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才能(センス)の塊  作者: ぽんこつ
2/7

何でも屋の朝

グラウダは王都の下町で有名な何でも屋だ。


王都アレンハイムは円状に広がる都市構成をしている。

中心に王城アレンハイムを配し、王城を守るように貴族街が囲み、さらに堀のついた城壁がこれらを守るようにグルリと配置されている。

平民が堀のついた城壁の内部に入るにはアレンハイム建国の記念日か帰属と契約を交わしている商人、または貴族に奉公している者など特別な許可がなければ入ることができない。

そのため平民の大部分は堀のついた城壁で隔てられた外側に作られた通称下町で暮らしている。

下町は城壁に三つある城門の内もっとも大きな城門から続く道を大通りとして発展しておりそこから左右に城壁の堀を覆うよう家々が建ち並ぶ。

下町の外周部にもモンスター避けの城壁が存在しているためだ。

二重の城壁が王城を守る都市、それが王都アレンハイムだ。

グラウダは大通りから少し入った路地にある宿、エジル亭の二階を住まいとし下宿し、一階の食堂の一角を借りて何でも屋を営んでいる。


グラウダは弱冠七歳のとき、その才能(センス)を村を統治する領主に認められ、才能(センス)を正確に審査するため王都に連れてこられた。

グラウダの名はこの日を境に王都で暮らす人々の記憶に焼きつくこととなる。

グラウダが王都に連れてこられたのは才能(センス)を持つ者を裁定する武器が王都にしか存在しないためである。

才能教会が所蔵する才能(センス)を持つ者が手にすると光り輝くとされる武器の形をした神器である。

神器とよばれる名の通り才能教会で大切に保管、管理されている。

神器を教会の外に持ち出すことが許されるのは年に一度、王城の大広間で行われる学園の入学審査の日だけであり、たとえ王の世継ぎが生まれ、その正統性を示すために才能(センス)を確かめる王位継承権の儀式さえ神器を王城に借り受けることはできず教会の神殿を訪れて儀式を執り行う必要がある。

才能教会の権威はとても高く、教会に仕える神官の地位は貴族に準ずるとまでいわれる。

ゆえに才能教会は貴族街に建立され、神官は貴族街に住んでいる。

神器が光輝くときのみ才能(センス)が公的に認められる。

アレンハイム王国に属する貴族にとって神器とは子が生まれた時、貴族と認められ家督を継承するために才能(センス)の有無を確かめる高貴なものである。

才能(センス)がなく、受け継ぐべき爵位も領地もない平民が神器を手にすることは滅多にない。

だが滅多にないというだけで手にする方法はいくつかあるにはある。

例えば、商人が多額の寄付を教会に行い、その貢献に応じ非公式で神殿内で貸与されることや、多大な功績を残した冒険者が貴族の紹介と教会の承認を経て訪れその才能(センス)を試す。

多くの経験を積んだ冒険者の場合、気がつかず埋もれていた才能(センス)により特別な訓練もなしにスキルを行使できる場合があるからだ。

ほかにはスキルに似た力を行使できる場合には、特例で才能(センス)を確かめられる。

平民は神器に触れることができないためたとえ才能(センス)が眠っていたとしても、確かめることもスキルを身に付ける訓練をすることができない。

だから平民の多くは本人さえその才能(センス)に気づかず一生を終える。

だからこそ決まっている、平民には才能(センス)などないと。

これがこの世界の絶対的な理だ。


グラウダは付近の村一帯の土地を統治する貴族の領主の紹介で学園に入学するため急遽審査が求められた。

そのため彼は、王城の大広間でなく教会で神器を手にすることになった。

王候貴族たちはグラウダを気にもしていなかった。

確かに七歳と若いが王国の歴史上才能(センス)を示した平民は存在する。

そのいずれかも高位のクラスに至った者は存在せず、功績をたて才能(センス)を示し貴族に任じられた者もいるが貴族全体の才能(センス)からしたら下から数えた方が早い、低いクラスの者しかいなかった。

