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「わかってるって。
てか、俺は見惚れてねーよ」
箒を動かす手を早める。
飯野は突っ込まれてもまだ純夏を見ていた。
「水瀬、好きな奴とかいんのかな〜……。
何色のパンツはいてんのかな。
白か……? いや、ピンクとか水色かもしれない。
まさか赤ってことはないよな!?」
バッと振り返った飯野を、無視して掃除を続ける。
「待てよ?
別に赤でも良くね?
意外とエロくて、頼めばヤらせてくれるってことも……」
「だから、水瀬は男だからエロいに決まってるだろ!
絶対一日三回は抜いてくれる!」
我慢しきれなかったのか、飯野の話に乗り出した後藤を尻目に、俺は掃き溜めたゴミをチリトリに乗せた。
飯野も後藤も、なんだかんだ言って純夏のファンクラブの一員であり、毎日のようにこんな妄想を垂れ流しているのだった。
「お疲れ、机運ぶの頼んだ」
チリトリに乗ったゴミを捨て、妄想トークをしはじめた二人に軽く声をかけて帰路に着いた。
と、まあ、昨日まではこんな調子で純夏についての妄想を聞き、純夏の差し入れを食い、純夏とメールのやり取りをしていた。
ところが、今朝、毎朝一緒に登校するはずの純夏は、俺を迎えにこなかった。
放課後、純夏の様子を見ようと、水瀬家を尋ねると、純夏の母親の純子さんは苦笑して俺に言った。
「律斗くん、何言ってるの。
純夏はイギリスに留学しているんじゃない」