妖魔世界とやらに来たそうです
今僕らは別世界にいるらしい。妖精がなんやかんややっていたがさっぱりわからなかった。魔方陣を書いたり、呪文らしきものを唱えたりと……。答えとしてはなんだかんだで、別世界に来たということだ。
「どうや、凄いやろ?」
自信満々な妖精。言い方は何故か関西弁。
「ああ、すごいすごい」
棒読みで答える僕。
「さっさと愛莉を探しましょう」
僕や妖精のことなんてアウトオブ眼中の妹、光莉。
こんな三人で人間世界からよくわからん世界へと飛んできたわけだ。妖魔世界だっけ?
そして今ジャングル的なところを歩いているわけで……。
何で城とかそんな様なところに行けなかったのか……。そもそもシャングルに落ちるってどうなんだ?いろいろと何かダメだろ……。
「何でジャングルなのよ」
愚痴をこぼす光莉。ごもっともだが。
「しゃーないやん。ここしか安全なところなかったやから」
こっちの世界では妖精はしっかりと見える。しかも自分と同じ大きさで。
「ところでここはどこら辺なんだ?」
こっちの世界の土地がわからない上に最初からシャングルだと方向感覚も狂ってくる。
木の根がうねうね地に出てるし、引っかかって転けそうだ。
ガッ
「きゃっ」
妖精は小さな声を出してゴロゴロと崖下まで転がっていった。
「おーい、大丈夫かー?」
崖下を覗いて僕は聞いた。
「うっ、い、痛い……」
ん?そう思って僕は崖下まで急いで降りて行った。
「痛い、痛い、痛い痛い、うっぐ……、ぐす、グスン」
え?マジで⁈
「どうしたの?」
僕を追いかけて降りて来たらしい。決定的な瞬間を見ていなかった光莉が僕に聞いてきた。
「おい、見たらわかるだろ。って言うか何も知らずにここに立っていたのかよ……」
驚きより呆れたと言う方が正しいだろう。本当に妹以外は興味ないのだろうか。
「木の根に引っかかって転げ落ちたんだよ。それで怪我でもしたんじゃないか?」
って言うか怪我してるよな。
「えっぐ、うわ、うわ、うわぁぁん」
え⁈えぇぇぇ⁈な、な、ななな、泣いてるぅぅぅ?そんなに痛かったのか⁈
「おい、しっかりしろ」
まさかこんなに弱いとは……。僕が驚いてしまう。
「グスングスン」
何かわからないが、ヤバイ状況だ。妹も話さないし、とにかく何か言わなければ。
「だ、大丈夫か?」
「グスングスン」
泣き止まない。
どうしよう。どうしたら良いのだろう。
「あー、えーっと、…………」
言葉が見つからない。流石に困った……。
「おい、大丈夫か?」
結局同じことを聞いてしまった。
「グスン、大丈夫、大丈夫のわけない、大丈夫のわけないやろ!」
そう言って僕の頬をおもいっきし殴ってきた。
「痛っっっ⁈な、何だよ⁈」
いきなり殴るなんてなんて奴だ。
「何となくや!」
いや……、わけわからんし、何で殴ったの?理不尽じゃないか?
「わけわからん」
これしか口から出なかった。
「ねぇ、いつまでそうやっているの?早く愛莉を探しましょうよ」
光莉はとうとう糸が切れてしまったらしい。強い口調で言ってきた。
「それもそうだが、こいつを何とかしないと」
いきなり転んでどっか行くわ、それで怪我して泣くわ、しまいには何故か殴られるわ、本当にわけわからん。
「ふん、もう大丈夫や。気にすんな!」
は、はぁ⁈何なんだよこいつ。もう痛くないとか言う気か?
