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74.いつも通りに!

「おい加賀美」

 付き合うことになった経緯を大体話し終えたあと、俺と加賀美はベランダに残った。

「なんだよキリ」

「……なんで放課後会ってたのが自分だって林原さん達に言おうとしたんだよ」

 林原さんに聞かれた時、加賀美がなにかを言いそうになった。そしてそれを乃愛さんが遮った。だからその時、加賀美は“誰かにとって都合の悪い”ことを言いそうになったと思った。

「だって呼び出したのは俺だし。事実を話すべきかと思って」

「でもそんなこと言ったら話がこじれるだろ?」

「……あ、そうか」

 納得したように加賀美は言った。

「だからお前が乃愛さんに告白したことや呼び出したことは言わないでおこうぜ。話をこじれさせたくない」

「……それもそうだな。乃愛さんもいつも通りに接してたから俺もいつも通りにするべきか」

「多分乃愛さんはお前との『友達関係』をなくしたくないんだよ。だからきっといつも通りにしてるんだ」

「……なんだろう。キリに言われても全然嬉しくねぇ」

 うわっ、しまった!俺が言うと加賀美の傷口に塩を塗ったみたいで逆効果だ。

「まぁあとで乃愛さんに昨日の告白はなかったことにしてほしいって言っとくよ。だから少しの間乃愛さん借りるから」

「あ、あぁ……?」

「なに警戒心丸出しにしてんだよ。奪ったりしねぇから安心しろよ!」

「いや、ちゃんと分かってはいるけどさ……」

「昨日付き合い始めたくせに余裕ねぇなお前……」

「し、仕方ねぇだろ……!?だって……」

「大丈夫だって。乃愛さんはお前一筋だから」

 その言葉を聞いて俺は不思議と安心できた。乃愛さんがこんな俺のことを好きでいてくれてるのだと思ったら嬉しくなった。

「うわー……なににやけてんだよ!むかつく奴だなお前!」

「えっ……にやけてたのか俺?」

「あぁ、ばっちり見たぜ。ホント幸せそうで嫌味な奴め……」

 加賀美の顔が少し怖くなった。そうだよな……。友達と好きな女がかぶってしかも彼女は自分じゃなく友達である俺と付き合うことになったんだからな。なのに俺は自分だけ嬉しそうに……。

「このリア充が!幸せそうにしやがってマジむかつく!」

「お、落ち着けよ加賀美……」

「まぁいいや!これから思いっきり冷かしてやるしからかってやるから!覚悟しろよ!?バーカ!」

 そう言い残して加賀美は教室の中に入っていった。やっぱりなんか無理しているんだな加賀美……。分かったよ。お前の前であまり乃愛さんの話はしないようにするよ。


 ***


「乃愛さん。ちょっといい?」

 1時間目の授業が始まる前の休み時間、わたしは加賀美くんに呼ばれた。

「うん。いいよ」

「じゃあベランダ出よ?」

 加賀美くんのあとを着いていってベランダに出た。ベランダで話すってことは誰にも聞かれたくない話をするつもりなのかな?

「あのさ、昨日の告白、なかったことにしてほしいんだ」

「……えっ?」

 なかったことにする?加賀美くんの告白を?

「なんで……?」

「乃愛さんに迷惑かけたくないし今まで通り友達でいてほしいんだ」

 迷惑かけたくないから告白をなかったことにするの?今まで通り友達でいてほしいから告白をなかったことにするの?告白ってそんなものなの?

