カリナが気絶して僕たち少しピンチです
「くそっ、どこにいても敵が湧いてきやがる」
城の中を移動してもだいたい敵に遭遇してしまう。どっからそんなに湧いてくるのか。
「うっ、傷口がー……」
カリナもそろそろ限界が近いらしい。
「どうする?本当にカリナがヤバイぞ?」
唯一魔王と闘える魔法を持っているカリナがほぼ瀕死状態だ。
「これは……」
言葉に詰まるユウナ。これは予想を反する出来事で対応出来ていないようだ。
「僕がいないとー……、ダメなんだからー……、頑張る……よー」
どんどん言葉に力が無くなっていくカリナ。このままだと失血死してしまう。
「悩んでも仕方ないわ!突っ走るだけよ!」
光莉は魔王を倒すことを優先している。それが良いのかわからない。もしかしたら、一旦引いた方が良いかもしれない。
「そう……、だよー。僕が生きてるうちに……」
カクッ
「おい、カリナ!しっかりしろ!」
カリナは全ての力が抜けた。僕と光莉が支えていなかったら地面に倒れていただろう。
「ちょっと!」
光莉も声を上げる。
「大丈夫や、気を失っただけや」
ローナは僕と光莉に言った。
「けど、心配なのはこの血の量やな。血が足りないのは確実や。このままだと本当に死んでしまうで」
何だって⁈カリナが死ぬって?馬鹿な、カリナは三大妖精の一人だぞ?こんなところで死んでいい奴じゃない!
「どうにかならないのか?」
治癒も出来なく、血が足りないってかなりピンチなんじゃないか?
「あると言えばあるで。しかし、それにはちょっと時間がかかるし、命が少し伸びるだけで支払った代償と釣り合わんのや」
流石に医療のことは詳しい。
「でも、いなかったら魔王は倒せないんでしょ?ならやる意外ないわ!」
光莉は強く言った。
「血が必要や。カリナに血を分け与えれる奴はおるか?」
血を分け与えるくらいは容易い。
「僕がやる」
それでカリナが少しでも助かるなら代償でも何でも払ってやる!
「じゃあ、時間ないで一気にやるで。血が少なくなるから気ぃてけてや」
そんなのわかってる。カリナが流した血に比べれば対したことのない血が渡されるだけだ。僕が耐えれなくてどうする。
「やってくれ」
僕はローナに全てを任した。
「おし、全ての大地よ、我に力を分け与えたまえ!少し血を移動するで!はぁぁ!」
ローナの声と共に僕の中にある血が一気に抜けるのがわかった。
「うっ」
バタッ
僕はその場に倒れ込んだ。意識が遠退く。
「お兄ちゃん!」
光莉が駆け寄って来たのはわかるが光莉の足がぼやける。視界が全てぼやけている。
「だから言ったやろ!何か食べるもんでも与えとき。すぐ治るやろ」
ローナの声が聞こえる。しかし何て言っているかわからない。
「これでも食いな!」
誰かの声が聞こえた……。
「ゔぅぅ!がほっがほっ」
何かを口にねじ込まれたみたいだ。口の中がパサパサする。苦しい……。
「ほら、水も飲みな!」
「うぶっ」
今度は液体が口の中に入ってくる。さっきねじ込まれたのと混じって変な食感だ。気持ち悪い……。
「ユウナさん、やり過ぎ!」
ゴクッ。はぁはぁはぁはぁ……。苦しかった。なんて事をしてくれたんだ。喉に詰まらせて死ぬところだったじゃないか。
「カリナこれで少しはマシになったやろ」
向こうの方でローナの声がする。
「今度はこいつが貧血かい。身体弱いやっちゃな」
胸に手を当てられ温もりを感じる。あったかい。
「はっ!」
するとだんだん意識がはっきりしてきた。
「大丈夫?」
顔を覗かせているのはユウナだった。
「うっ、あ、ああ、何とかな。いきなり血が全部持っていかれたみたいだったよ」
実際に持っていかれたのは事実だ。それで身体に酸素が回らなくなったのだろう。
「良かったわ。食べさせたかいがあったのね」
ん?待てよ?って事はさっきのものを口にねじ込んだのは……。
「なあ、ユウナさん?僕の口に何かねじ込みました?」
僕はあくまでもニコニコとしながら聞いた。
「そうよ?ローナが言ったんですもの」
やっぱり……。しかも何気なくローナに罪を着させようとしてるし。
「何とか生き返ったか」
ローナが嫌味のように言ってきた。
「カ、カリナは大丈夫か?」
僕よりカリナの怪我が心配だ。僕が分け与えた血の量なんてカリナが流した血の量の一部くらいにすぎないのだから。
