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どうやらうちの妹が覚醒したようです

「んっ、んー。ん?」

バッ

僕はすぐ起き上がる。どうやら気を失っていたらしい。

「生きとるかぁ?」

気が抜ける声で妖精が聞いて来た。

「あ、ああ。大丈夫。そ、それより、ネズナイトは?」

僕が気を失っていた時間何があったのだろうか。近くには光莉が周りをキョロキョロしている。

「あいつ等は妹が全部倒したで。圧倒的だったんやで。見してやりたかったわぁ」

記憶を辿るように言っていた。それ程まで凄かったのだろうか?

「あっ、お兄ちゃん、気が付いたんだ」

僕が起き上がっているのを見つけたらしく、こっちに向かって来た。

「もう、いきなり気を失っちゃうからびっくりしたよ」

いつも無関心な妹が僕のこと心配してくれたのだろうか?

「お兄ちゃんがいなくなったら愛莉が悲しむじゃない」

…………。あぁ、やっぱりそうだよな。はは、光莉はそうだよな。僕のことは特に何とも思ってないよな。

「まっ、無事で何よりや。こっちに来てすぐ死にました何てシャレにならんからな」

笑い事で済ましてくれるのは良いが、お前が闘っていれば良かったんじゃないかと思う僕。

「とにかく今はもう敵はいないわけだな?」

それは確認しないと安心できない。ネズナイトはわざわざ目の前に出て来てくれたから良かったものの、不意打ちだったらどうなっていたかわからない。

「一応周りにはいなそうよ。準備が出来たらすぐ行きましょ」

「あの……、僕、頭が少し……」

クラクラする。いきなり立つのは危なそうなんだが……。

「行こうね?」

光莉の妹LOVEが狂気に満ちている目をしていた。これ以上何か言うとヤバそうだ。

「はい…………」

結局僕は頭がクラクラしているのに歩くことになった。

「別に休んでも良いんやけど」

なっ、なんてことを言っているんだよこの妖精は⁉僕が頑張ろうとしているのに……。

「え?休む?」

光莉の目には光がなかった。

「だってこいつフラフラしとるで」

僕は右に行ったり左に行ったりと相当フラフラしていた。だが、光莉に殺られるよりまだマシだ。

「何を言っているの?大丈夫だよね、お兄ちゃん?」

冷たい視線が僕に向く。

「はい、大丈夫です……」

それ以外の答えは受け付けないという目をしていた。

僕は妖精に近づき、光莉に聞こえないように言った。

「おい、僕のことはいい。これ以上光莉の妹LOVEを妨げるようなことはしない方が良いぞ。妹のためなら何でもやるから、あいつ」

一瞬不安そうな顔をしたが、すぐに戻り僕の顔を見て頷いた。

どうやらわかってくれたらしい。この妖魔世界で最も恐ろしいのは魔王ではなく、妹を取られた光莉だってことが……。

「うっし、行くかぁ!」

声を張り上げて妖精は言った。


僕はフラフラしながら何とか二人について行った。だいぶマシにはなったがまだたまにふらつく。

そう言えば、僕は何個か聞きたいことがあった。

「なぁ、妖精さんよ?」

妖精の肩を叩いて言った。

「何や、しんどいんか?」

意外と僕のことを気にかけてくれているらしい。

「いや、違うけど」

表情は一転してむすっとした。

「じゃあ、何や?」

「愛莉から包丁が飛んできたとき何かやったか?」

一番初め、愛莉が魔王に取り付かれて僕を襲った時だ。五、六本の包丁が僕の目の前で不思議な力によって弾かれたのだ。

「ああ、あれか。危なかったなぁ。お前」

少し上の方を向き、思い出しながら言っている様だった。

「やっぱり、そうだったか」

何をしたかはわからないが軌道がいきなりずれたので自然の力ではないことはわかっていた。

「あれはフリップって言うんや。投げてきた包丁を弾き飛ばしてやったんよ」

フリップ……。そのおかげで僕はこうしてまだ生きているのか。

「あの時は、ありがとう」

素直な言葉だった。

「え?ああ、ええねん。気にしんで。しかし、ギリギリだったんけどな」

笑いながら言ってくれた。今は笑い事で済むが結果が違ったらそうはいかなかっただろう。

「あっ、あと、妖力で何?」

頭の中で引っかかっていた。何かの力の源なのだろうか?

