73.報告させてください!
翌日、学校に来る時からすごくドキドキしていた。桐崎くんと顔を合わせたらきっと顔が赤くなりそうで、そしてそれがみんなにバレそうでいろいろな意味でドキドキしていた。
「おっはよ~乃愛!」
「おはよう麻由ー!」
教室に入った途端、麻由が駆け寄って来たのでいつものように抱き合って挨拶。最早日常茶飯事。
「あれ?今日のポニーテール可愛いね!巻いててふわふわしてるから超可愛い!」
「そ、そう?ありがとう……」
そう。今日はいつもより早く起きて髪を巻いてみた。少しでも可愛くみせたくて頑張ってみた。でもやっぱり慣れていないから巻くのに時間がかかっていつもよりちょっと遅く学校に着いた。教室を見回してみると桐崎くんの姿は見当たらなかった。なんだかよかったようなよくなかったような微妙な気分。
「珍しいね!なんかあったの?」
ドキッ。まさか早速聞かれるとは……。どうしよう。やっぱり正直に桐崎くんと付き合うことになったから、なんて言い出せない。さぁどうしよう……。
「おはよう」
そう声をかけられて声のした方を向く。
「か、加賀美くん……。おはよう」
「おはようヒロくん!」
そこにいたのは加賀美くんだった。告白されて断ったのは昨日の今日。なんだか気まずい……。そう思っているのはわたしより加賀美くんの方だろうけど。
「……よかったね乃愛さん」
「えっ?」
突然のことにびっくり。彼がなにに対してよかったと言ったのかが分からない。……いや、なんとなくだが予想は出来ている。
「キリのことだよ。今日の乃愛さんすごく嬉しそうな顔してる」
「えっ?そ、そうかな……」
「そうだよ。幸せオーラだだ漏れ。ね、池波さん?」
「うーん……。言われてみればそうかも。珍しく髪なんて巻いちゃって……ってなに!?やっぱりなんかあったの!?ヒロくんは知ってるの!?」
あ、ヤバい。これは即バレかも……。てかなんで思わせぶりなこと言っちゃうのかな加賀美くん!やっぱり加賀美くんは知っていたんだね……。それとも桐崎くんから聞いたのかな?
「あ、もしかしてなにも聞いてないの?」
「聞いてない聞いてない!第一『キリのこと』ってなに!?桐崎くんとなんかあったの!?あっ!まさか……!」
「気付いた?」
加賀美くんはすごくニヤニヤと笑って麻由に言った。麻由も反応からしていろいろ気付いたのかな……?
「なになに!?えっ!?そういうこと!?いつから!?てかどっちから!?」
あちゃー……、やっぱりバレた……。でもいいかな。隠すつもりはなかったし聞かれなかったとしても散々協力してくれたのだからちゃんと報告しようと思っていたし。まさか付き合った翌日に即バレとは思わなかったけど。
「ちゃんと説明するから落ち着――」
「あっ!桐崎くん来た!」
そう言って麻由は教室の入り口に立つ桐崎くんを指さした。
「お、おはよう……。どうした?そんな大声出して」
麻由の突然の行動に桐崎くんは戸惑っている。その時、一瞬桐崎くんと目が合った。付き合い始めたのが昨日の今日なのでドキッとしてお互い目をそらしてしまう。それが決定的な証拠になった。
「やっぱりそうなんだ!そんなことしたらバレバレに決まってるじゃん!」
「だから麻由……。そういうのは一応ちゃんと報告したいんだけど……」
