98.残り3日!
バレンタインデー3日前。今日までで麻由の答えはまだ出ていない。つまりそれだけ麻由にとって大きな問題だと言うこと。
「麻由、まだ決まってないんだよね……」
「そうだね。やっぱりあげたくないのかな?」
わたしと紗弥は麻由に答えを聞こうとはしなかった。これは催促してはいけないことだもの。
「まぁ、もし麻由が渡さないって言ったらそれは麻由の決めたことだからとやかく言ったりはしないけど」
「そうだね。口出し無用だね」
「ねぇ、どうなると思う?あの2人」
紗弥は真剣な表情でわたしに聞いた。
「どうなると言われても……。正直わたしはくっつくと思うよ?」
「へぇー。なんで?」
「これは経験論だけど、気になったら恋愛感情に発展しちゃうから?」
実際わたしは桐崎くんのことを気になり始めてから次第に接するようになり、好きになってしまった。最終的には付き合うことになって今に至る。
「あー……。乃愛の場合はまさにそうだもんねー」
紗弥はニヤニヤと笑いながら言った。この顔がなんか嫌……。
「ほ、ほら!わたしのことはいいからさ!紗弥はどう思うの?」
「うーん、わたしもあの2人は付き合うと思う。乃愛の言うこともわかる。でもそれだけじゃない。加賀美くんの行動でそう思ったの」
「加賀美くんの……行動?」
加賀美くんの行動になにか不審な点でもあったのかな?わたしはなにも気付かなかったけど。わたしが気付かないだけで紗弥には気付くことがあったんだ。
「そう。だって1ヶ月だけ付き合うのはまぁいいとして、それを周りに知られても平然としてたじゃない」
「……だから?」
「だから?じゃないわっ!自分に置き換えて考えてみなさいよ!もしあまり好きでない人と1ヶ月だけ付き合ってと言われてたとえば断り切れなくて付き合うことになったとする。もちろん1ヶ月後には振るつもりでね」
「恐ろし……」
「いいから黙って話を聞く!それなのに周りに公認で付き合ってるように思われたらあとで断りづらくなるしいろいろと騒がれるでしょ?」
「あー……」
それもそうか。付き合ったと噂されて公認状態になったら1ヶ月後に付き合えないと断りづらくなる。断れたとしても1ヶ月で別れたということで更に騒がれる。そうなると厄介なことになる。
「……あれ?でも現に今、麻由と加賀美くんが付き合ってるとみんな知ってるよね?てかほぼ公認状態じゃない?」
「そう。だから加賀美くんは麻由と向き合って付き合うと思うの。もし断るつもりだったら付き合ってることをバレないように行動するはず。でもそうしなかったってことは――」
「『加賀美くんは麻由と付き合い続ける』……ってこと?」
紗弥の言葉は紗弥が言い終わる前に横から割り込んできた人物に言われてしまった。そしてその人物こそ今わたし達の話題に出てきた人物。
『麻由!』
「保留してた答えならもう出てるよ。――答えはイエス。あたし、ヒロくんに渡すことにした」
『……えぇっ!?本当!?』
わたしと紗弥は麻由の突然の登場と返答に驚いた。
「そんなに驚くこと?一応いろいろ考えた結果なんだけどなー……」
麻由は苦笑いをしながら言った。そうだよね。これは麻由が一生懸命考えて出した結論。わたし達がとやかく言うことじゃない。
「うんうん!よかった!麻由が結論を出してくれて!」
「ホントそうだよ!まぁもし結論を出せなかったとしてもそれはそれで麻由の答えだからね」
「うん。2人のおかげでやっと結論を出せたよ。ありがとう」
「そ、そんなことないよ!」
「ねぇ、じゃあさ、今日の放課後チョコの材料買いに行かない?みんなで」
『行く行くー!賛成!』
「乃愛も桐崎くんに渡すんでしょ?付き合ってるんだし」
紗弥はまたもニヤニヤと笑いながら言った。だからこの顔が本当に嫌なんだってば。
「……うん!あげるよ!」
でもわたしはもう桐崎くんにチョコを渡すと決めているから包み隠さず素直に言った。
「じゃあどういうのが好きか聞かなきゃね、桐崎くんに」
「うん!いろいろ探ってみる!」
「……なんか、乃愛変わったね」
チョコの話をしていたはずが、突然麻由がそんなことを言い出した。
「えっ?わたし、全然変わってないけど」
「自分じゃ気付かないだけだよ。うーん、なんて言えばいいんだろう。なんかね、女の子だなぁって思う」
「えっ!?わたし、れっきとした女の子ですけど!?」
