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「はー、疲れた……」
掃除用具を一番奥の扉へ仕舞うと、男子トイレを後にした。
「お疲れ様、りっくん」
俺の後ろを歩く純夏が労いの声をかけてくれる。
あの騒ぎの後、教師たちが駆けつけ俺と純夏は校長室へ、あの女生徒は保健室へそれぞれ連れられて行った。
俺と純夏は厳しく叱られた後、罰としてトイレ掃除を命じられたのだった。
相手からふっかけられた喧嘩なのに、と思わなくもないが、まあ、そもそもあの女生徒を怒らせてしまったのは俺なので甘んじて罰を受けた。
純夏はお説教だけで済んだが、俺を手伝ってくれた。
「それにしても、まさか俺まで入学させられるとは思わなかった」
校長室で手渡された新品の制服と生徒手帳を掲げ見る。
「あんなすごい魔法使ったんだもん。当然だよ」
「すごいっつてもな……。
あれ、本当に俺がやったのか?」
「りっくんの持った杖から出たんだもん、りっくんの魔法だよ」
イマイチ納得できないまま、指定された寮の部屋のドアへ手をかける。
「りっくん、二人部屋なんだからノックしなきゃ」
「あ、ああ」
確かに、いきなり開けるのはよくない。
純夏に言われたように軽くノックする。
返事はない。
「寝てるのかな?」
「開けてみるか」
俺は校長からもらった鍵を使い、部屋のドアを開けた。
部屋の中にある二つのベッドの内の一つに、裸の女が布団も被らずに寝ていた。
咄嗟にドアを閉める。
「何? どうしたの?」
俺の後ろで見えなかったのか、純夏が小首を傾げて俺を見上げた。
「いや……お、俺、思ったより疲れてるみたいで、せっかく同室の奴がいないし、ゆっくり休みたいな、なんて」
何故か純夏にあの光景を見られるはまずいと感じた俺は、そう言い訳をした。
「あ、ごめんね、気づかなくて。
あんな魔法使ったんだから疲れちゃうよね」
続けて俺の部屋の掃除をする気満々だった純夏は、わかりやすくしょんぼりとした顔をする。
「純夏は悪くないから気にすんな」
純夏の頭を軽く撫でてやる。
「うん、二時間くらいしたらお夕飯の時間だから、早めに食堂に行こうね」
ほんのりと頬を染めた純夏は、俺に向けてにっこりと笑った。
思わずドキリと心臓が高鳴る。
男とわかっていても、純夏の笑顔には人を魅了する力がある。
まあ平たく言えば、かわいいってことなんだが。
「またあとでな」
俺は純夏が部屋へ戻るのを見届けてから、自室へ滑り込んだ。