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72.付き合うということ

 桐崎くんと付き合うことになった日の夜、わたしはずっとふわふわとした気持ちで浮かれていた。未だに夢なのか現実なのか分からないくらい幸せな出来事だった。そんな気持ちの時、着信音が鳴って我に返った。

「は、はいもしもし!」

《こんばんは》

 電話の相手は桐崎くんだった。

「こここ、こんばんは……!」

 突然のことに動揺を隠せず、話し方が変になる。

《なんでそんなに焦ってるの!?》

 電話越しで桐崎くんは笑っていた。さっきのことがまるで嘘みたいにいつも通りの桐崎くんだった。

「だ、だっていきなりだったからつい……」

《驚かせてごめん。あ、もしかして今電話しちゃまずかった?》

「ううん!大丈夫だよ!どうしたの?」

《いや、ちょっと確かめたくて……》

「確かめたい?」

《あぁ。あのさ……さっきのこと、夢じゃないよな?》

 ドキッ。わたしも似たようなことを思っていた。浮かれちゃうくらいに嬉しくて幸せな気持ちだったから夢かもしれないって思った。でも桐崎くんがわざわざ電話してまでそのことを聞いてくるのだからきっと夢じゃない。これは――間違いなく現実。

「……うん。夢じゃないよ?本当のこと」

《本当だな!?あー、よかった……。夢だったらどうしようかと思った……》

「……も……」

《えっ?》

「わたしも……夢だったらどうしようって、さっきのは素敵な夢だったんじゃないかって、そう思ってたの……」

 そう言った時、声は震えていて今にも涙が出そうになっていた。

《大丈夫。夢じゃない。本当のことだよ》

 桐崎くんの声は今までの声と少し違い、優しさの混じった声だった。そんな声でその言葉を聞いたら安心できた。ついさっき似たようなことをわたしは言ったけど最早そんなの気にしないしつっこまない。

「よかった……。夢じゃなくて」

《っ!》

 電話越しに桐崎くんの息を呑む音が聞こえた。

「……?どうしたの?」

《あの、さ……そんなこと言われるとすげぇ嬉しいんだけど……》

「えぇっ!?」

 顔が赤くなったのは自分でも分かった。わたしはただ夢じゃなくてよかったって安心してそれを口にしただけなのに……。それだけなのに桐崎くんは嬉しいと感じたんだ。

「でも本当のことだもん……」

《そうかもしれないけどすげぇ照れる……》

 そんなことを言う桐崎くんが可愛いと思った。わたし達はもう思ったことをちゃんと口に出来るようになったんだって思った。

「それじゃあ思う存分照れてください!」

《もう十分照れたし!あ、そうだ。あのさ付き合ってるってこと、もうバラす?》

「わたしは別にそれでも構わないよ?わたしは聞かれたら正直に言うつもりだったから聞かれなかったら別にいいかなぁなんて思ってたけど……」

《あー、そういうのもありだな。自分から堂々とバラすのはなんか勇気いるし……》

「そう?」

《そうだよ!『俺達付き合うことになったんだ!』って言ったら『自慢かよ!』って言われそうじゃね?》

「あー……」

 なんか納得。女子は付き合うこと報告すると祝福するが、男子は祝福する前に皮肉を言うんだよね……。なんだかガキみたい……。

《だから聞かれたら言うことにするよ。……まぁ誰かさんは聞かなくても分かると思うけど》

「えっ?誰かさん?」

《……あっ》

 桐崎くんはなにか言ってはいけないようなことを言ったのだろうか。声から判断するとそんな気がする。

《……加賀美だよ加賀美。あいつなら聞かなくても分かるはずだから》

「えっ!?」

 どうして加賀美くんから聞かなくてもわたし達が付き合っていることを分かるのだろう。少し考えてみる。……あっ、そうかも。加賀美くんは桐崎くんの気になる人を知っていたみたいだし、わたしが桐崎くんのこと好きっていうことも知っていた。勘の鋭い加賀美くんのことだからそれらを合わせれば答えは必然と出てくる。

