何故か修羅場になったみたいです
「本当にカリナさんは強いですね」
光莉は少し前を振り返るように言った。
「えー、そんなことないよー」
闘っていた時の黒いオーラは消え、ヤバイ感じはなくなっていた。今はとてもほんわかしている。
「さすが三大妖精の攻撃専門の方だわ」
光莉がここまで褒めるなんて珍しい。
いつもは自分にも同じくらい出来てしまうので、褒めることがない。
「うんー、ありがとうー」
それをどう受け取ったかわからないが、カリナは感謝の言葉を口にする。
「後はユウナやな」
僕たちは今から三大妖精の防御専門、ユウナを探しに行くことになっている。
「結構距離あるよねー」
カリナは例の感覚のことを話した。
「確かに。でも行くしかないやん」
どのくらいの距離あるのだろうか。
「遠いのか?」
またジャングルみたいな所を通るとしたらとても面倒だ。僕らがこっちの世界に初めて来た場所がいきなり迷宮だったのだから。
「あっち方向だねー」
そう言ってカリナが指差したのは……。
「僕ら、あっちから来たけど⁈」
そう、ジャングルの方向。僕らが少し前にいた場所だ。
「もしかして、カリナさんとユウナさんはほぼ逆方向に居たってこと?」
光莉が指差した方向を見て言った。
「そーなるなぁ」
知っていたのだろうか?ローナは別に驚いた表情もせず、普通にしていた。
「どうしてユウナじゃなく、カリナを先に選んだんだ?」
距離がほぼ同じだったらどっちに行っても良かったはずだ。もしかしたら、逆の方向に行くことでもっと時間短縮出来たかもしれない。
「そりゃあ、お前らが闘えんからや。うちも含めてな」
そうか。僕らはまだこっちに来てそれほど経っていない。
「敵が出た時僕が倒せば良いってことだねー?」
「そーゆーことよ」
カリナがローナに聞き、頷きながらローナは答えた。
「意外と考えてたのね」
ここで光莉の毒舌発動。初対面の人には敬語だが、ある時突然この喋り方になる。何かスイッチでもあるのだろうか?
「意外とってなんや!意外とって!」
いや、お前バカだし……。そのままの意味だろう……。
「だってただのバカだと思っていたもの」
光莉は僕と全く同じようなことを口にした。
「確かにー、ローナはバカだよねー」
ついには三大妖精の攻撃専門にまで言われてしまった。なんか可哀想だな……。
「なんや!カリナまでバカにするんか?うちをバカ呼ばわりするんか?」
うん、妖精の中でも結構有名な話なのだろう。仲間に言われるなんて相当ってことだろうな。
「まあ、気にすんな。治りはしないだろ」
僕はトドメを刺すように言ってやった。これは空に浮いている時、僕の腕を離そうとしたフリの仕返しだ。
「なんや、皆して!うちをいじめて楽しいんか?」
だんだんキレてくるローナ。
「ええ、楽しいわ」
ドSの光莉はどんどん攻める。
「良いんか?そんなこと言って良いんか?」
何やらこっちが不利になるようなことでもしようとしているのだろうか?
「良いわよ。何言ったって」
凄い言いようだ。
「うちはもう助けんぞ?それでも良いんか?知らんぞ?」
どうやらお前らでやれってことらしい。前もこんなことあったような……。
「大丈夫よ、カリナさんいるし」
光莉は言葉の攻撃を全くやめない。
「…………」
どうやら何も出てこないらしい。この勝負の軍配は光莉に上がったらしい。
「おおー、良いものを見してもらったよー」
途中から傍観者となっていたカリナが言った。
「おい、少し言い過ぎじゃないか?」
光莉はスイッチが入るとなかなか止まらない。だいたい相手が折れてしまうのだ。可哀想なことだ……。
「ええもん。ええもん。うちは一人でもええもん」
まだ言うかこいつ。
「もう良いだろ?ほら仲直りして、最後の一人を探そうぜ?」
僕は光莉とローナの仲を仲介しようと思った。
「お前は良い奴だ、こいつと違ってな」
ローナは僕の腕を掴み、光莉を指差して言った。
「おっ、おい、やめろって」
いきなり腕を掴まれた僕はビックリしていた。
「お兄ちゃん、離れて」
ヤバイ。本格的に喧嘩が始まりそうだ。
「何や、別にええやろ?」
ローナは上目遣いで僕に聞いてくる。関西弁でつるぺた幼女を大きくしたようなローナは全くタイプではないが、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「あー、顔赤いよー」
なっ⁈こんな時になんてこと言ってくれるんだ!
