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「りっくん、落ち着いて聴いてね」
純夏は静かに、そして悲しそうに言った。
「わたし今、別次元の地球にいるの」
「……は?」
たっぷり二十秒以上間を置いて、というか、二十秒以上考え込んだが純夏の言う意味が良くわからずに訊き返した。
何? 別次元?
ネトゲか?
「わたし、別次元の地球の魔法学校に転入したの!」
「あー、うん、ちょっと待て」
純夏は、ゲームはあまりしない。
ゲーム機の類は3DSしか所持しておらず、ソフトは脳トレとどうぶつの森とnintendog'sのみ。
別次元の地球とか、魔法学校とか、そんなことを言い出すファンタジー脳になるような物はない。
本の趣味は、普通の恋愛小説に推理小説、たまに純文学。
あまり突飛な設定の話を読んでいるのは、見たことがない。
つまり俺の知る限り、そんなおかしなことを口走るようになる要素はないはずなんだが……。
「校名は、ホールウェイ魔法学校」
純夏は魔法学校の話を続けた。
まさか本当なのか……?
いいや、そんなバカな。
「純夏、どこにいるかよくわかんないんだけど、帰ってはこれないのか?」
「うん、ダメみたい。
強い結界が張られてるみたいで……」
余計に話がややこしくなりそうなので、純夏の話を遮った。
「純夏は、こっちに戻ってきたくないのか?
おばさんやおじさん、聖や俺や友達に会いたくはないのか?」
「……年末年始と夏休みと春休みには会えるよ」
「俺は嫌だからな!
こんないきなりいなくなられて納得できねえよ。
俺、料理できないし」
「りっくん……」
「なんとかならないのか?
その結界とかいうのは」
「りっくん!」
純夏の強い声に、今度は俺の声が遮られた。
「りっくん、どうしてもまたわたしに会いたいなら、りっくんもこっちの世界にきて。
そして、ホールウェイ魔法学校を訪ねてきてほしいの。
わたしがイギリスにいないことを知っているりっくんなら、こっちにもこれるはずだから」
純夏のその言葉を最後に、通話は切れてしまった。