ユウナは最期まで守ってくれました
何か暖かいものを胸に感じる。心が安らぐような気持ちになる。暖かい、自分が赤ちゃんで母親に抱かれているかのようだ。
「さっさと起きんかい!」
べチッ
僕はほっぺを思いっきり叩けれた。
「ん?え?」
まだ状況を理解出来ていない。僕はどうなったんだっけ……。確か敵が動揺していたと思って突っ込んだら、返り討ちに……。あっ、腹!僕は腹に奴の尻尾が刺さったんだ!
「しっかりしてぇや!今、光莉が一人で闘っとる。そうそう長くは持ちそうにない。うちがかけた魔法も切れかけとる。助太刀に早くいってやりぃ」
そうだ!僕がやられて、カリナもいない状況で光莉は一人で闘ってるんだ。僕はすぐにでも行かないと。
「怪我は治しといた。やから、全力でやって来て大丈夫や。それともう一回呪文かけとくで」
僕はローナから身体能力向上の呪文を受けた。そして穴が空いた腹はしっかりと元通りになって痛みもなかった。
「わかった。二人を頼む」
「さっき死にかけた奴が何偉そうに言っとんのや」
ローナは笑顔を見せ、僕の背中を叩いた。どうやら行って来いと意味らしい。
僕は立ち上がり、光莉の元へと跳んだ。
「くっ、やるわね」
光莉は一人でヘビラーと闘っていた。辺りはそこら中破壊されており壮絶な闘いが行われていたことがわかる。
「お前もやるなぁ。でもこれは避けれるかぁ?」
そう言って出したのはハチ型爆弾だった。
「光莉は下がれ!ここは僕がやる!」
後ろから僕は言った。
「お兄ちゃん、もう大丈夫なの?」
「ああ、それより光莉は下がってローナの治療でも受けてろ」
僕は光莉を追い抜き、ヘビラーに向かって跳ぶ。
「わかった。気をつけてね!」
光莉は僕の言うことを聞き、後退して行った。
これでハチ型爆弾は僕を標的として向かって来る。流石に数は多いがやるしかない。光莉も一人で頑張って耐えてくれたんだ。兄だったらそれくらい出来なくてどうするんだよ!
「旋風大回転!」
僕は中を飛ぶハチ型爆弾に対し、自分が回転し風を起こすことで爆発の直撃を避けようとした。
「そんなの関係ねぇ!くらえぇ!」
ヘビラーの声がかかるとハチ型爆弾は爆発した。しかし、僕の旋風大回転で城のはるか高くまで飛んでいったハチ型爆弾の爆風は僕には届かなかった。
「どうだ!これが僕の力だ!」
意外と思いつきの作戦は役に立つ。風を起こすなんて一か八かだったが、思いのほか出来てしまった。
「はっ、あんなのただの小細工さ。そんなんで死ぬようじゃ俺様の敵じゃないからなぁ!」
今度はヘビラー直々に僕に向かって来た。
「男なら拳で語るもんだ!」
僕はそれに合わせて突っ込む。ヘビラー自身とやるのはこれが初対戦だ。今までは手下を使ったり、ハチ型爆弾を使ったりで僕たちの届かない場所にいたが、もうその壁はない。本体を倒せば魔王に近づける!
「はっはっはっ、よく言ったぜぇ!好きだぜぇ、そう言うのぉ!」
ヘビラーは気持ち悪いカスカス声で笑いながら僕に近づいて来る。
「お前を叩き斬ってすぐ終わらせてやるよ!」
僕の剣とヘビラーの拳がぶつかる。
ドシャーン!!
爆風で身体が飛ばされそうになるが耐える。ここで引いたら一気に方をつけられかねない。
「お前もなかなかだなぁ。だがっ」
ヘビラーが身体を捻った瞬間、僕の胴に重い衝撃が走った。
「こいつを忘れてるぜぇ?」
それは僕がさっきもやられた尻尾だ。
「ガハッ」
尻尾は鉄の塊みたく重く、ぶつかった衝撃であばらが何本か折れた。腹には激痛が走る。
「アホか、何同じパターンでやられとんのや!」
ローナの罵声が遠くから聞こえてくる。だが、それに答える余裕はない。そんなことしていたら一瞬で殺される。僕は直感でそう感じていた。
「本当に学習能力がないなぁ、人間」
くっ、こんなキモい奴に言われるなんて人間にとって恥だ。動物なのか人間なのわからないキモい姿しやがって。しかも強いし……。
「う、うるせぇ!」
僕は腹を抑えながら言った。
「はっ、くだらん遊びに付き合うほど俺様は暇じゃないんでこれで終わりだ!」
そう言って僕に右の拳を振り下ろす。剣でガードし切れない。どうする?避けれるか?いや、難しい……。じゃあ、何をすればいい?