カリナは状況がわからないのか?火に油を注ぐようなことをしやがって。
「今すぐ離れなさい!でないと容赦しないわよ」
光莉の目の色が徐々に変わっていく。これはマズイ。僕もどうにかローナが掴んでる腕を振り回して外そうとするがなかなか上手くいかない。
「ええやん、抱きつくくらい」
くそっ。ローナの性格が愛莉みたいになっていく。
「もう!お兄ちゃんも何やってるの?」
「え、え?な、何って、腕を外そうと頑張ってるんだよ……」
ブンブン振り回す。しかし、効果無し。
「良い加減にしないと怒るわよ……」
光莉の後ろから炎が出ているかのようで、今にも焼け殺されそうだ。
「こわいなー」
少し離れた場所にいるカリナは他人事のように言った。実際他人事なので仕方ないが……。
「おい、カリナ。光莉を止めてくれ」
僕は光莉を止める要請をカリナにした。しかし、
「今度は僕がその子の実力を見る番だよー」
こんな状況で何言ってんだよ!くそっ、頼りになるのかならないのかわからん奴だ。
「抱きつくくらいええやろ。それとも何や?お兄ちゃんを取られる思っとるんか?」
ポッ
光莉の顔が一気に真っ赤になる。
「そ、そそ、そんなこと思ってないわよ。私は妹が好きであってお兄ちゃんのこ、ここ、ことなんて……」
光莉は酷く動揺しているようだった。
あの件から様子がおかしい。僕と愛莉のことが好きだった昔に戻ったみたいだ。
「でもぉ、実際はどうなんやぁ?」
ローナは光莉の弱みを握ってますます調子に乗り出した。
「も、もう、良いだろ!やめろって!」
僕は言葉と共に腕を勢いよく振り払った。
「きゃっ!」
その力でローナは吹っ飛んだ。
「すまん、大丈夫か?」
尻餅をついていたローナに僕は手を貸した。
「やっぱりお兄ちゃんはそういうのに気があるんだ……」
何を勘違いしてるんだ。自分で振り払ってしまったから、手を貸しただけだろ?何がいけないんだ。勘違いしないでくれよ!
「いや、そんなことは……」
とても修羅場になっている気が……。
「じゃあ、何や?うちは嫌いってことか?」
あー、もう!何でそうなるんだよ!
「違うって!」
ピクッと光莉の耳が動く。
「やっぱり……」
怒りの炎が拳に……。
「おおー、修羅場だねー」
ちっ、助けてくれないのかよ。傍観者のカリナめ。
「ってことはやっぱうちのことは好きなんやな?」
「いや、それも違う……」
僕が答えた瞬間ローナの顔が一瞬にして曇った。
「お兄ちゃんがそんなのだから私が大変なのよ!」
そう言って光莉は近くにあった気に思いっきり拳をぶつけた。
ズザッベギベキベキドッバーン
木は真っ二つに割れ、近くの地は二つに割れた。
「おおー、やるねー」
全く違う趣旨で見ているカリナが言う。
「すみません……」
これ以外は口から出ない。僕だけ何か理不尽だよ……。
「「ふんっ!」」
さっきの一件からローナと光莉はこんな感じだ。お互いを見ようとしない。
「いやー、大変だねー」
自分には関係ないことだからいつもよりのびのびと言っているように聞こえる。
「もう、大変どころじゃないって」
何で助けてくれなかったんだと言いたかったが、こいつには意味がないと直感で悟ってしまった。
「お兄ちゃん、行こっ」
僕は光莉に腕を引っ張られる。
「あっ、お、おう」
おっとっととなったが、体制を立て直し、腕を引っ張られるがままに歩いて行った。
「残念でしたー、そっちじゃなくてこっちやー」
あっかんべーとやってローナは光莉を挑発する。
「むぅー」
光莉は口を閉じてほっぺを膨らませる。道を間違えて嫌な言い方で指摘されたのがムカついたのだろう。
僕たちは今、三大妖精の感覚を頼りに進んでいるだけで、地図を見ているわけではない。よって三大妖精ではない光莉が道を間違えるのは仕方のないことなのだ。
「そっちも違うよー。本当はこっちだよー」
この間延びした喋り方の主、三大妖精の一人カリナは丁度二人の間くらいを指して言った。
「もう、しっかりしてくれよ……」
こんな三人がいるこのチームは大丈夫なのだろうか。心配なことだらけで不安がどんどん大きくなる。
「本当に合ってるんだろうな?」
僕は不安になり、カリナに尋ねた。
「うん、たぶんねー」
たぶんかよ⁈何でこんな奴らばかり三大妖精とか呼ばれるんだよ……。もっとしっかりした奴が味方にいてくれれば……。
ガサガサ
後ろの草陰から何やら物音が聞こえた。
ガサガサガサガサ
「何だ?」
草陰から頭を出したのは……、ネズミだった。
「何だ、ネズミか。こっちの世界にも普通のがいるじゃないか。ビックリした……」
「これはネズミ型爆弾や!伏せろ!」
な⁈爆弾?僕は頭を抱えてローナの言う通りに伏せた。次の瞬間、
ドッカーンと大きな音を立ててそのネズミ型爆弾は爆発した。威力はと言うと、辺りのものが吹っ飛ぶくらいに強力のものだった。
