の担当はなかなか優秀な紋章官のようだ。

紋章は貴族の家ごとに違う。

アレンハイム王国の貴族だけでゆうに百を越えるはずだ。

それをこの若い兵士は一瞥しただけで確認した。

紋章官は貴族の中は珍しく才能(センス)のクラスよりも知識が重要な役職だ。

そのため、紋章官を目指す者も多くその試験は受かるのが難しいとされている。

(何でそんなことを平民の俺が知ってるかと言うとレープとは違うやはり同期の奴が、「紋章似すぎていて、ちがいがわかんねぇー」そうよく試験が近づくと頭を抱えていた)

城門前の事務所に派遣されていると言うことは難関の試験に若くして受かった証拠だ。

それも一瞥しただけでどこの紋章か判断できる回転の早さ。

優秀な若手が育っているのをみると俺が少し年を取ったのを再確認した。

第三支部のミリアといいここの兵士といい、まったく年はとりたくないもんだ。

嘆息している間に跳ね橋は降りきり、堀に橋がかかった。


「それではどうぞお通りください」


「ありがとうございました」


橋を渡り、城門をくぐり終えたとき後ろの方で閉門っ!の声と共に跳ね橋が引き上げられた。

これからが正式にアレンハイム王国の王都と定められている城壁内部。

王城アレンハイムと貴族街からなる王都アレンハイムだ。

城門を抜けるとすぐもう一度事務所がある。

今度はそこで封筒を出す。


「こちらです。よろしくお願いします」


「うむ、それでは内容の確認をさせていただいてもよろしいですか?」


「どうぞよろしくお願いします」


俺の許可を受け事務所の中の兵士は恭しく封筒を切り開らく。

中にいた兵士は城門事務所の兵士と違いそれなりに年を召していた。

素早く広げて読むとまた封筒に戻した。


「内容拝見いたしました。学園への案内は必要でしょうか」


いや、俺は何度も学園には行っている。

むしろ通っていたぐらいだ。

そうそう場所を忘れることはない。


「いや、結構です。学園へはなんども訪れたことがありますので」


封筒を受け取りつつ辞退する。


「そうですか。くれぐれも粗相のないようにお願いします」


恭しい言葉遣いとは裏腹に兵士の視線は、平民風情が余計なことはするなよ。言外にそんな意味を含んでいた。

まあ、この程度の平民と貴族の身分差からくるやっかみや軋轢は王都で暮らす以上切っても切れないものだ。

学園で十年、その後下町で十三年暮らした俺にとっては気にすることもない些細な出来事。

俺は笑顔を受かべ頭を下げ歩きだした。



貴族街といっても下町と大きく変わらない。

ただ家が大きく、庭がついていて、石畳がしっかり整備されて歩きやすいだけだ。贅沢をしたい訳じゃないが何かうらやましい。

だいたい貴族街というのも下町で平民が呼ぶ通称だ。

アレンハイム王は堀のついた城壁までを王都と呼称する。

その先の下町も外周部にあるモンスター避けの城壁も公的には王都に含まれない。もちろん税金は取られるが…

王都とは、王城アレンハイムとその城下までを指す。

だから貴族たちは自分達が住むところを貴族街とは呼ばず城下とだけ呼ぶ。

広大な城下を百数家の貴族の屋敷と才能教会、国に許可を受けた数件の商会の本部そして今回の目的地、学園。

それらで構成されているのが通称、貴族街だ。


学園はその貴族街でも一等地の中心部の大広場に面して門を構えている。

その為に中心部の四分の一が学園に占拠されている。

下町ではあり得ないことだが貴族街ではなにも問題はない。

貴族は基本平民が営む商店で買い物をしない。

もちろん下町の大通りでさえ買い物をしない。

かといって貴族が営む商店も存在しえない。

それは貴族にとって才能(センス)を磨き、クラスを上げ次代に継承することが第一命題であり、領地経営ですら二の次で、領地に平民の代官をたてて税だけ納めさせるなんて貴族はざらにいる。

たとえ平民が反乱を起こしても、才能(センス)を持たない平民がいくら束になろうとも、才能(センス)をもつ貴族にあっという間に鎮圧される。

貴族にとって平民は税を納めるものであり、遥か下の存在なのだ。

ゆえに貴族は屋敷に呼んで購入するか、王室から許可を受けた王室御用達の貴族街に商店を構える大商人の店ぐらいでしか買い物をしない。

商業用の土地が多く要らないため街の中心部を押さえているのは、学園、才能教会、大商人アグレール商会の巨大な百貨店、そして王城に至る広場となっている。

そんな中心部にある学園にやっと俺はついた。

説明、説明また説明。

全然進まない。大丈夫なのかな。

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