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身体だけ愛して

「かえでさん」

「柊さんでしょ」

私は男のことばをゆっくりと訂正する。

「・・・柊さん、俺もう我慢できないですよ」

耳元で訴える男に『まだダメよ』と目でその訴えを退ける。


不定期で行われる「親睦会」と名した会社のただの飲み会。

その席で私は一人静かにブランデーのグラスを傾ける。

アンティークゴルフクラブが壁一面にずらりと飾られたオールドイングランドな老舗のジャズバー。

薄暗い店内にはクラシックピアノの生演奏が優雅に響く。

とりたてて話題性の無い、無意味なばか騒ぎをつまみ程度にして頃合いを見計らう。


同棲している彼も今日は飲み会で帰りは遅い。

彼の愛は私を優しく丸ごと包んでくれる。そこはとても居心地が良い。

しかし、私の身体だけは『つまらない』と抗議する。

だったら身体を慰めればいいだけの話。それで全てが上手く行く。

私に彼と呼べる人は一人しかいない。でも・・・


「・・・行きましょう」

私の隣には、私の番犬のように忠実に座り続ける男がいる。

待ってましたとばかりに席を立つ若い男。

私はシガレットケースのたばこに指を伸ばしゆっくりと火をつけ、残りのブランデーを喉に流す。

目を閉じる。

それは喉元を熱く通り過ぎ、やがて私の身体の真ん中まで到達する。


シティーホテルの一室からは東京の夜景が望める。

ただの獣のような男にベッドに押し倒され、夜景も何もあったもんじゃない。

そこには優しさも無ければデリケートさの欠片も無い。

欲望に支配されている男がただいるだけだ。


「柊さん、俺もう限界ですよ」

「なにが」

「もう、俺と一緒になりましょうよ。付き合ってくださいよ」


  ツキアッテクダサイヨ・・・くだらない。


私は口角を少し上げ、クスッと笑う。

「それはただの勘違い」

私は男の顔を両手で包み込む。


「あなたはただ私の身体だけ愛せば、それでいいの」


包み込んだ男の顔をゆっくり近づけ、唇の触れるか触れないかのところで囁く。

「そんな・・・」

頭とはうらはらに男の身体は更に硬さを増す。

「身体だけの恋だってちゃんとあるのよ」

表情が和らいだ男を私は優しく包み込み、受け入れた。



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