「へぇー、やっと付き合うことになったんだね。乃愛と桐崎くん」
『えっ!?』
そこへいつの間にか紗弥が話に入ってきて結論をズバッと言った。しかもクラスメートがいる教室で堂々と……。多分近くにいた人には聞こえていたと思う。紗弥がそう言った時こっちを見たもん。
「あー、もう!本当じれったかった!お互い好きってのがわたし達には伝わってたのにあんた達本人は気付かないんだもん!相手に好かれてるわけないってお互い思い込んでたし!言っておくけどあんた達2人の好意なんて周りから見ればバレバレだったんだからね!それに気付かないなんてどんだけ鈍感なの?鈍すぎ」
紗弥が言いたい放題言った言葉が連続して胸に刺さり、倒れそうになった。気付かなかった……分からなかった……。そんなにバレバレだったなんて……。
「まぁまぁ落ち着こうよ紗弥。怒りたい気持ちは分かるけどまずよかったじゃない?やっと2人がくっついたんだからちゃんと祝福しなきゃ!」
「そうは言ってもさー、2人とも鈍感にも程があるって。第三者に分かって当事者が分からないなんておかしいでしょ」
「それもそうだよなー、キリが鈍感なのは知ってたけどまさかここまでひどいとは思わなかったよ……」
「俺ってそんなに鈍感か?」
『鈍感』
加賀美くんと紗弥と麻由は口をそろえて言った。
「まぁ2人が鈍感なのはさておき、お楽しみにいきますか!」
『お、お楽しみ?』
わたしと桐崎くんは口をそろえて言った。そしてそう言った紗弥の顔を見て嫌な予感がした。こんなに笑顔な紗弥はきっとなにか企んでいるに違いない。すると加賀美くんと麻由もニヤニヤと笑ってわたし達を見た。
『付き合うことになった経緯、詳しく聞かせてもらおうじゃないか?』
やっぱりー……。3人対2人じゃ絶対逃げられない、敵わない!どうしよう!そんなことを考えていると麻由がわたしの腕を掴んだ。
「逃げようなんて考えても無駄って分かってるよね?さぁ!場所変えよっか!」
麻由がわたしの腕を引っ張ると同時に加賀美くんが桐崎くんの腕を掴む。
「あ、みんなに話聞かれてもいいならここで話してくれてもいいんだよキリ?」
「あー分かったから!場所変えようか!」
『そうこなくちゃ!』
と、こんな具合でわたし達5人は場所を変えることにした。でも行き先は……教室のベランダだった。
『はぁ!?昨日の放課後ぉ!?』
大体のことを話し終えると紗弥と麻由が声をあげた。
「へぇー。だから昨日一緒にお昼食べに行けなかったのね!」
「……いや、そ――」
「はいそうなんです、ごめんなさい」
『って棒読みかぁ!』
加賀美くんがふとわたしの顔を見た。恐らくわたしが加賀美くんの言葉を遮ったからだろう。だって言わせたくなかったし聞かれたくなかった。わたしと加賀美くんの関係が崩れなかったとしても麻由の心がどうなるか分からない。こればかりは友達でも麻由に言うことはできない。もちろん紗弥にも。
「てか本当にどっちから言ったのか教えてくれない?」
「そうだよ!ここまで言っといてそれを言わないなんてもったいないことしないで!」
紗弥と麻由が交互に文句を言う。そうは言われても言えない理由があると言うのに……。
「だーかーらー!どっちからなのか未だに分からないの!」
『はぁ!?』
あーもう……。ちゃんと言わなきゃダメ!?