「まあ、何とかな。傷口近くに布を巻いて止血をしておいたわ。それもいつまで持つかわからんがな」
カリナを見ると右肩にはしっかりと布が巻いてあった。
「安静にしてれば大丈夫やけど、少しでも無茶したら一瞬やな」
それほどカリナの受けたダメージは大きかったと言うことか……。
「もう短期戦で片付けるしかないわね」
ユウナが真剣な眼差しで言った。カリナのことを考えると少しでも早く倒さなければ……。
「そうね」
光莉の目は燃えていた。妹LOVEスイッチがオンになった瞬間だ。
「おし、行くぞ!」
僕はカリナをおぶり先へと急いだ。それに続いて他の三人も歩いて行く。
僕は愛莉を助けたい。だが、それで誰かが死ぬのは意味がない。全員が笑って帰れるのが理想だ。僕はそれを絶対に達成するんだと強く思って廊下を進んで行く。
「魔王はどこにいるんだ?」
魔王の城に潜入したは良いが肝心の魔王がいない。
「そんなんわかるわけないやん」
ローナが僕に向かって言った。
それはそうだが、早くしないとカリナのことも愛莉のことも心配になって来る。
「手当たり次第に探すしかないわね」
ユウナは言った。やはりユウナの表情が固い。それほど状況は悪いらしい。
「カリナさんはまだ気絶してるし、血が完全に止まってないから安心は全然出来ないしね」
光莉は僕がおぶっているカリナを見て言った。
まさかここまでやられるとは思ってもいなかった。妖精と魔王の住んでいる世界で二大勢力がぶつかるとこうなってしまうのか……。僕の考えが浅はかだったか……。
僕は三大妖精の三人がいれば魔王なんて楽勝だと思っていた。しかし実際はこっちが受けたダメージの方が大きいだろう。
「とにかく進むしかないやん」
ローナはそう言ってどんどん進む。
僕たち四人の頭の中には戻るという選択肢はなかった。速攻で片付けることしか頭にはなかったのだ。
「ん?何か広いところに出たな」
狭い廊下を抜け、大広場に着いたようだ。かなり広い。どれくらいの人数が入れるかわからないくらいだった。
「よく逃げずに来たなぁ」
すると奥から声が聞こえた。とてもカスカス声で聞くのが気持ち悪いくらいだ。
「こ、こいつ……。ヘビラー、何でこんなところにいるんや?……?」
は?ヘビラー?何、マヨラー的な奴?ヘビが好きな奴?
「何でも良いわ。やることは一つなんだから。行くよっ」
光莉は僕とアイコンタクトをしてそのヘビラーとやらのところへ突っ込んだ。
「速攻でお願いね」
ユウナから念を押すように言われた。
「わかってる。すぐ倒してくる」
僕は光莉に続き相手の懐に突っ込む。ここからは光莉が囮となって隙が出来た瞬間に僕が叩くというものだ。さっきのアイコンタクトで伝わって来た。
「待って!囲まれてる!」
何⁈もう囲まれてるだと?いくらなんでも早すぎないか?僕たちが着いてからそう時間は経ってないはずだろ?ユウナが言ってくれなければ警戒を怠ってすぐやられていただろう。
「はっはっはっ、ざまぁねぇな。お前たちがここに来るのは知っていた。それでしっかりと罠を仕掛けてやったよ。まんまと引っかかるなんて対したことがなかったな」
ヘビラーはバカ笑いして僕らを挑発して来る。
「全ての光りよ、我に力を!フェアリーガード!」
ユウナは自分とローナ、カリナを囲むように盾を作った。
「また、数で圧倒かよ!少人数にはキツイんだよっ!」
僕は愚痴をこぼしながら敵を斬る。しかしさっきまでと同様に数で押される。個々の技術はそうでもないが問題は数の多さだ。
「もう、愛莉をさっさと返しなさい!」
光莉も妹LOVEスイッチが完全にオンになって、戦闘体制攻撃重視になった。
僕も攻撃に力を入れよう。守ってたってこれは終わらない。それなら捨て身で敵を倒した方が良い。
「くらえっ!はぁぁぁぁ!」
僕は最速のスピードでどんどん斬りつける。喉を狙ったり、心臓を貫いたり、とにかく状況に応じて斬る場所を変えて最速で敵を倒す。
「はっ、やっ、ふっ!」
光莉も敵を素早くかつ的確に倒して行く。
「やばいっ!」
後ろから声が⁈それはユウナの声だった。そっちを見るとユウナとローナ、カリナの三人が的に囲まれている。
「光莉!」
僕は自分の周りの敵で手いっぱいだ。まだ余裕がありそうな光莉に頼んだ。
「わかった。お兄ちゃん気をつけてね」
「わかってる!」