「だからなかったことにして欲し――」

「なにそれ?」

 気付けばわたしは珍しく低めの声で加賀美くんの言葉を遮っていた。

「わたしは加賀美くんの気持ちを迷惑だなんて思ってないし、これくらいで友達が終わるわけないよ。だって言ったじゃん。友達としてだけど加賀美くんのこと好きって。加賀美くんはそれじゃ嫌かもしれないけど……。だからわたしは加賀美くんが嫌じゃなければ今まで通り友達でいるよ」

「……本当にいいの?」

「もちろん。だからなかったことにはしない。ちゃんと向き合わなきゃ。もう現実から目をそらしたくないの」

「キリのことで反省してる部分があるんだ」

「……うん、あるよ。辛い現実から目をそらしていたの。目をそらしてもなにも変わらないのにさ」

 だから今のわたしがいる。どんなことからも目をそらさないで向き合わなきゃって思った。加賀美くんのこともそうしたい……。

「じゃあさっきの話はなかったことに。俺が乃愛さんに告白したことは変わらないし俺達の関係も変わらないってことで本当にいいんだね?」

「うん、いいよ」

 わたしは元々加賀美くんと友達をやめるつもりはなかった。加賀美くんが嫌じゃなかった場合だけど……。

「ありがとう」

 そう言って加賀美くんは教室に入っていった。わたしも加賀美くんに続いて教室に入った。


 ***


「なんの話してるんだろうね。乃愛と加賀美くん」

「そうだねー……」

 乃愛がヒロくんとベランダで話しているのをわたしと紗弥はずっと見ていた。

「告白だったりして?」

 紗弥はからかうように笑いながら言った。

「ははは、まさか……」

 わたしからすれば紗弥の言葉は冗談に聞こえない。いくら乃愛に桐崎くんという彼氏がいるからと言って乃愛は可愛いから告白されてもおかしくはないし。それになんか少し気になることがある。さっきベランダで5人で話している時、ヒロくんがなにか言おうとしたのを乃愛が遮ったように見えた。あの2人には“わたし達には言えないなにか秘密がある”ような気がしてならない。

「ねぇ桐崎くん。なんか知らない?あの2人のこと」

 紗弥がたまたま近くを通りかかった桐崎くんに声をかけた。

「えっ、あっ……知らねぇ……」

 桐崎くんは視線をそらしながら言った。

「本当にー?」

「ほ、本当だから!」

 いやいや、なにか隠している感大ありですよ?明らかに怪しい。

「ふーん……。まぁいいや。ねぇ桐崎くんに1つ聞きたいんだけどさ」

「な、なに……?」

「今まで二次元好きだったのに三次元にも手出しちゃったんだね。てか二次元にしか興味ないと思ってたのに……」

「手出したとか人聞きの悪いこと言うなよ……。いろいろ誤解されるし」

 確かに手出したというのは人聞きが悪い。わたしも似たようなことは思っていたけど言葉を変えようよ……。

「ねぇ、どうして?」

「えっ?」

「どうして乃愛が好きなの?ぶっちゃけ乃愛ってさ、可愛いけど二次元にいそうなキャラじゃないじゃん?なのになんで好きなのかなーって思うんだけど……」

 うわっ、ストレートにつっこんだ……。周りを気にせずストレートにつっこむのは紗弥の得意技だからなぁ……。

「そ、それは……」

 桐崎くんがなにかを言おうとした時、ベランダにいた2人が戻ってきた。

「あーもう!タイミング悪いよ!」

「えっ!?わたし、なんか悪いことしたぁ!?」

『した』

 わたしと紗弥は口をそろえて言った。もう少し遅く戻ってきてほしかった。でも……2人は一体なにを話していたんだろう?

「いや!乃愛さんはなにも悪いことしてないよ!?」

『桐崎くん!身内贔屓禁止!』

「贔屓なんてしてねぇよ!」

「つーかお前浮かれすぎじゃね?」

「浮かれてねぇよ!」

 まぁいいや。今は気にしないでおこう。それにわたしから聞くんじゃなくて乃愛から話してほしいからわたしは待つよ。乃愛が話してくれること。ヒロくんと乃愛がいつも通りに接しているってことは告白とかそういう類の話じゃないって信じたい。いや、信じてるよ。でも本当のことは分からない。だから話してくれるの待ってるからね、乃愛。


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