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69.桐崎の気持ち・後編

 水族館では特になにも問題はなかったが、ショッピングモールにて問題発生。彼女1人置いて俺達4人は昼食を買いに行った。彼女を1人にすると危ないと思って残るつもりだったが加賀美に連れて行かれた。だから彼女に誰か知らない男が近寄ったりしないか見ていた。案の定彼女は2人の男に声をかけられていた。1人の男が嫌がっている彼女の腕を掴んで立ち上がらせた。彼女は抵抗してはいたが男の力には敵わないのだろう。これにはさすがに限界だった。見知らぬやつが嫌がっている彼女に触れるな。そう思ったらもう止まらなかった。加賀美に金は払うから俺の買っといてと頼んで彼女のいる席まで走っていった。

「やだっ……!」

 近くまできた時、彼女の震えている声が聞こえた。今にも泣いてしまいそうなほどに震えていた。

「なにしてんだ!」

 彼女の近くにいた男達に向かってそう言い、彼女の身体を背中から抱きしめるようにして覆い、彼女の腕を掴んでいる男の手を掴んだ。

「俺の連れだから手出さないでくれます?」

「なんだ、彼氏いたのか……」

 そう言うと彼女に近寄った見知らぬ男達は渋々と俺達から離れて行った。

「大丈夫!?乃愛さん!?なんかさ――」

「桐崎、くんっ……!」

 俺の方を振り向いた彼女は俺の服にしがみついた。

「の、乃愛さん……!?」

 見ただけで震えているのが分かった。そうだ。彼女は男子が苦手なんだ。それなのにさっきのやつらにあんなことされたのだから怖いに決まってる。

「……怖かったんだね、乃愛さん」

 彼女の頭の上にそっと手を置いて彼女の頭を撫でた。早く落ち着いてほしくて彼女が少しでも早く安心出来るように優しく撫でた。

「1人にしてごめん。やっぱり俺も待てばよかったな」

「ううん……。助けに来てくれただけで十分だよ」

 本当素直じゃないな。こんな身体も声も震わせておいてそんなこと言うなんて。あの時俺が加賀美に逆らって彼女と一緒にいたら彼女があんな怖い思いをすることはなかったんだ。

「もう大丈夫だから安心して」

 その言葉に根拠はなかった。でも彼女を安心させたくて言ってしまった。もしまた見知らぬやつに声をかけられそうになったら声をかけられる前に追い払うよ。再び彼女に怖い思いをさせないために。

 昼食後、加賀美に話があると呼ばれ、非常階段へ移動した。話は予想通り彼女についてだった。俺が彼女を助けに行ったわけなどを含めて。そして加賀美は俺に彼女が好きかどうか聞いてきた。もちろん俺の答えは決まっている。なにも変わってはいないさ。

「好きに決まってんだろ。じゃなきゃあんな必死になって助けに行かねぇよ。しがみついてきて震える彼女を落ち着かせようと頭撫でたりしねぇよ」

「そうか、やっぱりそうなのか。だったら……」

 加賀美はそこで言葉を止め、俺の胸倉を掴み、壁に押しつけた。

「だったらなんで彼女に好きって言わねぇんだよ!好きなら好きって言えばいいじゃねぇかよ!そんなに楠木って女の方が大事か!?気付けよ乃愛さんの気持ち!分かってんだろ!?楠木って女の話になったら乃愛さんの表情が暗くなること!なんでお前はそうやって自分の気持ちに素直にならねぇんだ!お前が乃愛さんを好きっていう気持ちはそれくらいなのかよ!自分の中にとどめておく程度だったら俺はもう引かねぇ。本気でもらいにいく」

 加賀美の目は本気だった。決して冗談なんかじゃない。それを見て俺は加賀美に嫉妬したことを素直に言った。もちろん加賀美は嘲笑じみた笑みを浮かべるだけでどうでもいいと思ったのだろう。同時に加賀美は俺の胸倉から手を離した。そして加賀美は俺に今から言うことは独り言だと思ってくれていいからと前置きしてから言ったんだ。休み明けに彼女に告白することを。振られたら気まずいということを分かってはいるけどもう抑えられないらしい。それなのに尚、彼女に告白しようとする加賀美をうらやましいと思ったのはいうまでもない。すると加賀美は突然俺に言った。