そう考えているうちにどんどん拳は迫って来る。ダメだ、もう動くことすら出来ない。
「フェアリーガード!」
⁈ヘビラーの拳が僕の寸前というところで止まった。
「え?どうなってるんだ?」
目の前には見覚えがある魔法の盾。もしかしてこれは……。
「悪いわね。少し力を失っていたの」
やっぱり。この声はユウナ!あいつは少し前に倒れてからピクリとも動かなかったからもうダメかと思ったが、良かった……。
「さあ、いまよ優莉!」
敵は何が起こったか解釈するのに時間がかかって一瞬硬直した。僕はそこを見逃さず一気に畳み掛ける。
「はぁぁぁ!」
僕の方に突き出していた右腕を僕は剣で切り落とした。
「ぐっ、やりやがったな!殺してやるぅ!」
右腕をなくしたヘビラーは冷静さを失い、残っている左手と足で僕を攻撃して来る。
「鈍くなってるぜ、そんなん当たらんよ」
僕は一丁前に敵を挑発し、ピョンピョン飛び回った。ヘビラーが確実にイラつくように。
「ああ、もう!絶対許さん!はぁぁぁ!」
ヘビラーは左手で右肩を持ち、力を右肩に送っているようだ。
「優莉、離れて!」
ユウナが声を出した瞬間、僕の頬をヘビラーの拳がヒットした。
「ガッ」
コロンコロン
歯が一本折れた。それが僕の前に落ち、歯茎からは血が出てくる。
「何だ?腕が……」
ヘビラーに目をやった僕は信じられない光景を見た。それは斬ったはずの右腕が、元通りに生えているのだ。
くそっ、せっかくユウナが作ったチャンスを僕は……。それにヘビラーも超回復を持っているのかもしれない。あれは紛れもなく妖精の超回復だった。一瞬うちに傷が治るなんて……。やはり急所を狙うしかないのか?
「ふーふー、よくも腕をやってくれたなぁ!絶対許さねぇ!」
そう言ってヘビラー僕の方へ走って来る。
「優莉、少し下がって!光莉がすぐ行くから!」
僕はユウナの言うとおり少しずつ後ろに下がって敵との距離をとる。
「良い加減にしろってのー!」
僕の後ろから光莉が猛スピードで跳んで来るのがわかる。そこで僕も戦闘体制に戻り、ヘビラーの突進を迎え撃つ。
「死ねぇぇぇ!」
ヘビラーは風を切り裂くくらいのスピードで僕たちの前に現れた。
「死ぬのはあんたよ!」
「僕らが勝つ!」
僕と光莉は同時に剣を振り下ろす。ヘビラーの攻撃よりも速く。
だが、現実には違った。剣を振り下ろしたが、僕と光莉は突き飛ばされた。
「うわっ⁉」
「きゃっ⁉」
後ろの壁まで一気に吹っ飛ばされ、持っていた剣を手放してしまった。
「よくも俺様をここまで苦しめてくれたなぁ。お礼に残酷に殺してやるよぉ」
壁際まで一気に来たヘビラーは僕に向かって言った。
「くっ、離せ!」
僕は両手を拘束され身動きが取れなくなった。僕のすぐ近くには、腹を殴られ動けない光莉もいる。
「うっ、くっ、はぁはぁ」
苦しそうだ。
「絶対許さん。まずはお前をあの世行きにいてやるぅ!感謝してもらいたいなぁ!」
そう言ってヘビラーは僕を睨みつける。
「出来るんだったらやってみろよ!」
僕は抵抗することすら出来なかったが、相手を挑発してやった。
「ふん、雑魚が何ほざいてやがるぅ。お望み通りに殺ってやるぜぇ!」
ヘビラーの尻尾がぐねぐねっと動き、僕に攻撃してやるぞと合図している。
「優莉!」
ユウナの声が聞こえるが、もう僕は何も出来ない。ただ死を待つだけだ。
「死ねぇ!」
そう言ってヘビラーは僕の腹に尻尾を突き刺そうとする。
絶体絶命だ。
「フェアリーガード!」
もうすぐ尻尾が刺さるというところでまたしてもユウナの防御魔法が僕を守ってくれた。
「そう簡単に優莉は殺らせないわよ!」
ユウナは僕を守ると共に光莉をローナのところまで運び治癒の魔法をかけさせていた。
「あんたら兄妹は毎回毎回何でこんなに怪我してくれるねん。治すこっちの身にもなっみろちゅーねん」