「本当に大丈夫なのか?」
崖下まで落ちたのにすぐに治るとかどうかしてる。
「この世界は怪我がすぐに治るんや。すごいやろ?」
…………。馬鹿な…………。そんなことあってたまるか。
「それはあり得ないだろ」
僕は引き金となることを言ってしまったらしい。
「身体に教えなわからんようやな」
と言って腰からナイフを出した。
ナイフ=刃物=包丁のイメージしかない。僕は愛莉のことを思い出していた。
やっぱりあのときはおかしかった。妖精の言うとおり、本当に魔王に取り付かれたのかもしれない。
ピカッと光る刃先。怖いものを連想させる。
「これで、お前を切ればわかるやろ」
マジで治るのならこの世界では死なないことになるが、逆だったら…………。
「早くしてくれない?」
おいおい、兄貴が怪我させられそうなのに無関心なのかよ……。頼むぜ妹よ。怪我して欲しいみたいな言い方しやがって……。
「じゃあ、軽く指をスパってやるで」
そう言って刃先を僕の左の人差し指にあてた。そして…………。
スパッ
「痛ッッッ‼」
僕の指から血がどくどく溢れてくる。
「おし、これでお前もわかるやろ、この妖魔世界が凄いっちゅーことが」
光莉の目は遠くを見るようにぼーっとしている。兄貴が危害を加えられても変わらないその態度、あっぱれだ。って違う!
「くっ、痛いまんまじゃないか……。治らないぞ」
血は未だにどくどくと流れているだけだった。妖精の怪我が治ったように僕の怪我も治るのではなかったのか?
「あれ?おかしい、こんなはずはないんやけど……」
妖精は指を立て、頭をツンツンしている。自分は治るのに僕が治らないのはおかしいと思っているようだ。
「…………。治らない……」
幸い、軽く切っただけなので自然に治るが、この世界の仕組みは全く活躍しなかった。
「んー、わからんなー」
考えが尽きたのだろうか?腕組みに変えてんーんーと唸っている。
「お兄ちゃんがここの世界の人じゃないから、とか?」
ついに光莉が話しに入ってきた。
「あっ、それや!」
ポンッと手を叩き、ウンウンと頷く妖精。
「って、おい!知らなかったのかぁ?」
人に怪我させておいてこの仕打ちは何なんだ。おかしくないか?
「い、いや、忘れてたんやねん。悪気はなかったんや」
前みたいにガツガツと来る様子はなく、今回は悪いと反省しているらしい。
「はぁ、しょうがないか。許すよ」
僕が知りたがったのもこの結果になった原因の一つだ。反省しないわけにはいかない…………って、ちょっとおかしくない?何で僕が反省しないといけないの?そこはおかしい。絶対におかしい。
「この世界は妖精さんの怪我は治すけど、外部の者のは治さないってことかしらね」
冷静に状況から全てをまとめて導いたような言い方だ。
「マジか……。やられ損じゃないかよ……」
この何とも言えない残念な感じ。怪我だけして得た情報がこれだけとは……。
「何や、そーゆー事だったんか。納得納得」
気分良く妖精は言う。
この世界について謎が一つわかったのは良いが、何だかなぁ……。
「もういいでしょ?さっさと愛莉を探すわよ」
「はい……」
気分は萎え、どっちが年上なのかもわからない状況だった。口調が強い妹に押されている兄を演じているみたいだ。その通りなのだが……。
「おい、お前たち!ここから先は通さないぞ!」
と言って物陰から現れたのは、…………、ネズミ?
「何あれ?」
光莉はボソッと言う。
「ネズミじゃないか?」
僕は答える。しかし、ネズミらしき物が二足歩行してしかも僕らに向けて喋っているのだ。甲冑もしているし……。
「あれは、ネズナイト!魔王の城を守る兵士や!」
妖精は指を刺し言った。
「ネズナイトォ?」
何だよ……、ここには妖精、魔王の他にネズナイトなんて馬鹿げた奴もいるのかよ……。
「で、どうすればいいんだ?」
相手は剣と盾を持っている。大きさは僕と同じくらいで気持ち悪い。ネズミの顔してるのに喋るし、でかいし、つまりキモい。
「奴はそう強くないんや。でも、うちお前らをこっちの世界に連れて来るためにだいぶ妖力使ってしもた。だからお前らでなんとかしてや」
そう言って妖精は物陰に隠れてしまった。
「は?ちょっと何言ってんの?こんなキモいのどう倒せばいいのさ?」
相手は弱いらしいが、武器を持っている。なぜか甲冑までしてるし、そんなのに素手でどうやって勝てと?それに妖力って何?
「妖精さん、あれ倒せば愛莉は帰って来るの?」
意外とノリノリの光莉。あれを倒すって頭大丈夫か?僕より学力は良いが心配になってくる。それに相手は五人いるし。
「まずは魔王の城に行けば妹は帰ってくるやろ。その前段階やな」
そんなに単純でいいのかよ……。
「わかったわ。倒す」
こっちはもっと単純なのかよ……。本当に妹LOVEで、その事となると何でもやるよなぁ。
「おい、お前もやらんかい!」
「はぁ?何で僕もやらなきゃいけないのさ?」
光莉はやると言ったが僕はそんなこと一言も言ってないぞ?
