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99.それぞれのバレンタインデー

「池波さん、放課後音楽室に来れる?」

 帰りのホームルームの前にヒロくんにそう言われた。――そう、今日は2月14日。バレンタインデーであり、タイムリミットの日である……。そう言ったヒロくんの表情から答えはうかがえない。

「うん、行けるよ。あたしもヒロくんに用事あったんだ」

「そっか。じゃあまたあとでね」

 ヒロくんは自分の席に戻った。どんな結果になってもあたしは構わない。だってそれが1ヶ月だけ付き合ってヒロくんの出した答えなんだから。だけど、チョコだけは受け取ってほしいな……。あたしはバッグの中に入っているチョコレートを見つめながら思った。


 帰りのホームルームが終わり、掃除をしてから音楽室に向かったので少し遅くなってしまった。音楽室からはきれいな旋律がこぼれていた。

「遅れてごめん!」

 そう言いながら音楽室に入るとやっぱりヒロくんはピアノを弾いていた。それも、弾いていた曲はあたし達が初めて音楽室(ここ)で会った時にヒロくんか弾いていたものだった……。

「大丈夫だよ」

 ヒロくんは曲を弾くのをやめて椅子から立ち上がった。

「それでここに来てもらった理由なんだけど……」

「わかってる。1ヶ月前の答えでしょ?」

 ヒロくんは声には出さず、首を縦に振って答えた。

「結論を言う前に後ろ向いてくれる?あ、嫌なら目を瞑るだけでいいけど……」

「わかった。じゃあ後ろ向いて目瞑るから」

 あたしはヒロくんに言われた通り後ろを向いた。そして目を瞑った。ヒロくんは一体なにをしようとしているの?あたしにはヒロくんの考えていることがなにかわからない。

 すると足音がだんだんとあたしの後方に近づいてくるのが目を瞑っているせいではっきりわかった。心臓がドキドキと脈打っている。あたしのすぐ後ろの辺りで足音が止まった。そして――背中に温もりを感じた。

「……えっ?」

 あたしは一体なにが起こったすぐには理解できなかった。ヒロくんの呼吸音が耳元で聞こえる。あたしはヒロくんに後ろから抱き締められているんだとやっと理解できた。そしてヒロくんが口を開いた。


「俺、池波さんが好きだ。これからも付き合っていたい」


 ヒロくんはあたしの耳元で小さな、でも優しい声で言った。

「う、そ……?本当にいいの?これからもヒロくんのそばにいていいの……?」

「あぁ。今更って思うかもしれない。でも、俺は池波さんが……!」

「お願い、もう言わないで……」

 あたしはヒロくんに言葉を遮った。これは、夢?あたしは夢を見ているの?本当はここ1ヶ月ずっと夢見ていたんだよ?ヒロくんとこれからも付き合えたらどんなに幸せか、ヒロくんのそばに彼女としていられたらどんなに嬉しいかって。

「ヒロくん、あたしは貴方が好きです」

「俺も。池波さんが好きだ」

 ヒロくんははっきりとした口調で言った。もう、これ以上の幸せはない。――桐崎くんと付き合うことになった乃愛もこんなに幸せな気持ちだったのかな?

「ねぇヒロくん、これ受け取ってくれる?」

 あたしは名残惜しいけどヒロくんから離れてバッグからチョコを取り出した。

「あのね、今日はバレンタインだからチョコ作ってきたの……。だからよかったら食べて?」

「ありがとう。俺、チョコ好きだから嬉しいよ」

 ヒロくんってチョコ好きだったんだ。じゃあもしかして他の女子からチョコもらったとか……。

「あ、一応言うけど、他の女子からはチョコもらってないよ?それより池波さんにいつ返事を言えばいいかってずっと考えてたから全部スルーした」

 そうだったんだ……。なんかちょっと嬉しい!あたし、ヒロくんの彼女になれて本当によかった!諦めなくてよかったと心から思う。


 ***


「はい、あげる!」

 放課後、まだ教室に残っていた桐崎くんにお世辞にもきれいとは言えないが、ラッピングされた袋を手渡した。教室内には他に残っている人もいたがこの際気にしない。どうせわたし達の関係なんて周知の事実なのだから。