ローナはブーブーと愚痴を言いながらも光莉に治癒魔法をかけている。
「またてめぇかぁ!こんな魔法、ぶっ壊してやるよぉ!」
ヘビラーはゴンッゴンッと魔法の盾を殴りっていく。
「優莉、もうそれは持ちそうにない!奴から距離を取るんだ!」
ユウナの指示に従い、僕はヘビラーとの距離を取った。
「これでどうだぁ!」
ベビラーの声と同時に拳が振り下ろされる。そして……。
パリンッ
と音を立てて盾は跡形もなく砕けてしまった。
「私の妖力も残り少ない。回復するには時間がまたかかる。だからここで一気に倒してくれ!」
ユウナの叫びで僕は再びヘビラーに立ち向かう。
「うぉぉぉぉぉ!」
落ちている剣を跳びながら拾って構える。
「はっ、俺様はお前ごときでは倒せねぇ!」
ヘビラーもこっちに向かって来る。ヘビラーの拳と僕の剣。どちらが強いかの勝負だ。
「負けない!僕は勝つんだ!」
拳と剣がぶつかる。
バッコーン!!
辺り一面は跡形もないくらいに吹き飛び、僕はそれに負けないように踏ん張る。
「はぁぁぁぁぁ!」
さらに力を入れてヘビラーを押す。
「何だぁ?そんなもんかぁ?残念だなぁ!」
ヘビラーはそう言って尻尾を振り回そうとする。
「二回も食らうかよ!光莉!」
僕ははるか後方にいる光莉に呼びかけた。
「わかってる、お兄ちゃん!」
それを聞きつける前に走り出していた光莉は振り回そうとしている尻尾目掛けて突っ走る。
「これで、どう!」
ズシャッ
「うわぁぁぁ、くっ、くそったれめぇ!よくも、よくも俺様の尻尾をぉ!」
光莉はヘビラーの尻尾を叩き斬ったのだ。
「ナイス、光莉!そしてぇ!」
僕は尻尾を斬られたことに頭がいっていた無防備になった瞬間を見逃さなかった。
「これでも食らってろ!」
そう言って僕は持っている剣をヘビラーの腹に突き刺した。
「グハッ、ウグッ、ば、馬鹿な……。この俺様が……、こんな奴らに……」
続いて光莉もヘビラーを叩き斬る。
「これでお終いよ!」
身体のあちこちを斬り刻み、見ているのが辛いくらいに変わってしまった。
「くっ、くそがぁ!」
ヘビラーは残っている力を振り絞るように腕をブンブン振り回す。
「はっ、そんなの当たってたまるか!」
ヘビラーは単調な攻撃になっているので僕と光莉を捉えることは出来ていない。
「まだや!敵に回復させる時間を与えんな!そのまま急所を突くんや!」
ローナは僕と光莉に言った。
「わかってるわよ!」
「これでケリをつけるさ!」
さらに斬撃のスピードが増す僕と光莉。それに反応するようにヘビラーの叫び声が聞こえる。
「くそっ、くそぉぉぉぉぉ!」
足も使って僕らに攻撃を食らわそうとするが、見え見えで当たるはずもない。
「「これで」」
「終わりだぁ!」
「終わりよ!」
僕と光莉は声を合わせて、最後の一発を叩き込む。僕はヘビラーの喉を、光莉は心臓を狙う。そして…………。
グチュッ
グサッ
「お、俺様が……、こんな奴らに……」
そう言ってヘビラーはバタリとその場に倒れた。
「はぁはぁはぁはぁ、何とか、なったな……」
僕は肩で息をしてガクリと膝をついた。
「愛莉のため、だからね……」
光莉もその場にペタンと座り込んでしまった。
「やったわね」
「ようやってくれたわ」
タッタッタッと近づいて来るユウナとローナ。
「ギリギリだぜ……」
もう喋る力もあまり残っていない。相当力を使い果たしてしまったらしい。
「今、回復させたる。少し待っとり」
ローナはそう言って僕の胸に手を当てる。すると暖かい温もりを感じる。
「もう、無茶し過ぎよ」
ユウナに軽く説教を食らった。
「あなたも結構無理してたでしょ?」
微笑みながら光莉はローナに言った。
「ふふっ、そうね」
ユウナも微笑む。
「とにかく誰も死ななくて良かったわ」
僕の回復をしながらローナは言った。そういえば、カリナはどうなったんだ?爆風で吹き飛ばされたりしてないか?
