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86.それぞれの思い

「よし、それじゃあもう一度麻由を捜そう!桐崎くんもいるから3人で捜せばすぐ見つかるよ!」

 紗弥が笑顔でそういうと桐崎くんが驚いた顔をした。

「えっ?俺も?」

「当然でしょ?麻由を捜そうとしてた乃愛をこんなところに連れ込んで捜す時間を減らしたんだから。その責任を取って一緒に探してよ!」

「は、はい……」

 ある意味むちゃくちゃな理由だと思うけど強気な紗弥の態度を目の当たりにしたら桐崎くんは反論できなかったようで……。とか思いつつわたしもなにも言えなかったけど。

「ほら!さっさと捜さないと麻由が……!」

 紗弥はドアを開けて部室から出たちょうどその時、見覚えのある人物が近くを通った。

「加賀美!」

 そう叫んで桐崎くんは部室から飛び出した。

「あ、キリ。……なんでこんなところに?それに乃愛さんと林原さんまで」

「それはこっちの台詞だよ!お前、今までどこに――」

『加賀美くん!麻由は!?』

 桐崎くんの言葉を遮ってわたしと紗弥は加賀美くんに聞いた。

「池波さんならまだ音楽室にいるかもしれないけど……?」

 加賀美くんからそれを聞いた瞬間、顔から血の気が引いたのが自分でもわかった。

「加賀美くん!麻由と会った?」

 わたしがなにも言えない状態になったと気付いた紗弥がわたしの代わりに加賀美くんに聞いた。

「会ったよ?てか、今の今まで話してたから」

 加賀美くんがそう言った瞬間、紗弥の顔から血の気が引いた。わたし達は顔を合わせて麻由がいるであろう音楽室へ向かった。


 ***


「あ、待って!乃愛さん、林原さん!」

 俺はこの場から走り去っていく乃愛さんと林原さんを引き留めようと声をかけた。が、2人は立ち止まって振り返る素振りをせずただ音楽室に向かって走っていった。さらに加賀美に腕を掴まれて俺はこの場から動くことができなかった。

「キリ、悪いけど今この状況について教えてくれねぇ?」

 ……そうか。加賀美はこの状況についてほとんどなにも知らないんだ。なぜ彼女達があんなにも必死になって池波さんを探しているのか、加賀美から話を聞いた後の彼女達の顔が青ざめているのか。

「その前に1つ質問するぞ?池波さんとどんな話してたんだ?」

「それは……いくらキリでも言えない」

「告白、だろ?」

 鎌をかけるつもりはなかった。でもこうでもしなきゃ多分加賀美は本当のことを言わない。

「やっぱり知っててわざと鎌かけるようなことしたな」

 ……加賀美の方が一枚上だったが。

「……なぁ、演劇部の部室入っていい?ちゃんと話すよ。お前には」

「そういうことならどうぞ。好きな場所に座れよ」

 加賀美を演劇部の部室に入れ、適当なところに座るように促す。加賀美は窓に近い位置に座った。

「……友達から恋愛に発展することってよくあるんだな」

 加賀美は突然そんなことを言い出した。ということはやっぱりそういうことなんだな。

「池波さんが俺に好意を寄せていたなんて知らなかった。ずっと友達だと思っていたから。俺の中では恋愛対象は乃愛さん、他の人は友達もしくはただの知り合い。池波さんと林原さんはその中でも特に仲がいい女友達。だから気持ちが動くことはなかった。たとえ乃愛さんに振られても俺は乃愛さんが好きなんだ」

 やっぱり告白だったんだ。やっぱりまだ乃愛さんが好きなんだ。俺はただ黙って加賀美の話を聞いていた。

「なぁ、もしかして乃愛さんと林原さんは池波さんが俺に告白するのを引き留めようとしたのか?池波さんが傷つかないために」

「あぁ。乃愛さんは池波さんが加賀美に告白することを知って本当のことを言うか言わないか迷っていた。言っても言わなくても池波さんが傷つくのに変わりはないって言ってた。でも結局池波さんに本当のことを言う決心をしたんだ。だから池波さんが加賀美に告白する前に言おうとしたけど言えなくて……今に至る」

