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81.力になりたい

 乃愛さんから聞いたことはなんとなく予想できていたことだった。池波さんは加賀美のことが好き。もしかしたらそうなのかもしれないと思ってはいたけどまさか本当に好きだったとは意外だった。そして加賀美に告白しようとしていること。これこそ意外中の意外だった。

 乃愛さんは池波さんに加賀美に告白されたという事実を伝えられないでいるのに、池波さんが加賀美に断られる確率が高いと分かっているのに、本当のことを池波さんに言えない。言うべきか言わないべきかを1人で迷っていた。確かにこればかりは林原さんにも言えない話だろう。

 あの時に加賀美の話を遮ったのは池波さんに聞かれたら都合が悪い話だったからなのか。

《だから今は誰かとちゃんと話せる自信がなくて曖昧なこと言っちゃったんだ。ごめんね》

「乃愛さんが謝ることはない。話してくれてありがとう」

《わたし、麻由のことを考えたら正直に言うべきか言わないべきか答えが分からなくて……。加賀美くんがわたしのこと綺麗さっぱり諦めているのならちゃんと麻由の背中を押せるようなことを言えたかもしれない。でも加賀美くんはわたしへの気持ちはすぐには消えないって言ってたの。告白されてからまだ数日しか経ってないし、そんなことを言った加賀美くんがわたしへの気持ちを綺麗さっぱり消してしまったとは思えなくて……》

「俺の勘が正しければ加賀美はまだ乃愛さんのこと好きだよ。あいつは本気で乃愛さんが好きだし結構一途なんだ。振られたからってすぐ別の人を好きになるなんてことはできない」

 加賀美の乃愛さんへの気持ちは本気そのものだった。もしかしたら俺より加賀美の方が乃愛さんに対する気持ちが大きいと思ったこともあるほどに。あいつは自分のことよりも乃愛さんの幸せを願った。ただ乃愛さんに笑顔でいてほしかったんだ。

《やっぱりそうだよね。だって加賀美くんだもん。恋愛においてそんなに軽い行動はしないとわたしも思う》

「乃愛さんの言うとおりさ。加賀美は乃愛さんが笑顔でいることを望み、乃愛さんの幸せを願ってた。そんなに一途な奴が別の誰かを好きになったり好きな人への気持ちをそう簡単に消せるはずがない。……今だから言うけど俺と美嘉が付き合ってるフリをしてた時、俺の本当の気持ちを俺自身に気づかせてくれたのは加賀美なんだ」

《えっ……?》

 正直乃愛さんに言っても反応に困るようなことかもしれない。それにそのことで乃愛さんを傷つけてしまったのだから。でもだからこそ言ってしまって彼女の不安を消してやろうと思うんだ。

「正直、美嘉の彼氏役をする前から乃愛さんには惹かれていた。加賀美もそのことを知っていた。でも俺が美嘉の彼氏役をしてるとあいつが知った時、あいつはどんな反応したと思う?」

《ど、どんなと言われても……》

 乃愛さんはおどおどしながら言った。やっぱりいきなりこんなこと聞かれても困るよな。

「怒ったんだよ。それもすごい勢いで。俺のはっきりしないで黙ってるところが乃愛さんを傷つけて悲しませてるんだって。乃愛さんを傷つけてること、悲しませてることに気付けよって。すごく必死だった。その時に知ったんだ。加賀美が乃愛さんのこと好きだってことを」

 ホント、あの時の加賀美は誰も聞いたことのないくらい大きくて怖い声色で、表情も誰も見たことないくらい真剣な顔だった。普段の笑顔の加賀美からは想像できないものだった。

「それに5人ででかけた時だって。お前は一体なにがしたいんだって言ったんだ。それに言葉にしては言わなかったけどきっとあいつはこう言いたかったはずだよ。『彼女がいるくせに他の女に優しくすんなよ!そういう思わせぶりな行動が乃愛さんを悲しませてるのがわかんねぇのかよ!』ってね。……実際俺自身ももしかしたら乃愛さんも俺と同じ気持ちなのかなって思うことはあったりしたから加賀美の言葉がすげぇ響いた」

《……ねぇ。わたしにそんな話されても困るよ……》

「あ、ごめん。やっぱり反応に困るよな」

《そ、そうじゃなくて……!わたしの気持ちを桐崎くんが気付いていたんだなぁって思うとその……は、恥ずかしくて……》

 ……えっ?そっち?いや、でもそういうのをわざわざ俺に言ってくるとかなんかすげぇ可愛いんだけど……。

《……えっと!話戻そうか!ね?桐崎くんの話聞いたらやっぱり加賀美くんってまだわたしのこと好きでいてくれてるんだね。でもわたし、そのことについて麻由に言えない。どう頑張っても。麻由はわたしの大切な友達だから傷つけたくない》

 乃愛さんの池波さんを傷つけたくない気持ちは分かった。でもいつかは知られることかもしれない。もし知られてしまったらなんで教えてくれなかったのかって2人の間にいざこざが生じてしまうんじゃないかと俺は思う。だから俺は……。

「乃愛さんが言わなくてもいつかは知られることになる。その時になんで乃愛さんは教えてくれなかったんだろうって池波さんは思うはずだよ。そうなってあとで揉めるくらいなら今のうちに言ってた方がいいと俺は思う」

《……そっか、そうかもしれないね。わたし、怖いけど2人に正直に言ってみる。それにもしこれが原因で友達をやめることになったらその程度の仲だったって割り切ればいい……》

 思ってもないことを言っている。乃愛さんは池波さんや林原さんが大好きなくせに……。

「もしもの時はフォローするよ」

《ううん。しなくても大丈夫だよ。これは……わたしと麻由の問題だから》

 乃愛さんは震えた声で言った。その声でそんなこと言われても説得力がない。相変わらず意地っ張りだな、乃愛さんって。いろんな意味で強い人だと思う。

「分かった。でも辛かったら言えよ?力になりたいんだから」

《ありがとう桐崎くん。ばいばい》

「またな」

 俺は乃愛さんが電話を切ってから電話を切った。

「やっぱり頼りねぇのかな、俺って……」

 ケータイをベッドの上に放り投げ、ベッドに倒れこむ。乃愛さんは誰かに迷惑をかけるのを嫌がる。誰かを傷つけるのを嫌がる。それは接していて気付いた。でも俺にはどんなに迷惑かけたって構わないのに……。

 なぁ、俺はどうしたら乃愛さんの力になれるんだ?乃愛さんの力になりたい。だからもっと俺に迷惑かけてほしい。


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