「先にその……す、好きって言ったのはわたしだけど……」
「付き合ってくださいって言ったのは俺」
わたしの言葉を繋げるように桐崎くんが言った。改めて口にして言うとその時の情景が頭に浮かんで恥ずかしくなる。でも桐崎くんは恥ずかしがっている素振りを見せない。
「確かに微妙ね……。でもやっぱり付き合ってくださいって言ったのが桐崎くんなら桐崎くんからってことになるのかな」
「それより乃愛も頑張って言ったんだね!そこは褒めたげる!」
褒めたげると言われてわたしはどう反応すればいいのだろう……。
「でもわたしは許してないよ?乃愛を傷つけたり悲しませたりしたこと」
紗弥はいつもより少し低めの声で桐崎くんに向かって言った。
「それについても詳しく話しただろ……?」
桐崎くんは困ったように紗弥に言った。わたし達はそんな2人をハラハラしながら見ていた。
「だからと言って『はいそうですか』って簡単に許すと思わないでね!だって納得出来るわけないでしょ!?いくら再従妹のストーカー対策のためだからって付き合ったフリしてさ!しかもそれを乃愛やわたし達、加賀美くんにさえ言わないなんて!」
「だからそれは嘘がバレるかもしれないから誰にも言わないでって言われたからであって……」
「それよそれ!本当のことを聞いたわたし達がそれを誰かに言うとでも思ったの!?わたし達がそんなに信用出来ない!?」
「ちょ、ちょっと紗弥……?」
「ひとまず落ち着こうよ……ね?」
そろそろヒートアップしてきた紗弥を止めようとわたしと麻由は声をかける。
「これが落ち着けられずにいられるかっ!乃愛は怒ってないの!?」
「えぇっ!?なんでぇ!?」
なぜわたしに話を振る!?
「だって桐崎くんに彼女が出来た時すごく辛くて泣いてたじゃない!2人がキスしてるの見た時だって辛かったくせに無理矢理笑顔なんか作ったりしてさ!……そうだよ!なんで乃愛が好きだったくせに再従妹とキスしたの!?」
「キスしてねぇよ!?キスもどきだから!」
「はぁ!?意味分かんない!なんでわざわざキスもどきなんかしてんの!?」
あー、もうダメだわ……。こんなに興奮状態の紗弥を止めるのは難しいわ……。紗弥が自分から静まらない限り。
「それに関しては長くなるからまた今度ってことで……」
「なにそれ!てか乃愛にも言ってないの!?」
「言ったから!告白してからちゃんと言ったさ!」
「なんで告白してから!?フツーそこは告る前でしょ!?……まぁいいや。あとで乃愛に聞くもん」
「えっ、あっ、うん……?」
突然のことに曖昧な返事をしてしまった。でも説明しづらいなぁ……。
「でもこれだけはちゃんと分かっててよ!?乃愛、本気で悲しくて辛い想いしてたんだからね?桐崎くんのこと諦めたら楽になるかなって思うくらい辛かったんだから!」
「ちょっと紗弥!恥ずかしいこと言わないでよ!」
なんでそんなことまで言っちゃうの!?恥ずかしくて死んじゃう……。穴があったら入りたい気分。
「だって本当でしょ?ねぇ麻由?」
「そうだね……。さすがにあの時は桐崎くんを恨んだわ。もう殴りたいくらいに。乃愛のこと好きなくせに悲しませるようなことするんだもん!」
「ちょっと待って……。俺が乃愛さんのこと好きだってこと、一体いつから……」
「演劇部の合宿中に電話した時から」
と加賀美くん。
「桐崎くんが乃愛に手袋貸したって知った時から」
と紗弥。
「同じく!」
と麻由。3人がそれぞれ桐崎くんの質問に答えた。
「待て加賀美……。合宿中はまだ好きになる一歩手前だから……」
「じゃあ手袋貸した時っていうのは?」
「それはその……」
桐崎くんは顔を赤くして手で顔の半分を隠した。か、可愛い……じゃなくて、見てる聞いてるこっちまで恥ずかしくなってきた!
「まぁ今は詳しいことは聞かないでおこう!そろそろ予鈴鳴るし昼休みにまた聞くから」
そう言って紗弥は教室に入った。
「待ってよ紗弥!ほら、乃愛も行くよ!」
「あ、うん!」
わたし達3人は先に教室の中へ戻った。その時桐崎くんは教室に入ろうとした加賀美くんを引き留めていた。
付き合い始めた直後のもどかしさに胸がキュンキュンしてしまいます(笑)
この新鮮さが色褪せることなく続きますように……