 俺は乃愛さんから聞いた話を大雑把にまとめて言った。

「そう、か……」

 加賀美は頭を下げてつぶやくようにそう言った。加賀美がなにを考えているか俺にはわからない。その表情からはなにも得られない。

「俺、池波さんに友達のままでいるけど告白をなかったことにはしないって言ったんだ。でも今思えばそれは間違いだったのかもしれないな……」

 加賀美は俺に聞こえるか聞こえないかの声で言った。俺はなんて言えばいいのかわからず、ただ黙ったままだった。


 ***


『麻由!』

 わたし達は麻由の名前を大声で言いながら音楽室のドアを開けた。そこにはしゃがみ込んで声を押し殺して泣いている麻由がいた。

「……乃愛、紗弥……」

 麻由の目は真っ赤に腫れていた。余程悲しくて泣いたのだろう。

「……えへ、振られちゃった……。なんとなくそんな気はしてたけど……」

 麻由は無理矢理笑顔をつくってその笑顔をわたし達に向けた。見ているこっちまで悲しくなってくるよ。本当は悲しくて悲しくて仕方ないくせに無理に笑顔をつくっている。まるでこの前までのわたしみたい……。

「ねぇ麻由、こんな時に言うことじゃないと思うけど……」

「ちょっと乃愛、今はそんなこと言う場合じゃな――」

「2人の言いたいこと、わかるよ……」

『えっ?』

 麻由の声は小さかったのに紗弥の言葉を遮ってしまうくらいはっきり聞こえた。言いたいことがなにか麻由にはわかっているの?もしかして加賀美くんから……。

「乃愛がヒロくんに告白されたこと、ヒロくん本人から聞いたもん」

『!?』

 あぁ、やっぱりそうなんだ。知っちゃったんだ。わたしから直接伝える前に……。

「乃愛と紗弥の話ってこのことだったんだね……。ごめんね、あたし、本当は少し気づいてたの。ヒロくんに振られること、ヒロくんに好きな人がいること、その好きな人がもしかしたら乃愛かもしれないってこと」

「そうだったの?」

 紗弥が麻由に寄り添いながら言った。

「うん。だって好きな人の好きな人って案外わかるものだよ。行動を見てれば気づいちゃう。ヒロくんはあたしの紗弥に対しては名字で呼ぶのに乃愛だけ名前で呼んでた。その時点でなんとなく予想はできたの」

 好きな人の好きな人がわかる……。その言葉、紗弥も言ってた。でもわたしにはよくわからない。付き合う前の桐崎くんの好きな人は美嘉ちゃんだとずっと思っていたから。

「振られるってわかっていても想いを伝えたかったの、あたし。想いが募ってどうしようもなくて……」

 わたしと似てる……。麻由の話を聞いていてそう思った。振られてもいいから告白しようって思って告白したんだから。わたしと麻由の違うところは成功したかしなかったか、ただその違いだけだった。

「乃愛……。やっぱりあたしは本当のこと言ってほしかったよ。できれば早く」

「うん……。ごめんね、麻由……」

「でもあたしも乃愛の話から逃げてたのは事実。だから自業自得なの。あたしが乃愛の話を逃げずに聞いていればヒロくんへの告白を遅らせることもできた。悪いのはあたしも一緒……」

「いや、でもわたしがもっと早く言えば……」

「そんなことないって!あたしが……!」

「あーもういいから!」

 わたしと麻由のやりとりを紗弥は遮断した。

「もうどっちも悪いってことでいいでしょ?そうすれば問題ないじゃん」

『でも……』

「反論禁止!わたしがそれでいいって言ったらそれでいいの!」

 なんで紗弥がそういうの!?いかにも自分が当事者のような口調で!

『うぅー……わかったよー……』

「うんうん、それでいいそれでいい」

 そう言って紗弥は笑顔になるとわたしに向かって手招きをした。紗弥の近くに寄ると紗弥はわたしと麻由を同時に抱き締めた。

「わわっ!」

「きゃっ!」

「……本当はね、2人の仲が悪くならない方法を考えていたの。でも結局それはわからなくて……。でもお願い。お願いだから、3人の仲を壊さないで……。わたしはやだよ。乃愛と麻由が気まずくなって距離おいちゃうこと。そしてそれが原因でどちらかが離れていっちゃうこと。だって、わたしはこの3人で一緒にいる時間が好きなんだもん」

『……』

 紗弥の声は震えていた。必死に訴えているのがよくわかる。そんなにわたし達のこと考えていたの?わたしと麻由が恋愛に奔走している中、紗弥はそんなことを考えていたの?……バカだなわたし。恋愛は二の次って決めていたのに恋愛に奔走しちゃって。

「……わたしだって壊したくない。3人でいたいよ」

「あたしも……!3人がいい!もう変なこと言わないでよ紗弥!せっかく引っ込んだ涙が出てきちゃうじゃないか!」

「知るかそんなの!」

『えっ!?ひどっ!』

 わたしと麻由はツンデレ紗弥に言った。珍しく紗弥が素直で可愛いと思ったのに。ツンデレはわたしだけじゃなく紗弥も一緒なのね。


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