グラウダの審査もなにごともなくおわるはずだった。

だが、グラウダが初めて神器を手にしたとき、その異次元の才能(センス)を世に知らしめた。

神器は五種類ある。

剣、槍、杖、弓、盾の五種類。

才能(センス)を持ち得るのは基本一人一種類だ。

過去、剣と盾の二種類の才能(センス)をもちえた者は確認できる限り、アレンハイム建国の王、アレンハイム一世のみである。

アレンハイム一世は剣と盾の高位スキルを使いモンスターを払い、この地を根城にしていたドラゴンすらも討伐して、この地に王国の礎を築いたとされる一代の英傑である。

偉大なる功績をもつ建国の王すら霞むほどの才能(センス)に、王都を衝撃が駆け抜けた。

グラウダは五種類全ての神器を光らせることに成功したのだ。

その教会からの報告を受け、全ての王侯貴族が戦慄した。

ついに恐れていたことが起きたのだ。

劣等種たる平民の中から優良種たる王侯貴族をも越えうる才能(センス)を持つ者が現れたのだから。

王都は上に下にの大騒ぎになった。

貴族の権威を守るためグラウダ暗殺計画までもちあがった。

しかし、グラウダの噂はあっという間に王都に駆け巡り平民の希望になっていた。

建国の王すら越える才、それが一地方の農村からでたのだ。

絶対の身分制度を破り得るもの、平民の星。

王都の下町に住む平民は熱狂した。

王侯貴族はこの事態を重く見たが、もはやグラウダを取り除くには平民の激しい反発が予想されるため暗殺にまで踏み込めなかった。

アレンハイム王国は時間稼ぎととりあえずの様子見のためグラウダの学園への入学を許可した。

才能(センス)こそ唯一の入学条件としているため拒否はできなかった。

グラウダは五種類の才能(センス)をもつ、超天才として平民の星として鳴り物入りで学園に入学した。




「朝です、そろそろ起きて下さい」


元気印の可愛らしい声と眩しい光が微睡んでいた俺をたたく。

二度寝のお誘いを振り払い、朝の光と元気な彼女の声にせかされベッドからむくりと起き上がる。

この年になってまで若い子に叱られたくはない。


「顔洗って降りてきてくださいね、ご飯できてますから」


彼女は部屋のカーテンを開け窓も開けるとベッドから起き上がった俺をチラリと確認してから部屋を出ていった。

彼女の名前はメリッサ。

この王都では珍しい母親譲りの紅い髪を短く揃え、少しつり上がった勝ち気な目をしたしっかり者の少女、この下宿エジル亭の跡取り娘だ。

確か今年おんとし十五才。

俺とはもうかれこれ十三年来の付き合いだからメリッサが二歳の頃から知っている。

おしめもかえたあげた。

(これ言うとメリッサの機嫌は急降下する)

そんな付き合いだから俺にとってメリッサは姪っ子みたいなものだ。

俺が鳴り物入りで王都の学園に入ったのが七歳、何だかんだで卒業できたのが十七歳、それからこの下宿に来て十三年、俺もとうとう三十代だ。

貴族になるのを期待して村から送り出してもらったはいいが。

今ではこんな生活だ。


「グラウダさん、早く降りてきてくださーい。今日は何でも屋の定期の依頼の日ですよー」


だから起こしてあげたのに!と階下でメリッサが何やらぶつぶつと文句を言っている。

確かに今日は毎月定期のおいしい仕事がある。

けっして遅れるわけにはいかない。

急いで顔を洗うために一階の洗面所に向かう。

一応メリッサに断りをいれてと、


「いまいくよー」

「はやくしてくださーい」


返事が早い、メリッサけっこう怒ってる?

うん、急ごう。


そんないつもと変わらない朝



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