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93.計画実行です!

「加賀美くん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 放課後、昼休みに3人で計画したことを実行しようと紗弥は加賀美くんに言った。もちろん、この時すでに麻由は音楽室に行っている。

「話?なに?」

「あのね、実はさっき音楽室で……」

「なになにー?さっき見つけたノートの話?」

 わたしは紗弥がノートのことを言い出そうとしたまさにその時、紗弥に抱き付きながら言った。――もちろん、これも計画の1つ。

「……ノート?」

 加賀美くんは顔をひきつらせてピクッと反応した。おっ、やっぱり心当たりがある反応だ。

「うん。五線譜に音符が書いてあって誰かが書いたような感じだったよね?他にもいろいろ書き込みがあったからきっと誰かの創作ノートだと思うよー?」

「……で、なんでそれを俺に言うの?」

 やっぱり聞くと思った。ここも計画通り。その問いかけにわたしに代わって紗弥が答えた。

「そのノートに書いてある字がどこかで見たことある字だったから、なんとなくその字っぽい人を手当たり次第に聞こうと思ってたんだけど……やっぱり加賀美くんじゃないか……」

 うわっ!なんかいやらしい聞き方!なんかいやらしい言い方!そんなこと言われたら加賀美くんはきっと内心焦るはず。……そう考えたら紗弥の発言はとてつもない威力を持っているようにわたしは思った。

「なぁ、そのノートってどこにあった?」

 口調に若干焦りが現れた。麻由の言っていたことは正解だね。あの創作ノートは加賀美くんにとって誰にも開けられてはいけないもの。重大な秘密が隠されている箱のようなもの……。

「えっ?ピアノの……裏って言うのかな?机で言うこの下のところ?に挟まってたの」

 紗弥は机の裏の金属のようなアルミのような部分を叩きながら言った。その直後の加賀美くんの顔には最早焦りしか見えていなかった。

「……どうしたの?加賀美くん」

「あー……俺、そのノートの持ち主に心当たりあるからちょっと聞いてくるや」

 口早に言って加賀美くんは教室から飛び出した。

「……これでわたし達の役目は終了?」

「うん。あとは麻由次第ね」

 きっと騙されたとわかったら加賀美くんは怒るかもしれない。でも加賀美くんがごまかしたのにも原因はあるんだからそれは仕方ないと思って諦めてください!

「乃愛さん」

 突然名前を呼ばれ振り返ると、そこには桐崎くんがいた。

「あ、もしかして取り込み中だった?」

「まぁ……。でも一応終わったばかり!どうしたの?」

「いや、その……。送ろうかと思って……」

「えっ……!」

「ちょっとー、ここでイチャイチャしないでくれる?ここ学校。ここ教室」

 恥ずかしくて焦っているわたしの隣で紗弥は言った。紗弥の言葉で更に恥ずかしさ倍増。きっと顔は赤くなっているはず。

「取り込み中なら待つつもりだけど……。なんかしてたの?」

 桐崎くんの問いかけにわたし達は顔を合わせてニッと笑って言った。

『報復!』

 すると桐崎くんは戸惑ったような顔をした。


 ***


 俺は林原さんと乃愛さんの話を聞いてすぐ音楽室へ向かった。俺の中には最早焦りしかなかった。他人にあのノートを見られてしまうという恐怖しかなかった。でもふと思ったんだ。彼女以外の誰かに見られてしまうだけなのにどうしてこんなに焦っているのだ、と。なぜ俺はこんなにも焦っている?他人に見られたくないのなら池波さんにも見せないはずなのになぜ彼女にだけは見せた?