「そんなん……」

「あなたが持っている、正確には妖精が持っている力……、よね?」

光莉がいつも間にか近くに来ていた。

「そう、正解や。凄いな、何も喋ってないんに」

光莉は努力して学力や運動能力を手に入れてもいるが、直感と言うか、もともと勘が鋭いのだ。

「別に」

誇ることもなく、また前を向いて歩き出してしまった。光莉にとってはこれが当たり前であり、毎日の様に言われるらしい。

「やっぱ、あいつには敵わないな」

僕の中でも光莉は飛び抜けて凄く、何をやっても勝てる気がしない。

「毒舌なのに、なかなかやるやん」

妖精は褒め言葉を言ったが、光莉は前を向いたままだった。

「まだ、聞きたいことがあるんだが……」

この世界は不思議、僕の知らないことが多すぎる。本当に違う世界にいるのだと自覚させられる。

「何や、まだあんのか。はよう、してくれや」

質問攻めは疲れるのだろうか?

「ああ、何でお前には治癒の力が働いて僕には働かなかったことなんだけど……」

これはこの世界に住んでいる者とそうではない者との違いになっていた。

「治癒意外にはないのか?」

一瞬にして怪我が治る以外にも何かがある気がする。

「あるで」

やっぱり。

「それは何?」

聞いておかないと僕の気が収まらない。こんな僕でも情報は少しでも多く知っておきたい。

「あっちではこっちの世界での十分の一程度しか力が出なかった。あっちの世界でお前等がうちの姿が見えなかったのがいい例や」

確かに。こっちにいる間は見えない時が一秒もない。しかし、あっちでは目視することができなかった。声は聞こえていたが……。

「なるほど……」

僕にはやっぱり知らないことが多くあるんだ。

ん?待てよ?少し考えろ。妖精がすぐ回復するんだぞ?じゃあ、敵はどうなんだ?

