7
「時間がないから……歩きながら」
説明してくれるのだろうか?
他にアテもない俺は、とりあえず少女のあとをついて歩くことにする。
ホールウェイの校舎を右側面から見あげる位置へ回り込むと、少女は俺に手を差し出した。
手のひらを上に、黙って俺を待っている。
手を繋げってことか?
ズボンでごしごしと手のひらを拭ってから、少女の手を掴む。
少女は俺の手を引いて、校舎へと歩く。
当然高い壁に阻まれ、穴も何もないそこから中へ入れるわけがない。
「お、おい、そっちは門!」
ぞわりと寒気のような感覚と共に、俺たちは門をすり抜け、学校の敷地へ入った。
「……え!?」
慌てて振り向くと、穴も何も空いていない門塀がある。
「大丈夫?」
少女は俺を見上げ、不思議そうに首をかしげた。
いや、不思議そうにするのは俺のほうだと思うんだが。
「大丈夫だけど、今のどうやって……」
「教える。耳かして」
「あ、ああ」
素直に屈んで、耳を近づけた。
だが、何故か少女は、俺の顔を掴んで正面から見つめ合うようにして……
「ん……」
少女の柔らかい唇が俺の唇へと重ねられた。
突然のことに否定の意も肯定の意も示せずに固まる俺の口内に、少女の舌が入ってくる。
ぬめぬめと暖かい舌が、口内を探るように動く。
少女の髪から、人工的な爽やかで甘い香りがした。
至近距離で密着する身体は、ひんやりと冷たい。
つーか
「長えよ! なんなんだよいきなり!」
叫んで少女を突き放す。
そんな俺の様子は意に介さずに、うっとりとした笑みを浮かべる少女。
「おいしかった」
「おいしかった、じゃねーっつの!」
「これで大丈夫だから……探してる人のとこ行きなよ」
「大丈夫って何がだよ?
純夏がどこにいるかわからねーし……」
少女が腕を真上に挙げると、俺の身体が地面から三十センチほど浮き上がった。
苦しいなど、不快な感じはしないがちょっとした浮遊感がある。
「先に行って休んでる。
その子のとこまで飛ばすね」
少女が校舎を指差すと、俺の身体は物凄いスピードで少女の指差す方向へ滑空するように飛んで行った。