10
「手加減してたのはこっちだから。
次は本気でいく」
足が動かなくなった。
見下げると、純夏を拘束した物と同様の光の輪が俺の足首にはまっていた。
目の前の女生徒は、そんな俺を嘲るように笑うとブツブツとなにやら呟きはじめた。
呪文ってやつか!
これ逃げないとヤバいんじゃないのか?
ヤバいんだよな。
拘束するってことは、必ず当てる気だよな。
さっきの火の玉だったりしたら、死ぬよな。
必死で足を動かそうとするが、足はまったく動かない。
「終わりだなー」
「つまんね、あの野郎いいとこなしかよ」
「土御門の本気って、俺らも離れたほうが良くないか?」
ギャラリーは止めるでも助けるでもなく、高みの見物を続けている。
逃げようともがく俺の足元へ、細い木の枝のような物が転がってきた。
これは……
「杖?」
幸い、動かないのは足だけなので杖を拾い上げる。
「りっくん、わたしの杖を使って……!」
相変わらず苦しそうに純夏が言った。
そうは言われても、使い方なんてわからない。
だが、やるしかない。
女生徒はまだ呪文を言い続けていた。
「りっくん、落ち着いて、目を閉じて、深呼吸して」
純夏の言う通りに目を閉じるが、さすがに落ち着くことはできなかった。
「胸の底に、ピリピリと電気みたいな物を感じると思うの」
純夏の苦しげな声が続く。
「そのピリピリをゆっくりと指先へ移動させて、発動したい魔法のイメージを浮かべながら杖を伝わせて放出する……」
純夏の言うピリピリというのは、俺にはよくわからなかった。
それでも、魔法のイメージを必死に思い浮かべる。
この騒ぎのそもそもの元凶であるあのツインテールのように、身体を透過させる?
純夏のように障壁を発生させて、相手の魔法を打ち消す?
いや、無効化するだけではダメだ。
おそらく、ジリ貧になるだろう。
相手の魔法を打ち消すか防ぐかしつつ、反撃しなければ。
魔法を吸収して、そのまま放出するような……そんなのできるのか?
女生徒の呪文が終わった。
女生徒の様子を窺おうと目を開ける。
特大の光球が、俺の視界いっぱいにせまっていた。
――殺られる!!
そう思った。
腕からゾワゾワと血が引いていくような感覚が指先へ移って行く、その感覚は指先を通過し、杖を伝わり……
純夏から借りた杖の先端から、眩い光がほとばしった。