そう言って光莉はユウナたちの援護に向かった。
はぁ、結局光莉が闘っていた敵は僕に来る。前回はミスったが今回は絶対切り抜けてやる。カリナがいないんだ。僕がやるしかない。
「はっ、うりゃぁぁ!」
僕はさらに敵を斬りつけるスピードを速くした。
「全ての大地よ、我に力を!」
ローナが何かの呪文を始めている。しかし僕はそれどころではない。目の前にいる敵を倒さなければ。
「大丈夫?」
どうやら光莉はあっちの護衛に着いたようだ。声だけ聞いていても敵がやられて行くのがわかる。
「大丈夫よ。少し耐えてくてくれる?妖力を回復する」
ユウナが光莉にそう告げて、目を閉じ座禅の姿勢になった。
「わかったわ。付き合ってあげる!」
光莉は上から目線で言った。
「優莉、受け取れや!」
ローナから僕に向かって声がした。それと同時に何かが僕に入ってきた。よくわからないが、力が湧いて来る。
「何だこれ?」
「そんなん後や!敵を倒して来いや!」
何でも出来る。今はすごくそう思える。そんな力の強さを渡されたような気がする。
「やってやるさ!」
僕はさっきより斬撃のスピードも上がっている。さらに身体能力も増しているようだ。
「ユウナさん、まだ?私、結構キツイいんだけど」
光莉はユウナの方を向きながら言った。敵は倒しているが、やはり疲れの影響だろう。スピードがさっきより格段に落ちている。
「もう少し」
ユウナはまだ座禅をして目を瞑っている。
「光莉も受け取っとけや!」
ローナは僕にやったのと同様に力を渡したみたいだ。
光莉は白い光りに包まれている。
「何これ、すごっ。力が湧いて来る」
光莉も僕と同じ状況になった。光莉は全ての能力が高いが、通常の光莉より今の僕は強い。そして光莉も僕と同じことになっているのなら、僕より今の光莉は圧倒的に強い。
その光莉は次々に周りにいる敵を倒して行く。倍速で見ているみたいに速い。斬撃が目では追えないくらいだ。
「はぁぁぁぁぁ!」
僕は近くにいた敵を全て倒した。
「これでラスト!」
光莉も周りの敵を全て倒した。
これで形成逆転だ。今までいた敵はもう数えるくらいしか残っていない。それを片付けるのも時間の問題だ。
「うちの魔法は効果絶大やったな」
ローナは私のおかげでしょ?と目で訴えて来る。
「流石です、ローナさん」
確実にローナのおかげで形成逆転出来たのだ。やはり三大妖精は伊達じゃない。
「これでどう?全ての光りよ、我が盾に!フェアリーキューブ!」
ユウナが呪文を唱えるとユウナとローナ、そしてカリナを囲むように魔法の壁が出来た。
「これは絶対防御よ。破られることはない。だから私たちのことは構わず敵に集中して!」
ユウナの絶対防御。敵が続々と攻撃を仕掛けるが全く揺るがない。傷が一つもつかないのだ。
「そうね、遠慮なくやらせてもらうわ!」
光莉は残りの敵を目掛けて跳んだ。
「ありがたい。僕も敵だけに集中するよ」
僕は後ろのユウナたちのことはもう気にしないことにした。
諦めたとかではなく、完全に信用しきることにしたのだ。もう心配はしない。だから僕は手早く敵を倒すだけだ。
「はっはっはっ、これは舐められたものだ。ならこれを使うか」
カスカス声で言ったのは敵の中心、へビラーだ。そしてその手には……、ハチ?
「何やあれ⁈何かまずそうやで、ユウナ!」
絶対防御の中でローナがつぶやく。
「あれはハチ型爆弾ね。ネズミ型爆弾より威力が強く、細かいところにも行ける。超小型高火力爆弾よ。二人とも気をつけて!」
何だって⁈ネズミ型爆弾でも立ち悪なのに、さらにヤバイのが出て来るのかよ!魔王とやらはマジでヤバそうだ。
「これを食らって死ねぇ!」
そう言ってヘビラーは僕と光莉に向かってハチ型爆弾を投げて来る。投げられたハチ型爆弾は自動でスイッチが入ったらしく、方向を修正してこっちに向かって来る。
「おい、光莉!ヤバそうだぞ!」
威力が強烈なのはもうしょうがない。今はいかにダメージを受けずに済ませるかだ。
「そんなのぶっ壊せば良いよの!」
御構い無しにハチ型爆弾に正面から突っ込む光莉。
「やめて!それは刺激を与えても爆発するわ!」
しかし、少し遅かった。いや、光莉が早過ぎたのだ。
ズシャッ…………。
ハチ型爆弾は光莉の剣によって真っ二つに切られた。その瞬間、あたりは光りに包まれる。
ドッカーン!!!