「妖精はすぐ回復するけど、あの、ネズナイトってのはどうなんだ?」

もしかしたら、もしかするとだけど……。

「おっ、察しがいいやん。あいつ等も同じやで」

「っておい!倒した意味ないから!」

すると後ろからガサガサっと音がした。

「はぁはぁ、やっと見つけた。今度こそきっちりお役目を果たして見せる!」

僕は後ろを向いた時にはもうそこにネズナイトが迫っていた。

「うをぉぉぉっ⁉」

さっき闘った時の装備は何故か消えているので丸腰の状態を狙われたのだ。

「やばっ!こんなこと予想してなかったわ!」

妖精は急いで僕に呪文を唱えた。しかし、もう僕の腹には相手の剣が刺さっていた。

「ぐほっ、ガハッ」

僕は血を履き、膝をついた。

「はぁー、はぁー、はぁー」

息をするのがやっとだ。力が出ない。

「お兄ちゃん!」

光莉は僕に気づいたらしい。出来ればもう少し早く気づいて欲しかった……。

「ヤバイで!あれはマズイで!」

妖精の声は聞こえるが視界がぼやけてはっきりと景色も見えない。

くそっ、僕はこんなところで死んでいてはいけないんだ。愛莉を助けて三人揃って家に帰らなくちゃいけないんだ……。

「よくもお兄ちゃんを!我は闇を光で切り裂く者。どうか制裁の光を!」

光莉が何か言ったが、僕にはもう考えられる力は残っていない。

「な、何でお前が知っとんねん。それはうちら妖精しか知らんはずや!」

妖精は光莉向かって何やら言っている。

「そんなのどうでも良いわ。今はこいつ等を殺す!ねぇ、どうやったら死ぬの?」

光莉は妖精に聞いた。

「そうや!心臓をぶっ刺すんや!急所を射止めれば良いんや!」

「わかった。敵は五体。少し本気で殺らせてもらうわ!」

ザッ

体全体を使って地を蹴り、こっちに向かって来るのがわかる。光莉は非常に脚力が強く、常人離れしいる。

「良い加減にしてもらわないといつまで経っても愛莉に辿り着けないじゃない!」

愚痴をこぼしながら相手の急所を次々に刺していく。

「ヂュッ、こ、こんなはずじゃ……」

グサッ、ビチュッ

剣が刺さり、血が飛び出るのが聞こえる。妹LOVEスイッチが入ったらもう人の感情などない光莉は次々にネズナイトを倒していく。

ズサッ、グサッ、バコッ、グスッ。

「さぁ、あなたが最後ね」

僕を刺した奴が最後まで生き残っていた。

「ふっ、他の奴と同じにしないでもらいたい。この中では一番の実績があるんでな」

自慢が入っていたが、剣の腕前は相当だった。

光莉は剣を使うのは今日が初めてだったが、持ち前の運動神経で何とかしていたが、こいつは違った。

ギンッギンッガンッバッ

「くっ、強い……」

光莉がついに膝をついてしまった。こんなことがあるなんて……。

「思ったより弱くて残念だったよ。君たちはここで死んでもらう。そして魔王様の復活を祝うのだ!」

ザッ

光莉が立った、地面に思いっきり足を立てて。

「魔王?愛莉は渡さない。渡さないわよ!」

怒りは最高潮に達しているようだった。

「はぁぁぁぁぁ‼」

すると剣は光、輝かしい色を放っていた。

「ちっ、しゃーない。うちも手を貸すで!」

今までどこにいたのか。妖精は光莉に加勢した。

「全ての木々よ。悪を封じ込めよ!」

妖精が呪文を唱えると、周りにあった木々がネズナイトの方に向かってにょきっと伸び、十字にするように両腕、両足、首を固定した。

「さっ、殺ったれ!」

妖精の声と共に怒りに身を任せた光莉が輝かしい光を放っている剣を相手の心臓目掛けて突き刺した。

「うっ、うわぁぁぁぁ…………」

「はあぁぁぁぁぁ!」

ピクッピクッ、ガクッ

ついにネズナイトは動かなくなった。

「やった……、のか……」

僕ははぁはぁと息を吸いながら言った。

「大丈夫、お兄ちゃん⁈」

光莉は元に戻り、駆け寄って来た。

「は、はぁ、あ、ああ。な、なん……、とか……、な……」

ハッキリ言えば大丈夫なわけない。血はドバドバ溢れ出し、今にも死んでしまうのではないかと思う。

「もう喋らなくていいから!お兄ちゃん、死なないでよ!」

いつも僕には興味を示してくれなかった光莉がいつ以来か僕の心配をしてくれた。

「ふっ、死ぬわけ……、ない……、だ……ろ……」

そこで僕は力尽きた。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん‼お兄ちゃーん!」

涙が僕の頬を滴り落ちるのを感じる。

ああ、僕は妹一人も守れずに死んでしまうのか……。情けない兄だったな……。光莉のがよっぽど年上っぽかったし、愛莉は僕にはない明るさを持っていたな……。もう一度、もう一度で良いから、三人で一緒に過ごしたい、過ごしたいよ……。

「全ての大地よ、我に力を。母なる大地よ、生命を分け与えたまえ!」

ピカァー

妖精が僕に何かやったらしい。だが、もう遅いよ。僕はもう逝くしかないから。光莉、愛莉、ごめん。お兄ちゃん、先に逝ってるよ。すぐには来なくて良いから、元気で過ごしてな……。

「はぁぁぁぁぁ!」

ドーン

周りにあった木々が一瞬にして吹っ飛んだ。

「な、何⁈」

光莉は飛ばされないように地面に這いつくばり、必死に堪えている。

「ええ加減、戻って来んかい!」

バンッ!

僕は思いっきり胸を叩かれた。

「痛ってぇぇぇ!」

「お、お兄ちゃん!」

バッ

光莉が僕に抱きついて来た。

嬉しい。素直に嬉しい。こんなことされたのは本当にいつ以来だろうか……。

「どうや、生きとるか?」

妖精は僕に質問をした。

「あ、ああ。でも何で?」

僕は確かに死ぬ直前まで行って、もう死ぬところだったはずだ。

「うちが助けてやったんや。三大妖精のうちの一人、フェアリーリカバリーの異名を持つうち、ローナがな」

えっへんとばかりに腰に手を当て、堂々としている。

「えっと、とにかくありがとう」

僕は行動は無視して、やってくれたことだけに感謝した。

「私からもありがとうと言わせてもらうわ」

珍しい光莉が感謝の言葉を家族意外に使った。

「気にすんなや。仲間、やろ?」

仲間、いつそうなったかわからないが悪い響きではない。心地よい響きだ。

「そうだな。ありがとう」

それしか出てこなかった。死んだと思っていたから生きていることに実感が持てなくなっていた。

「もう大丈夫なの、お兄ちゃん?」

顔を覗かせ光莉は聞いて来た。

顔も良いし、スタイルも良い。男子からモテモテな妹だが、性格が……。と思っていたが、やっぱり僕にとっては可愛い妹には変わりなかった。愛莉も光莉も僕の可愛い妹だ。

「ああ、気にするな」

僕はよしよしと頭を撫でてやった。こんなことは小学校低学年、もしかしたら幼稚園以来かもしれない。

「えへへ」

いつ以来かの僕に対しての照れ顏。そのままギュッと抱きしめてやった。


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