「か、カリナは?」
途中から消えてる。もしかして敵にやられたわけじゃないよな?
「大丈夫よ、少し移動させただけだから」
ユウナはホッと息をして言った。
「なんだ……、良かった。」
これでカリナが死んでしまったと言ったら意味がなくなってしまうからな。
「でも、しっかりと治癒しとらんから今もヤバイ状況やで」
ローナは僕の回復を終えて、光莉の回復に移っていた。
「敵を倒したからといって状況は変わってない……。ってことね」
光莉は少し深刻そうな顔をして言った。
そうだ、僕たちはまだ勝ったわけではない。魔王にすら辿り着いていないのだ。
「まあ、そうだな……」
しかし、だからと言ってないも進んでいないわけではない。少しは魔王に近づいたはずだ。
「ジジジ……。ジジ……」
?
「ん?何の音だ?」
何かの音がする。何処かで聞いたことがあるような音だ。何か嫌な感じが込み上げて来る。
「なんやこの音?」
ローナも首をかしげている。
「どこかで聞いたことあるよな音ね……」
どうやら僕だけが聞き覚えある音ではないらしい。光莉も思い出せないようだ。
「…………。もしかして、これ……」
ん?どうしたのだろう?ユウナは何かに気づいたらしい。
「どうした?」
僕はユウナに尋ねる。
「みんな伏せて!全ての光よ、我に力を!フェアリーキューブ!」
⁈どうしたんだ?いきなり絶対防御をつかうなんて。
「ジジジジジ……」
音が大きくなる。
「これは、ハチ型爆弾よ!」
ユウナが言った瞬間、ドカーンと爆発が起こった。
「くっ!」
ユウナのお陰で反応が早かった僕たちは何とか被害を出さずに済んだ。
「良かった、誰も怪我してないみたいね」
ユウナはホッと息をつき言った。
「許さん……。お前らも道連れだ……」
⁈声が……。まさか、ヘビラーが喋っただと?そんな馬鹿な。僕と光莉でしっかりとトドメを刺したはずだ。
「ヤバイ!ここから離れて!」
ユウナはそう言って僕と光莉、ローナを突き飛ばす。
「間に合え!フェアリーガード!」
そして防御魔法を使った。
「どうしたんだ⁈」
僕はユウナに聞いた。しかし、その瞬間…………。
シュゥゥゥゥゥキュイィィィィィン、バンッドッカーン!!!!!
ヘビラーが大爆発をしたのだ。
「うっ、くそっ!なんて奴なんだ!」
「「きゃっ⁉」」
光莉とローナは吹き飛ばされる。
「大丈夫か⁈」
僕は二人の手を取ろうとしたが、そのせいで僕も吹き飛んだ。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「うっ、痛った……。どうなったんだっけ?」
僕は光莉とローナが吹き飛ばされないように手を持とうとしたら僕も一緒に……。ってあれ?ユウナは?