「だからそういう意味じゃなくて……。あー、紗弥はうちの言いたいことわかる?」
「なんとなくなら。麻由が言いたいのって乃愛の女の子らしさが上がったってことでしょ?」
「そうそう!そんな感じ!」
「女の子らしさ?」
……それって、前までのわたしには女の子らしさが欠けていたということ?それはそれで悲しいな……。わたし、れっきとした女の子なのに……。
「桐崎くんと付き合ってから少し髪の毛巻いてきてるじゃない。毛先だけほーんの少し。気付かないとでも思った?」
確かに桐崎くんと付き合い始めてから少しでも可愛く見せたくていつものポニーテールから少し髪の毛を巻いてゆる巻きポニーテールに変えたけど……。
「女の子って恋すると変わるのね。乃愛みたいに」
麻由は笑いながら言った。そっか、そうなんだ。自分じゃ気付かなかったけど、わたし、少しずつ変わってきているんだ……。
「ねぇ乃愛、桐崎くんと付き合えてよかった?」
紗弥が直球な質問を投げかけてきた。でもね紗弥、そんなの答えは決まっているから聞いたって無駄でしょ?それに紗弥だってわたしがなんて答えるかわかっているはずじゃない。だからわたしは素直に言う。桐崎くんの前では決して素直になれないけど、今なら言える気がする。
「うん!本当によかったと思う!」
これが、わたしの答え。わたしは桐崎くんのことが好きだもん!
***
それは放課後のこと、帰り支度をしていると突然声をかけられた。
「ねぇ、甘いもの好き?」
突然すぎて一瞬戸惑ってしまった。乃愛さんは一体どういうつもりでこんなことを俺に聞いた?
「まぁ甘すぎないやつなら……。でもなんで?」
「そっか!ありがとう!」
俺の質問をスルーして乃愛さんは帰ろうとした。
「えっ!?俺の質問はスルー!?」
帰ろうとする乃愛さんを引き留めるように声をかけた。
「えー……知りたいのー?」
「あぁ」
「どうしても?」
「どうしても!」
「知りたい?」
「知りたい!」
「……教えなーい!」
「ここまで言わせておいて!?」
すると乃愛さんは笑い出した。俺、なんか変なこと言ったか?
「だって言ったらお楽しみがなくなるでしょ?」
「お楽しみ?」
お楽しみって一体なんの?
「わからないならやっぱり教えられないなぁ……。もしわかってても教えないけど!」
どっちにしろ教えてはくれないつもりか!
「でも大丈夫。数日後にはわかるから!ここまで言ってもわからなかったら……桐崎くんはかなり鈍いよ!バイバイ!」
そう言って乃愛さんは教室を出て行ってしまった。数日後にはわかるってどういうことだ?ここまで言われてもわからない俺って相当鈍感なのか?
「どうしたの桐崎くん、ボーっとしちゃって」
次に声をかけてきたのは林原さん。隣には池波さんもいた。
「いや、乃愛さんに言われたことが気になって……」
「なになにー?なんて言われたの?」
次に俺に話しかけてきたのは池波さんだった。この2人なら絶対知っているはずだよな。そう思って2人に話すことにした。
「乃愛さんに甘いもの好きか聞かれて答えると同時になんでそんなこと聞くのか聞いてみるとお楽しみがなくなるからって教えてくれなくて。でも数日後にはわかるって言って帰っちゃったからさ……。ここまで言われてもわかんなかったら俺は相当鈍感らしい」
『あー……』
俺が言い終わると2人は納得したかのように頷いた。なに?やっぱりこれがわかんない俺って鈍感なのか?
「わかるけど教えなーい」
と池波さんは楽しそうに言った。それに対して林原さんは……。
「……桐崎くんって今まで誰とも付き合ったことないんだよね?恋したことも?」
「誰とも付き合ったことないし、恋なんて最後にいつしたかも覚えてないかな。それがどうかした?」
「じゃあわかるわけないか……。そのまま数日後まで待ってれば?」
質問したかと思えば最後に突き放すように言って教室を出て行った。
「あっ!待ってよ紗弥!ということでバイバイ桐崎くん!」
池波さんも林原さんを追うように教室から出て行った。残された俺はどう反応すればいいかわからなくてとりあえずしばらくその場に立ち続けた。
2月になりました!
2月と言えばバレンタイン!
できるだけ恋愛要素を取り入れたいです←え
そしてわたしは個人的にハッピーエンドが好きなんで、そうなるようにいろいろ考えています!