何でも屋と第三支部
「おつかれさまです」
王都下町第三支部との付き合いももうかれこれ十年近くになる。
かって知ったるなんとやら
挨拶ひとつでずかずかと上がり込む。
受付嬢のミリアがこちらに気づいた
「もう終わったんですか?」
ちょうど昼時だからなのか第三支部はすいていた。
早いですね、といいながらもミリアは素早く依頼完了用の書類を差し出してくれる。
何時もこの依頼の時は早く来るためにちゃんと用意してくれていたのだろう。
さすが第三支部の受付嬢、優秀だ。
「いつも通りばらしておいたので、運搬の作業はよろしく」
受付で書類にサインをしながらスコップを返すことも忘れない。
前に返し忘れたときは報酬からしっかりスコップ代金が引かれていた。
もちろん急いで返しにいっていくらかの罰金で勘弁してもらったが。
あのときはその余計な出費のおかげで家賃が払えなくなり危うくメリッサ六歳に宿を追い出されそうになった。
メリッサのジトッーとした目、ほんと冷たかった。
路地裏で六歳に土下座をする二十一歳。
ジルベルトが一言「三日待つ」
なんとこれが俺がジルベルトと会ってから聞いた彼の四会話目だった。
時に出会って三年目、三年で四回。
どんだけ無口なんだ。
でも鶴の一声、助かった。
メリッサは納得してないようだったがジルベルトに従い頷いてくれた。
なんとか猶予をもらった俺は急いで金策に走った。
ちゃんとメリッサのご機嫌とり用のおもちゃ代まで稼いだ。
おもちゃの効果でメリッサの俺に対するジト目は治った。
まったくもってよかったよかった。
「なにかほかに仕事とかありそうかな」
「ほかにですか。そうですね」
軽い気持ちで聞いた俺のために書類を探してくれているミリアもなかなかの美人さんだ。
なにせ王都の下町にある四つの支部の看板娘の一人。
平民における才色兼備の女性の花形、お嫁さんにしたい職業第一位、どんな客でも笑顔で癒す支部の受付嬢!
ミリアはその四つの頂点の席の一角をしめる、いわばスーパーエリートなのだ。
しかしそんなミリアでもこれまで浮いた話はあまり聞かない。
「ミリアちゃんは今年で三年目だよね」
「はい、そうですけど」
「ここの仕事って他の支部よりきついけどもうなれた?」
「そうなんですか?私はここしか知らないから。でももうなれました」
てきぱきと書類を調べながらも、何枚か書類を後の部署へと振り分けていく。
手慣れた動きだ。
ミリアは在位三年目になる。
これでも受付嬢としての経歴は結構ながいほうだ。
基本的に受付嬢の在任期間は短い。
その多くは寿退社となる。
支部の受付嬢になるには美貌もそうだが、経理の能力も求められる。
即戦力かつ客を引き付ける美貌。
ついでに支部とのコネまでついてくる。
お嫁さんとしてはまさに引く手あまた。
ミリアからしたら相手をよりどりみどりだ。
しかし何人もミリアにアタックして玉砕した噂は聞くが、ミリアが付き合っている噂は聞かない。
あせることもないのだろう。
まったくもってうらやましい。
三十代独身とは大違いだ。
ミリアも現在十八才ぐらいだからちょうど適齢期、むしろ少し遅いくらいだ。
そんな失礼なことを考えていると
「いやー、今日はグラウダさんに頼むような依頼は出てないですね」
「そうか、ありがとう」
すべての書類を見終えたミリアが笑顔で教えてくれた。
やはりミリアは優秀な受付嬢だ。
ミリアとは彼女が受付嬢をはじめてからの仲だが、二つ前の受付嬢から仕事を引き継いで以来、特に書類の遅滞や紛失もないせいか報酬もしっかり規定日に払われる。
ミリアの前の娘は、彼女よりも美少女ではあったのだが色々とおっとりしていて行動も遅かった。
その分、結婚は早かった。
二ヶ月もいなかったんじゃないか?
