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77.脱走しました!

 わたし達が走ってやってきたのは演劇部の部室からさほど離れていない教室。そう、ここは数ヶ月前に桐崎くんが美嘉ちゃんと付き合うことになったと言われた場所。

「はぁー……疲れた!」

「しっ!」

 桐崎くんに言われて急いで口を押さえ、陰に隠れる。すると廊下から演劇部員の声が聞こえてきた。

「どこだ桐崎!」

「乃愛ちゃん!どこー!?」

 そしてその声はわたし達が隠れている教室から次第に離れていった。静かになってからわたし達は顔を合わせた。

「……これで一安心?」

「そうだな」

 桐崎くんが笑うのにつられてわたしも笑ってしまった。まだ友達のような雰囲気が残っているんだなぁと自覚して悲しくなった。

「にしてもみんなすげぇ興味津々な顔して俺達に聞いてくるな」

 桐崎くんは苦笑いをしながら言った。

「そりゃそうだよ……。多分みんなからすればバレバレだったんだもん」

「そうだな……。てっきりみんな気付いてないと思ったけど知ってたし。分かりやすかったのかな?」

「そんなことないと思うよ?だってわたしは分かんなかったもん」

「それを言ったら俺だって。俺らの関係は『友達』止まりなのかなって思ったりもしたよ」

 『友達』止まり……。本当にそうだと思った。桐崎くんには美嘉ちゃんがいて、桐崎くんが好きなのはわたしじゃない。わたしが告白したところで振られるだけ。だから『友達』で終わりだと思っていた。

「そうだよね……。よく一緒にいたから振られたら気まずいと思ったし」

「そうそう。でもやっと言えたからすげぇ嬉しい」

「……ちょっと、わたしから言わなかったっけ?」

「でも付き合うきっかけになったのは俺じゃない?」

「うぅ……」

 すると突然桐崎くんはわたしの頭をポンポンした。

「未だに嘘みたいだ。乃愛さんと付き合えるなんて……」

 いつもの桐崎くんと違う。こんな甘えた感じのしかも堂々と言う人じゃなかったはず……。付き合うとこんな感じになるものなのかな。

「で、付き合い始めたのはいつ?」

 その声が聞こえて振り向くとそこには緋華と真田くんがいた。

「緋華!と真田くん……。な、なんでここに……!?」

「真田が恐らく2人はここにいるはずだって言ってたから来てみたの。あ、大丈夫!みんなにはバレてないから」

 いやそういう問題じゃないんだけど……。まぁいっか……。

「それで?お前らいつから付き合ってんだよ!」

「あー!うるせぇよ真田!言うから黙れ!」

「よっしゃ!」

 桐崎くん、絶対面倒くさくなったから言うことにしたね……。真田くんは真田くんでしつこいし。

「……昨日だよ。付き合い始めたのは」

『……えっ!?嘘!?』

 緋華と真田くんは口をそろえて言った。というか叫んだ。そりゃ驚くわな……。昨日とか最近すぎるもの。てか昨日付き合い始めて何故今日でこんなに広まった?部活の方はわたしが原因だけど……。

「嘘じゃねぇし!事実だから!」

「いやー……。噂って広まるの早いな。昨日付き合い始めたんだろ?でも多分俺らの学年の3分の1くらいは知ってるんじゃねぇか?」

「それって真田達の学科の2年だけ?学校全体の2年?」

「あー悪い。俺らの学年だけ」

 そりゃそうだよね。今の時点で緋華のいる学科の人にも知られてたら一気に広まるよ。安心したようなしてないような。てかどうして今日1日でわたし達のいる学科の2年の約3分の1の人がわたしと桐崎くんが付き合ってるのを知っているの?早くない?

「知ってるもなにも加賀美が男子にバラしまくってるんだから当然だろ?おかげで昼休みにいろいろ聞かれたりして昼飯食えなかったし疲れたし散々だ……」

「当たり前だろ?ついこの間まで二次元にしか興味なくて『リア充爆発しろ』なんて言ってた奴が三次元に手出して付き合い始めてリア充になったんだからな!」

「手出したって言うのは人聞き悪いからやめろ!似たようなことは3回も聞きたくねぇよ!」

 3回も?ということは真田くん以外の誰かにも言われたんだ。あ、でも前に加賀美くんが桐崎くんにそんなことを言っていたような気がする。じゃあ加賀美くん以外にもう1人いるのかな?……てか噂が広まっている原因って加賀美くんだったんだ。なんとなく分かる気がするけど。

「どうせ事実だろ!?ついさっきだって如月の頭ポンポンしてたし」

「っ!」

「えっ!?そうなの桐崎くん!?」

 真田くんの言った言葉を聞いた緋華は驚いた顔で桐崎くんを見た。桐崎くんの顔は真っ赤になっていた。

「お前気付いてなかったのか!?陰に隠れてる時に頭ポンポンしてたぞ!?」

「うわー言うなバカ!やめろ!」

 桐崎くんが真田くんを叩こうと腕を上げる。しかし真田くんはそれをあっさりかわした。

「避けんな真田!」

「バカ!避けるに決まってるだろ!?」

 そんな2人を見てわたしと緋華は顔を合わせて笑った。

「ちょっと2人ともー」

「めっちゃガキっぽいんだけど?」

『ガキじゃねぇ!』

 同時にこっちを向き、口をそろえて言う桐崎くんと真田くん。その光景が面白おかしくてつい顔が綻んでしまったわたしと緋華は口をそろえて言った。

『そういうところがさらに……ねぇ?』

『あーうるせぇ!どうせガキだよ!』

 ほら、そうやって2人して意地張って開き直るところが更にガキっぽい。でもそんなところさえも好きだと思ってしまうわたしはバカだ……。多分緋華も同じことを考えているはず。顔を見れば分かるよ?

『はいはい、ごめんってば』

 わたし達はお互いの彼氏にそう言って頭を撫でた。やっぱり緋華も同じことを考えてたね?

『本気で言ったわけじゃないよ?』

『……分かってるし』

 桐崎くんと真田くんは拗ねたような恥ずかしがっているような顔をして言った。なんだ……。ここにいる4人って何気に同じこと考えているんだね。なんかそれが逆に楽しいよ。

「くすっ……。なんか可愛いね。桐崎くん」

「はっ……!?い、いきなりなんだよ!?しかも笑ったし!」

「だってそう思っちゃったからつい……」

「はいはい、一旦ストップ」

 緋華がわたしと桐崎くんの会話を止めた。

「わたしと真田は部室に戻るけど乃愛達はどうする?」

「あ、俺達はのこ――」

「わたし達も戻るよー」

「……如月、桐崎の顔が……」

「えっ?」

 桐崎くんの顔を見るとなにやら不満そうな表情をしていた。

「き、桐崎くん……?」

「お前鈍いな……」

「じゃあ真田!わたし達は先に戻ってよ!」

「そうだな!」

 緋華と真田くんは教室から出て行って教室にはわたしと桐崎くんだけが残った。


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