《加賀美は勘が鋭いからな。俺が走って公園に行ったのを目の当たりにした時点で俺が乃愛さんに告ろうとしてたのは分かるだろうし》

「そうだよね……。加賀美くんはいろいろ気付いてたからなにも言わなくても分かってそう」

 加賀美くんは分かっていた。わたしと桐崎くんが両想いってことを。分かっていたのに加賀美くんはわたしに告白したんだ……。一体どんな気持ちだったのだろう……。

《つか俺さ、実は加賀美が乃愛さんに告白してるところ見ちゃったんだ……》

「えぇっ!?そうなの!?」

 桐崎くんのまさかの爆弾発言。こればかりは驚かずにはいられない。

《あぁ。しかも乃愛さんが『好きだよ』って言ったところで……俺そん時マジでへこんだよ……。あー、もう振られたって》

「え、ちょっと待って……。わたし、加賀美くんの告白断ったよ?」

《えっ?加賀美は返事はまだもらってないって――》

『あっ……』

 桐崎くんがそこまで言った時、わたし達はほぼ同時に声を上げた。そっか、加賀美くんのその発言は桐崎くんの背中を押すため……。そして思い出した。わたしが加賀美くんに言った『好き』って言葉の意味。

《あいつ……。嘘言いやがった……》

「まぁまぁ。それとね、加賀美くんに好きって言ったのは『友達として』だよ?『友達として好き』だから5人で一緒に出かけたんだもん」

《あっ、そういうことだったのか……!うわー、早とちりとかかっこ悪……》

「紛らわしいこと言ったわたしもわたしだし……」

《いやいや、そんなことないって。……あのさー、俺がこんなこと聞くのおかしいかもしれないけど聞いていい?》

 突然桐崎くんが改まったように言った。

「うん、なに?」

《『友達』として加賀美が好きで、俺と付き合うってことはさ――もしかして男子苦手じゃなくなった?》

「えっ?」

 そんなこと、考えてもなかった。確かに男子は苦手だけど桐崎くんとも加賀美くんとも真田くんともフツーに話せる。それに桐崎くんのことが好きになって付き合うことになった。未だに男子が苦手だったら出来ないのに……。

「正直自分でもよく分からない……。確かに桐崎くん達とはフツーに話せるから平気なんだけど、他の人とか見知らぬ人は多分苦手意識が強いと思う。あの時みたいに……」

 5人で出かけた時に声をかけられて連れて行かれそうになったこと。あんな人達に対しては苦手意識が強いのは改めて実感した。けどいつの間にか桐崎くん達に対しては苦手意識がなくなっていたみたい。

《大丈夫。今度また同じ目に遭いそうになったら俺がなんとかするから》

 ドキッとして顔が赤くなる。思わずベッドにダイブして顔を埋めた。ヤバい。めっちゃ嬉しい……。桐崎くんがわたしのためにそんなことしてくれるなんて嬉しすぎるよ!

《……もしもーし。乃愛さーん?》

「えっ?あ、はい!」

《どうかした?》

「いや、その……。桐崎くんの言葉がなんだか嬉しくてつい……」

《……なんで乃愛さんはそう、嬉しいこと言ってくれるんだよ……!》

「だ、だって……!」

《もし今近くにいたら頭撫でたいくらい嬉しいんだけど?》

「えぇっ!?」

 それはそれですごく嬉しいんだけどそんなことされたらいろいろと恥ずかしくて死んじゃいそうだよ!

《隙を見つけてやるから》

 そう言った桐崎くんの声は明るくてなにやら楽しそうな声だった。

「う、うん……」

《それじゃあまた明日。おやすみ》

「おやすみなさい」

 最後の方は声が小さくなってしまった。嬉しい気持ちもあったが恥ずかしい気持ちの方が勝ってしまったようだ。

 なんだか、気のせいかもしれないけど桐崎くんがいつにも増して積極的だなぁと思った。あんな発言、今までしなかったし……。これが付き合うってことなの?付き合うからあんなに堂々と積極的な発言をするの?しばらく恋という恋をしていなかったわたしにはなにが正しいのか分からなかった。


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