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才能(センス)の塊  作者: ぽんこつ
3/7

何でも屋とどぶさらい

「グラウダ、何年だ」


カウンターの向こうで親父がなにかを呟いた。

俺が今座っているのは下宿している宿、エジル亭の一階にある食堂のカウンター一番端の席、俺の十年来の特等席だ。

えっ、親父いまなんかしゃべったのか?

あまりの衝撃に柄にもなく動揺する。

このカウンターの向こう側で豆の鞘をもくもくと剥いている親父は俺が下宿している宿、エジル亭の主人ジルベルトだ。

彼は滅多に口を開かない。

今の呟きも俺の耳の錯覚だったかと思うくらいだ。

ジルベルトは喋らない。と思っていたから彼の呟きを完全に聞き逃してしまった。

昔は家賃のこともあり事務的な会話位は交わしていたが、今は一人娘のメリッサが回収にくるおかげでジルベルトとはここ数年ろくにしゃべった覚えがない。

実際今のは本当に彼の声だったのか。

俺の聞き間違えか?


「えっ、何て言ったんだ」

「・・・・・・」


ジルベルトは下を向いてもくもくと豆の鞘を剥いている。

少し待ったが、ただ豆を剥く音だけしかきこえない。

メリッサは買い物にでも行ったのだろう食堂には男二人しかいない。

沈黙がながれる。

やっぱり俺の勘違いか?

そろそろ依頼の時間だ。


「行ってくる」


こっちから久々に話しかけた。

ジルベルトはこちらを向かずもくもくと豆を剥いてる。

いったいなんだったんだ?

そんなこと考えている間に時間がなくなる。

依頼に遅れるわけにはいかない城門に急ごう。

エジル亭を急いででた。


今日の依頼は月一の定期の依頼。

下町組合第三支部の依頼だ。

王都の下町は大きく分けて四つに分けられる。

城門前の大通りから右、左、奥、奥。

大体そんな感じだ。

第三支部は大通り右側周辺の組合だ。

まあ城壁内の貴族街と違い大雑把な枠組みでしかない。

今日の依頼はどぶさらい。

月一だがとても実入りのいい仕事だ。


「クラウダさん、今月もよろしくお願いします」


待ち合わせ場所の城門前で声をかけてきたのは、第三支部のクジラくん?

だったかな。

第三支部のきっての若きイケメン。

前回から依頼の伝達人が彼に変わっていた。

つまり今回で二回目だ。

何の変哲もない木のスコップも彼が持つとどこかかっこいい。

彼のおかげで第三支部の加盟店が増えたらしい。

それって大丈夫なのか。

他の支部とかもめないのか。

もめたらもめたでまた仕事が増えるだけ。

不安になるがまあ俺には関係ない。


「第三支部のクラルです。では終わったら報告は第三支部にお願いします。僕は次の現場にいかないといけないので」

「了解です」


クラル君は俺に木のスコップを渡し、そのまま大通りの向こうに去っていった。

あぶない、あぶない。

そうそう、クラル君だった。竹細工屋のイケメン倅だ。

何でも屋は心証が大事。

とくに第三支部は俺にとって上客だ。

いい印象を持たれている方がなにかと仕事がしやすい。

たしか彼はメリッサの年代で一番のイケメンだとかなんかとか話していた覚えがある。

メリッサと同年代なら十五、六才だろう。

支部の職員になるには一応実家の修行を終わらせてからになるから、まだまだ支部の職員としてはしたっぱだが顔が良いので支部の広告塔として走り回させられているんだろう。

かわいそうに、イケメンも大変そうだ。

平民には基本名前しかない。

だから彼は本来、竹細工のクラル。

メリッサはエジル亭のメリッサ。

俺は何でも屋のクラウダ。

そう名乗ってやっと誰だかわかる。

でないと同じ名前のやつが多すぎて区別がつけられない。

だが彼はイケメンのクラル。

それで通じる。

彼は下町全体でそういう存在だ。


「さてやりますか」

ここにいても仕方がない。

木のスコップを担いで仕事場に向かおう。

どぶさらいは単純な仕事だ。

どぶを木のスコップで掬い掃除する。

だが、俺のどぶさらいの依頼は普通とはすこしちがう。

王都の城門の堀に沿って大通りから奥に進むととたん異臭が鼻につく。

月一毎回来る仕事場だ。

城壁に空いた穴の下にうず高くなったヘドロの塊が鎮座していた。

貴族街から垂れ流されたゴミや汚物が山のようだ。


「あいかわらずひどい。臭いもひどいが量もひどい」


木のスコップで山を軽くつつく。

表面はどろどろだが内部はカッチカッチでびくともしない。

こんなもの木のスコップではなく、貴族が持つという希少な金属でできたスコップでないと崩せそうにない。

だからこそ、俺の仕事になる。

木のスコップを持ち集中する。


「スラッシュ!」


スコップを叩きつけられたゴミの山が真っ二つに別れる。

臭いしぶきが飛ぶが気にしていられない。

うん、この大きさならあと二、三回で十分だ。

スコップでスラッシュ。

スコップでスラッシュ。

スコップでスラッシュ。

あっというまにゴミの山はバラバラになった。

手で運べる大きさなのでこれ以上はもういいだろう。

あとは運ぶ作業の方の仕事なので今日はもう終わりだ。

スキル四回で終わり。

簡単な仕事だ。

体にとんでついたヘドロが臭い。

第三支部は大通りにあるから着替えた方がいいだろう。

こんな臭いところからは早くおさらばだ。


どぶさらい。おわり




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