「これってもしかして?」

「今日が何の日か知ってるでしょ?だからはい」

「……えっ?いいの?」

「あ、いらないなら別にいいよ、もらわなくても。頑張って作ったけど味の保証はできないからその方がありがたいし、家に帰ってわたしが食べるから」

「えっ?手作り?」

「……だったらなに?」

 途中から恥ずかしくなって少し下を向いた。うわっ、こんなんだからツンデレ言われるのかな?こんなわたし、全然可愛くない……。

「え、やばい、めちゃくちゃ嬉しいんだけど……」

 ふと桐崎くんの顔を見ると顔は赤く染まっていた。

「おいキリ!顔が林檎みたいに赤くなってっけど!」

 たまたま近くにいたクラスメートの男子が桐崎くんを冷やかすように声をかけた。

「バ、バカ!うっせ!」

 桐崎くんは顔を真っ赤にしながらもなんとか恥ずかしさをこらえて言い返しているように見えた。その姿が可愛く見えたなんて言えないけど……。

「え、本当にもらっていいの?」

「じゃあ聞く。いらないの?」

「いや、欲しい」

 桐崎くんはズバッと即答した。だったらそんなに何回も確認しなくたっていいじゃん。ホント、桐崎くんのそういうところ可愛いなぁ……。

「……あのさ、もう帰る?」

「え、うん。帰るよ?」

「じゃあさ……送るよ」

「えっ?べ、別にいいよ!それに方向逆だし!」

 そう、桐崎くんの家とわたしの家は学校を出て真逆にある。わたしは門を抜けて右に行くけど、桐崎くんは左に行く。しかも桐崎くんの家まで学校から30分以上かかるという。わたしのことを家まで送ってから帰るとなれば1時間はかかる。そんな負担になりそうなこと……。

「俺がしたいだけだからいいだろ?」

 でもそこまで言われると断れない。

「じゃあ、お願いします……」

「了解しました」

 桐崎くんは笑顔で答えた。ホント、この人は優しすぎるなぁ……。そしてわたしはホントこの人には弱いなぁ……。

「じゃあ帰ろうか?」

「うん!」

 荷物を持って桐崎くんと教室を出て歩いた。

 そういえば麻由はどうなったんだろう……。ホームルームの前に加賀美くんに声かけられていたのは見たけどそこから先は分からないしなぁ……。

「あ、加賀美。と池波さん」

 桐崎くんがそんなことを言ったので辺りを見回した。前方に加賀美くんと麻由の姿を見つけた。

「あ、乃愛と桐崎くん!なになに?今帰りなの?」

 麻由はわたし達の方へ駆け寄ってきた。そしてわたしは見てしまった。そんな麻由を見て笑顔になる加賀美くんの顔を。まさかこの2人……。

「やっぱり関係は継続か」

 桐崎くんは呆れているような、でも笑顔で言った。

「あぁ、でも今度は期限なんて決めてない。ちゃんと付き合ってる」

「……えっ!?そうなの麻由!?」

 加賀美くんの言葉を聞いて驚いたわたしは麻由に聞いた。すると麻由は笑顔になった。

「うん!正式に付き合ってます!」

「わぁー!おめでとう!」

 わたしは幸せそうな麻由に抱き付いてきつく抱き締めた。

「ありがとう。ホント乃愛と紗弥のおかげだよ」

「麻由のそんな嬉しそうな顔が見れれば十分だよ。そういえば紗弥は?」

「え、わかんない。紗弥にはあとで報告しておく」

「そっか、わかった」

「じゃあ俺らは行くから」

 加賀美くんはちゃっかり『俺ら』と言っていたのをわたしは聞き逃さなかった。そして麻由と加賀美くんは隣に並んで歩いて行った。

「俺らも行くか?」

「うん!」

 昇降口に向けてわたし達は歩き出した。その時ふとわたしは選択室が珍しく空いていることに気付いた。そしてそこには、紗弥と数学教師の圭介先生がいたのが見えた。

「あ、れ?」

 思わず声をあげてしまった。選択室にいる2人には気付かれなかったが、隣にいた桐崎くんには聞こえてしまっていた。

「どうした?なんかあったか?」

「え?なにもないよ?」

「そっか」

 ごめんね桐崎くん。わたし、嘘ついちゃったよ。だってあんなの言えるわけないって。――紗弥が圭介先生にチョコを渡している場面を見てしまったなんて。


はい、フライングバレンタインです(笑)

時期的には近いんですけど、5日早かったですね……。


そして付き合うことになった麻由と加賀美。

加賀美くん軽い!なんて思わないでくださいね……。

彼は恋と憧れの違いがわからなかっただけですから!

とりあえず今は祝福してあげてください。



小説とは全く関係ないんですが、

舞原も1週間フライングバレンタインでした←え

舞原は乃愛よりツンデレでした←ええ

……乃愛は幸せそうで羨ましいです。


みなさまはどのようなバレンタインを過ごしたいですか?


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