どこかの貴族さんの妾になったとか。
仕方がない。
貴族の誘いは平民には断れない。
その美少女は名前を覚える前あっという間にいなくなった。
その点、ミリアは貴族街にも店を持つ大商人アグレールの娘だ。
貴族も簡単に妾のするわけにはいかない。
実際問題、アグレールには十二才の後継ぎがいるがミリアは勝手に結婚することができないのだろう。
後継ぎが大商人アグレールの名を継げる商才がなかった場合、ミリアの夫になる男がかわりにアグレール商会とアグレールの名を継ぐ必要性があるからだ。
眉目秀麗で優秀なミリアにイケメンのクラル。
第三支部はまだまだ安泰だ。
第三支部は大通りの半分を管轄しているため客は結構訪れる。
なかにはミリアと話したいがために用事を作ってきてる人もいるくらいだ。
そろそろ人も増えてくるころだろう。
邪魔になる前に退散する。
「それではまた来月もお願いします」
「はーい、こちらこそおねがいしますね」
ミリアにかるく手を振って第三支部を出る。
今日は天気もいい。
馴染みの店にでも顔を出していこう。
おれは大通りからそれて路地裏に足を向けた
「ミリアさん、あの人って有名なんですか?」
グラウダさんが出ていってすぐクラル君が帰ってきた。
午前の外回りが終わってどこにもよらずにまっすぐ帰ってきたのだろう。
まじめな彼らしい。
「グラウダさん?あの人のことなら私なんかより支部長の方が知っているわよ」
「支部長ですか。うーん」
クラル君は支部長に聞くか悩んでいるようだ。
まだ支部に所属して三ヶ月に満たないクラル君にとって支部長と話すのは気が引けるのだろう。
ここはお姉さんが一肌脱ぐか
「グラウダさんが何でも屋ってことは知ってるわね」
「はい、それは頂いた資料に書いてありました」
ちゃんと資料を読んでいるとはどんだけまじめっこなんだこの後輩は。
イケメンで性格も真面目。
悪い女に引っ掛からないでこのまま真面目な性格で成長してほしいものだ。
私たち第三支部の女性も彼の女性関係には気を付けておこう。
「スキルが使えるから護衛とか色々な所で重宝されているようよ」
「スキルが使えるんですか!」
ほえー、と口を開けたままおどろくクラル君。
私も受付嬢をしている以上顔にはいささか自信があるが、彼は別格だ。
口を開けたままの間抜けな顔でもかわいい。
下町一、イケメンのクラルといわれるわけだ。
「何でも過去にちゃんと神器で才能を確かめて王国に公認されてるらしいわよ。お父様がグラウダさんを雇うときそういっていたから」
「へぇー、すごい人なんですね。スキルを使えるしグラウダさんって貴族様ではないですよね」
「違うと思うわ。お父様は元平民の星って言っていたから」
「平民の星ですか?どこかで聞いたことあるような」
クラル君が首を捻って考え込む。
平民の星。
それは二十数年前、国を揺るがした人物らしい。
らしいというのは騒ぎになったのが私の生まれる前、一時的に注目された人物で数年で忘れ去られたらしい。
らしいだらけなのは許してもらいたい。
私だって知り合ったのが受付嬢になってからの約二年前からその前の経歴はお父様に聞いた平民の星だけでそれ以上はよくわからないのだ。
「まあ、お父様より上の世代のかたにはそれなりに有名だから、支部長に聞く前にクラル君のお父様かお母様に聞いてみたらどうかしら」
「父さん話してくれるかな?竹細工のことだって見て覚えろで会話すらしないのに。母さんに聞いてみます」
「それじゃあ、お客様が見えたからクラル君は裏に入って休憩してね」
はいっ、と返事をしてクラル君が事務所の裏に入っていった。
さあもうひとがんばりしますか。
「いらっしゃいませ。第三支部にようこそ。どのようなご用件ですか」
叩き台。
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