2話目 唐突にメイド
それは突然だった。
朝、私がいつものように眠い目をこすりながらベッドから出て、二人分の朝食を作り自室にこもっている魔女のもとへと食事を運んだ。
それから朝食をゆっくりと時間をかけながらはらの中におさめ、少しの休憩を挟んでから掃除をはじめようかと考えていたときであった。
普段滅多にたたかれることのない家の扉がノックされた。
ちょうどほっと一息着いたときになったその音が、いったい何なのかはじめはわからなかった。なにしろほとんど訪ねてくる人などいないのだ。時々、魔女の怪しい知り合いが訪ねてくるくらいで。
だから今回もその類だと思ったのだ。
私はためいきをつきながら重い腰を上げると、玄関扉を開けた。
その瞬間、固まった。
「えっと......どなた?」
目の前には質の良い生地のメイド服をまとった女性がいた。にこやかな人好きのする笑顔で静かにたたずんでいる。尖った耳には青色のピアスがキラリと光っている。
どう考えても、こんな辺境の村にいるような人物ではない。雰囲気からしてもかなり力のある悪魔なのは間違いないだろう。少なく見積もっても、魔界の首都である魔都にいそうな感じである。行ったことないけど......。
「はじめまして、リリィ様。お迎えにあがりました」
洗練された笑顔で、目の前の美人さんはとんでもないことを言い放った。
「え、迎え...?って、どういう...」
「申し遅れました。私、レライエと申します。魔都の王城からやって参りました。今日は、リリィ様にあることをお願いしたいのです」
魔都の王城。それはつまり魔界を統べる魔王の住まう城。そんなところからやってきたということは、魔王か、それに連なるものに仕えるものだろう。
「お願いとは?」
「実は大変申し上げにくいことですが、現在我が主、魔王『リリィ様』が行方をくらましておりまして......。名前も容姿も似通っておられるあなた様に少しの間『魔王』をやってはいただけないかと...』
「はい?」
今なんて言ったこの人(悪魔)。
魔王が行方をくらましたから、少しの間私に代わりをしてほしいだって...?
バカですか!?