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女生徒は懐から杖を取り出した。
純夏が息を飲むのがわかった。
なんだ? 何をしてくるつもりだ?
周囲に集まっていた生徒たちの話し声が聞こえてくる。
「土御門が喧嘩するみたいだぞ!」
「珍しいね、っていうか、はじめてじゃない?」
「相手誰だよ? あんな奴いたっけ?」
「なんにせよ相手に勝ち目はなさそうだな」
「学年トップが相手じゃなあ」
「りっくん、逃げて!!」
純夏が周囲の騒ぎに負けぬような大声を張り上げた。
周りの空気が、女生徒の構えた杖を中心に渦巻くのを感じた。
ザワザワと身体中の毛が逆立つような感覚に包まれた。
なんだかヤバい予感がする。
キン!
鋭く高い音と共に、杖の先からバスケットボールほどもある火の玉が三つ現れた。
火の玉は、ゴウゴウと音を立てて俺に向かってくる。
呆然とする俺の前に、何か複雑な模様のかかれた分厚い本を構えた純夏が躍り出た。
その本から障壁が発生し、火の玉を防ぐ。
障壁は一球、二球と火の玉を消滅させ、三球目を消滅させると、燃え尽きて灰となり床へさらさらと舞い落ちた。
「土御門さん、りっくんを許してあげて!
わたしも一緒に謝ります!」
懇願する純夏に、女生徒は杖の先を向けた。
「許せない。
講習の面前であんな不埒な真似をした奴なんて!」
女生徒がそう叫んだ直後、純夏が菫色の光の輪で拘束された。
「あっ!」
純夏はしまった、というふうな声を出すが、もう遅い。
緊縛がキツいようで、身動きを取ろうとしても少し身を捩るくらいしかできていない。
そのまま、女生徒が降る杖の方向へ飛ばされていく純夏。
「純夏!」
「だ、大丈夫だよ、りっくん」
純夏へ呼びかけると、苦しげな返事が返ってくる。
純夏へ駆け寄ろうとすると、俺の足元に光球が放たれ床を穿った。
「人の心配をしている余裕があるの?
あなたからは一寸たりとも魔力を感じられない。
本当にここの生徒?」
上手い言い訳が思いつかずに黙り込む。
つーかやっぱ魔力とかあるんだな。
……こいつの話が本当なら、俺にはないっぽいが。
「お前の感覚が狂ってんだよ。
手加減してやってんのがわかんねえの?」
思わず言い返してしまった。
女生徒は下唇を噛み、さらにキツく俺を睨む。
言わなきゃよかった。
さらに怒らせてしまったようだ。