 いろいろ疑問は浮かんだが、とりあえず今は音楽室に行くことが最優先。自問自答するのは今じゃなくてもいいんだ。やっと音楽室のドアが見えてきて、俺は勢いよくドアを開けた。そしてそこで待っていたのは……。


「やっぱり。ヒロくんなら焦って走ってくると思ったよ」


 ピアノの前で椅子に座っている池波さんだった。

「池波さん……。どうしてここに?」

「答えは……ヒロくんならすぐ気付くと思うけどな」

 そう言われていろいろな考えを頭の中で巡らせた。俺がここに来たのは林原さんと乃愛さんに俺の自作ノートを見られたから。それを他人に見られたくなくてノートの所在を確認しようとただ走ってきた。でも、目の前にいる池波さんの姿を見たらその考えは間違いなんじゃないかと思った。きっと俺はあの2人に導かれた。そして多分あの2人は池波さんと協力したんだ。ということは、俺の行動は池波さんには全部わかっていたんだ。自作ノートのことを言われたらきっと焦って音楽室(ここ)に来るだろうと……。

 今の俺は哀れな道化師も同然だ。

「……はは、最初から俺をここに呼び出すつもりだったの?」

 俺の問いかけに彼女はなにも答えない。それが逆に俺の神経を逆なでした。

「だったらなんで直接呼び出さない?なんでわざわざこんな遠回しのことをした?しかも、池波さんだけに教えたノートのことをあの2人に教えるなんて……。どうしてこんなことをしたんだよ!」

「――じゃあ聞くけど、ちゃんと直接呼び出したらヒロくんはここに来てくれた?真正面からあたしと向き合ってくれた?できないでしょ?あたしに本当のこと言わないでずっとごまかしてたんだから!」

「っ!」

 彼女の言葉に俺は詰まってしまった。彼女の言うことは正しい。きっと俺は直接呼び出されても本当のことを言う勇気がなくて逃げるはずだ。真正面から彼女と向き合うなんて今の俺にはない。そう考えたら確かにこうでもしないと俺は彼女と向き合えなかったはずだ。

「こうでもしなきゃヒロくんとちゃんと話せない。そう思ったから仕方がなかったの!悪いとは思ったけど2人に協力してもらわなきゃできないと思ったの!だから2人にいろいろ話しちゃったこととか騙したことは悪いと思ってるよ?ごめんなさい!ヒロくんの人に知られたくないことを口外しちゃって、騙しちゃって本当にごめんなさい!」

 そうか……。俺は、俺の良かれと思ってやった行動は彼女にそんな思いをさせてしまったのか……。傷つけたくない一心でごまかしていた結果、こんなことになってしまったなんて思わなかった。なのに俺は、俺が悪いにも関わらず、騙されたことや秘密をばらされたことに対してカッとなって怒ってしまった。

「こちらこそごめん。悪いのは俺なのに騙されたことに対して怒ったなんて最低だな。俺がごまかさなければ池波さんに嫌な思いをさせないで済んだのに……。俺の方こそ悪かった」

「――そう思うなら教えてくれる?ごまかしてた理由とか、本当のこととか」

「えっ?」

「教えてくれるまでわたしは帰らない。ヒロくんのことを帰すつもりはないよ」

 池波さんの目は本気だった。こんな目を見て言えない人がいるだろうか。

「ねぇ、ヒロくんはどうしてごまかしたの?あたしのため?それとも……自分の保身のため?」

「違う!自分のことなんてどうでもいい!俺はただ池波さんが……!」

 そう言いかけて言葉を止めた。ここから先は言ってはいけないことだ。言ったら池波さんの……。

「そこまで言ってなんで黙るの?そこまで言うなら全部言ってよ。あたしがなに?あたしのことなら気にしなくていいの!だってあたしはただ本当のことが知りたいから!」

 要するに、彼女は自分がどんな思いをしてもいいから本当のことが知りたいということだよな。彼女が知りたいと言うのなら俺は話すしかないのか?いや、フツーはそうなるか。

「そこまで言ったら言うしかないよな。分かった、言うよ。どんな思いをさせても責任はとらないと言っても知りたいと言うのならね」

 責任はとらない、そこまで言ったら考えを改めるだろうと思った。でもそんな考えは甘かった。

「もちろん。そんな覚悟はもうとっくにできてる。だからこんなことしたんだから!」

 そう言われちゃいうしかない。結局は俺が逃げたいがための言い訳か……。彼女が覚悟を決めたなら俺も覚悟を決めなきゃ。俺は覚悟を決め、話をしようと決意した。


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