「うわっ!」
立っていた僕は近くの壁まで吹っ飛ばされ、背中を強く打った。
「きゃっ!」
光莉も壁にぶつかったらしい。ドコッという音と共に光莉の悲鳴が聞こえた。
「くそっ!」
ローナとユウナ、カリナも絶対防御の中で身を低くして、爆風から受ける面積を狭くしていた。
「これで一人は死んだかぁ?」
煙が晴れ、視界がよくなった。
敵の中心、ヘビラーは余裕そうに立って笑っている。
「なんて奴だ。自分の味方も死んで良いってことかよ!」
僕らの敵は光莉がハチ型爆弾に刺激を与えたことで全てが倒れていた。その中でもハチ型爆弾の近くにいた数人の敵は跡形もなく消し飛んでいた。
「はぁ?こんな手下、どうでも良いんだよ。俺様はてめぇらを殺すだけだからな」
自分の味方のことなんて気にしないヘビラーは、カスカス声で笑っている。
「ユウナ、大丈夫か?」
なかなか立ち上がってこないユウナにローナが声をかけた。
「う、うん。何とか……、ね」
相当ダメージを負ったらしい、
しかしあれはユウナの絶対防御のはず。なのにあれだけダメージを受けているとはどういうことだ?
「まだまだ行くぜぇ!今度は五個同時だ!」
ヘビラーはハチ型爆弾を五個同時にこっちに投げて来る。
「マジかよ!これは避けきれないぞ!」
僕はただその場に立ち尽くすだけとなってしまった。
「全員こっちに集まって!私が防ぐわ!」
ユウナの声を聞き、僕と光莉はあっちに向かって全速力で走った。
ローナもカリナを担いでさらにユウナの近くに寄った。
「全ての光りよ、我に力を!もう一度やるわ!フェアリーキューブ!」
僕たちがちょうど入るギリギリのところでユウナは呪文を発動した。
「ユウナ、これは妖力を使い過ぎるんじゃないんか?」
ローナはユウナに言った。しかしユウナは口を開かない。ただずっと遠くを見ているようだった。
「はっ、くらえ!」
ヘビラーの声と共にハチ型爆弾は五個同時に爆発する。威力はさっきの比ではない。辺り一面が火の海とかす。
しかしユウナの絶対防御に守られた僕たちは傷一つつかなかった。
「はっはっはっ、どうだ!木っ端微塵に……」
どうやら相手は僕たちがもう消えたのだと思ったらしい。しかし爆煙が収まるとそこには傷が一つもない僕たちが立っていたのだ。
「し、信じられねぇ……。あれを食らって生きてる奴がいるなんて……」
酷く動揺しているらしい。目の焦点が合っていない。
「光莉、今だ!一気に畳み掛けるぞ!」
僕は光莉と目を合わせ相手に突撃する。兄妹の力を見せてやる!
「な、何でだ……。どうして……。ま、まさか、この俺様が……」
ヘビラーはもう戦闘不能くらいの精神的ダメージを受けているらしい。さっきの爆発で僕らが死ななかったのがそんなに信じられないのか。
「…………。いや、違う!ダメや!それはヘビラーの罠や!」
あと少しで敵に剣が届くというところでローナが叫んだ。
「え?」
グサッ
…………。は?どうなっている。僕はまだヘビラーに剣は届いてないはずだろ?なのになんで……?
「優莉!」
「お兄ちゃん!」
は?どうしたんだよ、二人して。僕がどうかしたのか?
「ざまぁ、ねぇな、人間。俺様の罠に引っかかるとは」
え?…………。僕は少し痛みが走ったので腹を抑えた。そして抑えた手を見ると…………。
「うっ、くっ、何だこれ……」
僕の腹からは大量の血が溢れ出していたのだ。
「頭が悪くて助かったぜ。俺様の尻尾に気づかないとはなぁ!」
はっはっはっと僕の前で笑うヘビラー。よく見ると、僕の腹には後ろから前に何かが刺さっている。
これは何だ?尻尾って言ったな……、僕はもしかして重大なミスを侵したのか?
「よくも!よくもお兄ちゃんをぉぉ!」
光莉は再びヘビラーに向かって走り出す。
スボッ
「ガハッ」
僕の腹から奴の尻尾が抜ける。そして僕は大量の血を吐き出した。
「くっ……、そ……」
僕は朦朧とする意識の中で光莉がヘビラーと闘っている姿を見ていた。
「くそったれ!」
そして走って駆け寄って来る足音も聞こえた。