「どうやって勝つのさ?」
倒せとは言うが方法は?それがわからないとどうにもならないだろう。
「そんなのは素手で大丈夫よ。えっと、ネズナイト……、だっけ?」
光莉はスポーツ万能だし武道もやっていたからまだ大丈夫だとしても僕は何もやってなかったし、運動もとてもできるわけではない。よって役立たずだろう。
「あー、もう。面倒いやっちゃなー!これやるから殺って来こいや!」
そう言って妖精は僕に向けて呪文を唱え始めた。
「今、我の力を与える。その力は己の意思となり、意思は剣となる。さあ、神よ、我の力を奴に分け与えたまえ!」
関西弁だった口調から一気に変わり、方言もなく、全てが真剣だった。すると僕の身体の周りから白く光出した。
「う、うわっ、な、なんだ⁈」
……………………。
目を少しずつ開けると、何と、僕は鎧を身にまとっていた。
前にいる光莉も僕と同じような格好をしている。
「え?何これ?」
光莉も状況が飲み込めない様だ。
「話しは後や。ちゃっちゃっと殺ってくれや」
握っている剣を指差して言った。
つまりこれであいつらを倒せと言うことか……。
「へっへっへっ、そんなんで勝てるわけないだろ?俺らはナイトなんだからな」
笑いながらネズナイトは言ってくる。
何かムカつく。顔のせいかもしれない。
「じゃあ、お兄ちゃん私先倒してくるから。そこにいて良いよ」
光莉は僕にそう言うと、一人でネズナイトに向かって行った。
「そうやそうや、殺ってやりー!」
興奮して言う妖精。呆然として見ている僕。
「まだそこにおったんか。さっさと行きぃや。せっかく装備を与えてやったんやから」
得意げに鼻を鳴らすのがイラつく。
「女一人だ!俺らを舐めすぎなんだよ!」
光莉とネズナイトは交戦している。
ギンッガンッドンッバコッボコッ
剣同士がぶつかったり、光莉の蹴りが相手の甲冑に当たったりといろいろと音がする。
ドコッ
「きゃっ⁉」
光莉が吹っ飛んだ。どうやら相手の蹴りがもろに入ったらしい。
プチン。スゥー。左目の色が赤に変わっていく。
「おい、妹に手を出すな。俺が相手になってやる」
僕の妹LOVE糸が切れた。
「お兄……ちゃん……」
光莉は腹を抱えて痛そうにしている。
「くくっ、何だよお前。女一人を先に寄越して勝手にキレるとかダッサ」
「もーどうでも良いよ。俺がお前等地獄に落としてやるから」
全部言い終わった後、相手に向けて突進した。
不思議と初めて着る鎧だったが凄くフィットしているようだった。
「そんな突進余裕なんだよぉ!」
相手は剣を振り下ろしていくが僕はそれを受け流しながら懐に入る。そして右手に持っている剣を下から振り上げ斬る。
「くっ、ぐはっ」
吐いた血が僕にかかる。
「で、他に妹をいじめたのはどいつだったかな」
他の四人は顔がブルブル震えている。
「くっ、くそー!」
そう言って突撃してくる一人のネズナイト。剣を大きく振り上げているので、簡単に避けれる。
「ふっ、甘いんだよ」
ガラ空きの喉に剣を刺す。
「ガホッ……」
すぐその場に倒れる。息はもうしていない。
「これは驚いたで……。性格がまるでちゃうやん……」
妖精はポカーンと口を開けている。
「お兄ちゃんは、妹、つまり私と愛莉が危ないとき、ああ言う風に性格が激変しちゃうんだよ」
光莉が僕のこの性格のことを言っていた。
これは性格が変わるのともう一つ、目の色が片方赤色になるということがある。それは光莉も愛莉も知らない。
スゥー
目の色が戻っていく。力が抜ける……。
ガクッ
僕は膝をついた。
「お、お兄ちゃん!」
光莉が駆け寄って来る。キレて性格が変わり、力もリミッターが外れるのは良いが、その分の反動が大きいのだ。
「ああ、大丈夫。それよりあと三人も……」
それから僕は気を失った。光莉が闘っているのはわかったが、徐々に気が遠退いていった……。