「くっ、皆、大丈夫か?」
僕は全員の安否を心配した。
「うちは平気や」
ローナは大丈夫そう。
「僕も大丈夫だよー」
カリナも大丈夫っと。この二人は少しくらいの怪我では死んだりしないだろう。回復のエキスパートもいるし。
「光莉?おい、光莉!」
光莉からの返事がない。辺りはまだ砂煙で全く見えない。
だが、光莉からの返事がないってことはもしかして……。
僕は最悪のことを想像しようとしていた。いや、光莉だぞ?そんなことはあるわけない。
「うっ、お、お兄ちゃん。私は、ここ……」
小さく声が聞こえた。少し離れた場所からだった。
「大丈夫か?」
返事があったのは良いが、少し痛がっているような声だった。
「うん。少し怪我しちゃったみたい」
とっさのことで反応しきれなかったのだろう。僕もあと少して身体ごと持っていかれるところだった。
だんだん砂煙はなくなっていき、視界は良くなっていった。
「うちはちゃんと言ったんに……」
何か言ったか?ローナが小さい声で何か言ったような……。
⁈
「だ、大丈夫か⁈」
砂煙が収まるとそこには足の骨が完全に折れている妹の姿があった。
「う、うん。何とか……、ね……」
バタッ
光莉はその場に倒れて動かなくなってしまった。
僕は慌てて近寄り、身体を起こした。目立った外傷は足の骨折だけだが、頭からも血が出てる。吹っ飛んだ後に地面に頭をぶつけたのかもしれない。それで気を失ったか……。
「お、おい、ローナ。早く治癒の魔法を!」
僕はローナに言った。
「んー」
何を渋っているのだ?
「どうした?早くしてくれ。光莉が死んでしまう!」
「うち、こいつ治すの嫌だ」
⁈
「な、何言ってんだ!」
治すのが嫌だだと?こんな時に何を言っているんだ。
「だって、うちのことはいじめたやん。だから天罰を受けたんよ……」
ローナの目は死んでいて、光莉に目を向けようとはしない。
「そ、それは……」
何も言い返せなかった。光莉の性格は知ってる。しかし、ローナに対して言ったことも覚えている。だけど!
「頼む!大事な妹なんだ!僕の大事な妹の一人なんだよ!」
光莉と愛莉は大事な妹。それは誰にも侵されない絶対事項だ。
「うん、わかった……。やるよ……」
ローナは渋々承諾して回復の呪文を唱えてくれた。
「まさか、あんなものまで使って来るとは敵は、ちょっと本当に僕たちを殺そうとしているのかもねー」
そう言うのはカリナ。
ネズミ型爆弾。あれは目標の地点まで気付かれずに行き、それであの火力で敵を混乱へと落とし入れるために使われるらしい。
「何でそんなものを使ってきたんだよ?」
基地でじっとしているわけではない僕たちに使って来るのは相手がとても焦っている証拠らしい。
「魔王の復活をじゃまされたくない……、とかー?」
一瞬真剣な表情をしたカリナだったが、すぐほんわかしたいつもの表情に戻った。これはマジパターンらしい……。
「多分それやな」
光莉の治癒を終えてローナがこっちに戻ってきた。
「光莉は大丈夫だったか?」
回復のエキスパートがやったんだからたぶん大丈夫だろうが、一応念のために聞いた。
「うちがやったんや、どんな怪我でも治すわ」
妖精なのに関西弁の彼女は腰に手を当てて言った。
「そうか……。ありがとう」
気を失った時は死んでしまったのではないかと思ったが、どうやら治ったみたいだ。
「けど、頭の中が少しやられてしもうたわ。少し治癒が遅かったかもしれん」
…………。こいつの腕を持ってしてもそれだけの怪我だったってことか……。だが、命を繋げてもらえただけありがたい。
「たぶん大丈夫だろう。あの光莉何だし」
僕もあまり気にはしていなかった。光莉は常人の域を完全に超えてるからな。一歩間違えれば、人間じゃないかもしれない。
「どうしたの?お兄ちゃん?」
そこへ、光莉が歩いて来た。
「もう、大丈夫なのか?」
ローナのお陰で怪我はすっかり良くなっているようだ。
「うん。それより、早く愛莉を探さないの?」
ん?何を言っているんだ?お前はさっき怪我をして治してもらったばかりだろう?
「もう動いて大丈夫なのか?」
おかしいな。無理することはないはずなんだが……。
「とにかく愛莉よ。愛莉が一番大切なんだから、こんなところで休んでない!行くよ!」
んん?何か、性格が戻ってる。いや、こっちの世界に来る前の性格に戻っていると言った方が正確だ。僕の言うことを全く聞かず、妹のためなら無茶をしてしまう光莉に戻ってしまった。
ああ、昔の光莉のままで良かったのに……。兄を頼ってくれる妹で全然良かったのに……。
「これやったか……。頭に少し残ってしまったのは。すまんな」
「いや、気にするな……」
気にしてくれ……。せっかく昔に戻れたと思ったのに、直ぐに元通りかよ……。お兄ちゃんは辛いぜ……。