「おい、ユウナ?どこにいるだ、返事しろ!」
僕はふらふらっと立ち、ユウナを探した。
「んっ、痛たた……」
ローナは頭をポリポリと書いて立ち上がった。
「何なのよ、もう……」
続いて光莉も立ち上がり、パンパンと砂を払っている。
「ユウナ、見てないか?」
僕は二人に聞くが、二人とも首を横に振るだけだった。
当たり前だ。僕が一番始めに立ったのに僕より後に立った二人にわかるわけないのだ。しかし、ユウナが見当たらない。
「ガホッガホッ、はぁはぁはぁ」
⁈左の方を見ると地面に這いつくばるユウナがいた。
「お、おい、ユウナ!大丈夫か?」
僕はすぐにユウナのところに駆け寄る。口からは血を吐き、辺り一面はその血で赤く染まっている。
「ギリ……ね……」
ユウナはニコッと微笑んで答えてくれた。それが何だか僕にとってユウナの最後の笑顔に不意に思えた。
「おい、ローナ。こっちに来てくれ。ユウナが大変だ!」
僕は近くでユウナを探していたローナに声をかけ、ローナをこっちに来させた。
「何やこれ、酷いやないか。今、回復させたる」
ローナはすぐ治癒の体制に入った。手をユウナの胸に当て、ローナは集中し始める。
「治ってくれよ」
僕も祈る。そこに光莉も駆けつけて来た。
「ヤバッ、ユウナさん!」
光莉はユウナに駆け寄り、身体を揺する。
「おい、やめろや!安静にしんとかん!優莉、抑えとき」
僕はローナの言うとおりに光莉を抑えた。
「おい、光莉。その気持ちはわかる。だが、今はローナに任せるんだ」
僕は光莉の正面に立ち、目をしっかりと見て言った。
「あ、う、うん」
コクっと頷き、光莉は静かになった。
全く世話が焼ける妹だ。普段は完璧というくらいなのに、こういう時に限って心が乱れる。
「くそっ!おかしいで!これ、カリナの時と一緒や。回復出来ん!」
「は⁈何でだよ!」
僕はローナに訴えた。
「そんなんうちがわかったら苦労してへんわ!」
そうだ、ローナがわからないからこうして苦労をしているんだ。僕が怒鳴ったって何かが変わるわけではない。
「ローナさん、何とかならないの?」
光莉も必死になっている。それだけユウナの存在は大きかったのだ。
「もう…….、私は……、ダメだ……。無駄に妖力を……、使うな……。ローナは最後まで必要よ……」
ユウナは苦しそうに口を開けて話す。
「そんなこと言うなや!絶対助けたるから!」
ローナも必死にユウナを助けようとする。しかしユウナの手がローナの手に触れた。
「もう、いいわ……。自分が怪我してわかったけど……、私たちの……、超回復が働かない……」
「そんなんわかってる!だからうちがやっとるんやろ!」
ローナは目に涙を溜めて言った。
「少しわかったわ……。この城は妖精の超回復を……、何らかの方法で妨げてる……。それが何か、私にはわからないけど……」
「おい、ユウナ!もう喋るなって!」
僕はユウナに必死に訴えた。このままだと本当に死んでしまう。
「ははっ、もう……、無理よ……。だから、これを受け取って……、ローナ」
そう言うとユウナは触れていたローナの手に何かを送っているように僕は感じた。
「ユウナ、やめろ!これお前の妖力やん!そんなことしたらあんたが……」
ユウナはニコッと笑ったまま、ずっと手を握っている。
「ごめんね……。これだけしかあげられなくて……」
「やめろぉぉぉ!」
ローナは必死に叫んだ。しかし、ユウナはやめようとしない。
「あなたたちに会えて本当に良かったわ……。ありがとうね……」
ユウナは微笑んで僕らに言った。
「何、言ってんだよ……」
僕は涙が溢れて来た。もう一生ユウナに会えない気がしてしまったのだ。
「またいつか会おうね……」
ユウナはそう言って目を閉じた。
「ユウナさん⁈ユウナさん!」
光莉は一生懸命身体を揺する。しかし、ユウナが目を開けることはなかった。
「もう、ダメや……。ユウナは……」
ローナもポロポロと涙を流している。
「そんな、嘘よ!まだ助かる!ローナさん、やってよ!助けてあげてよ!助けてあげてよぉ……」
ローナはただ何も言わずに首を横に振る。横に振ることで頬を伝っていた涙は辺りに飛び散る……。
光莉は地面をガンガンと叩き、大粒の涙を流していた。
「ユウナ……」
僕にはそれ以上の言葉が出て来なかった。僕よりも賢く、物知りで、みんなを引っ張ってくれたユウナは……、もう……。
僕たちはとても大事な人を失った。ずっと一緒に魔王を倒すはずだった。それなのに……。その後僕たちはその場で泣き続けた。