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二転

「それは大変だったわねえ」

 自他ともに認めるバイセクシャルの脇田は、大げさに同情してくれた。

「それで追い出されちゃったの? 柊くん」

 柊はこの脇田と顔を合わせるとき、

「モンモンと大紋を背負っていても、お得意さまはお得意さま」

 と心中で繰り返すことによって限度以上の自制心を引き出すことにしている。

 脇田は金払いのよい上客であるし、なにかと柊の世話を焼こうとするのだが、ときどき濡れたような瞳で柊のことを見るのだけは止めて欲しかった。

「いやあ。

 もともとあのマンション、ペット厳禁なんですよ。

 それを社長ったらあの調子で、

『大丈夫大丈夫。

 なんとかなるもんよ』

 なんていって強引に商品を飼っておくもんだから」

 とはいうものの、特に深く考えることもなく、住み込みで商品の世話をしていたのは他ならぬ柊自身なのである。

 柊の勤務先は表向き、個人輸入代行業者、ということになっている。

 が、実際にやっていることはといえば、非合法な輸入代行業者である。

 扱っている商品は、ある国際協定に抵触する種類のものだった。

「いやあ、不動産屋のおやじ、すっかり怒りまくっちゃって。

 もう大変す」

 へらへらと軽い口調でいう様子は、さほど困惑した様子でもない。

「ふはははは。

 今日明日中に出て行け、って」

「うぅぅぅん。

 こんなに可愛いのにねえ」

 首に巻いている全長三メートルは軽く超えるアナコンダのチョロチョロ動く舌にキスをしながら、脇田はいった。

「なんなら、さ。

 うちの会社が扱っている抵当物件のどれか、お世話してあげましょうか?」

「お、お気持ちはありがたいですが……結構です」

 脇田なんかに個人的にお世話になってしまったら、いろいろな意味であとが怖い。

「一応、まだあてがありますから」

「あら、そう?

 いいのよ。

 別に遠慮しなくても」

 断じて、遠慮、などではない。


 そのとき、柊がスーツの胸ポケットにつっこんであった携帯が、クワイ河のマーチを奏でた。


「す、すいません。

 そろそろ、次の約束の時間が迫っておりますので。

 今日はこれで失礼します」


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