「なぁキリ。お前は気まずくなることを恐れてこのまま黙っているつもりなのか?」

「俺は……」

「まぁ、もし伝えるつもりだったなら楠木って女と付き合ったりしねぇか。したとしてももうはっきり言うべきだろうな。好きな奴がいるから付き合えないって」

 図星だった。俺は逃げていただけなんだ。彼女から、俺自身の彼女への気持ちから。振られるのを恐れて、気まずくなるのを恐れて彼女に気持ちを伝えたくなかっただけなんだ。でも逃げてばかりじゃダメなんだ。そんなことをしたらいつまで経っても変われない。このまま『友達』でいることになるんだ。そして決意した。もう茶番はやめる。終わりにするべきなんだって。加賀美のおかげで俺はやっと前に進むことができる。同じ人を好きになったというのに俺の背中を押すようなことをするなんて本当に加賀美はお人よしだな。そんな加賀美に感謝しつつも負けたくない、彼女をとられたくないと本気で思った。

 3人が待つフードコートに戻り、ゲーセンに行くことになった。ふらふらと歩き回っているとUFOキャッチャーの前で目をキラキラと輝かせている彼女を見つけた。ちょっと見ているとどうやら彼女は取るのに失敗したらしい。気付いたら勝手に身体が動き出して彼女の後ろに移動していた。

「あれが取りたいの?」

「き、桐崎くん……!うん、あれが欲しかったんだけどUFOキャッチャーはどうも苦手で……」

「俺が取ろうか?」

 彼女の返事を待たずにお金を入れて早速挑戦した。なんとしても彼女に取ってあげたかった。……見事に失敗したけど。だから悔しくてもう一度挑戦した。2回目はちゃんと取ることが出来た。

『おぉっ!』

 彼女はすごく喜んだ顔をした。そして俺は取ったマスコットを彼女に渡した。遠慮しているのかなかなか受け取ってくれなかったけどなんとか説得したらやっと受け取ってもらえた。でも彼女はお金を払うと言ってきた。再びなんとか理由をつけて無理矢理説得させた。彼女は渋々了承しながら俺に笑顔を向けた。

「ありがとう!すごく嬉しいよ!」

 その仕草の全てが可愛いと思った。愛おしいと思った。だから頭をポンポンと撫でたのだろうか。すると彼女は恥ずかしそうに少し顔を赤らめて、でも少し嬉しそうな笑顔を見せた。

 あっという間に時間は過ぎ、林原さん、加賀美、池波さんは次々と去っていった。残された俺達はバス停に向かった。外は寒く冷たい風が吹いていた。彼女が寒そうにしていたから手袋を貸した。断られたけど彼女の手に触れたら冷たくなっていたからまたも強引に押しつけてしまった。さらになかなか手袋を使おうとしない彼女をなんとか説得させ、強引に使わせた。よくよく考えたらすごくひどいことしたと思うけどこうでもしなければ彼女は意地を張り続ける。そんなことをして風邪をひかれたら困る。

「2回目だね。桐崎くんから手袋貸してもらうの」

 手袋を自分の手にはめた彼女はそう言った。

「そう言えばそうだな……。なんか半ば強引に押しつけたけどな」

「そんなことないよ。桐崎くんがわたしのこと心配してくれているんだなぁって思ったら嬉しかったよ」

「っ!」

 その言葉を聞いた瞬間、自分でも顔が赤くなったのが分かった。まさか彼女がそんなことを思っていたなんて予想外だったんだ。だからもしかしたら彼女も俺と同じ気持ちなんじゃないかと一瞬期待してしまいそうになった。そしてちょっと気を抜いただけで俺はとんでもないことを言ってしまった。

「休み明けに大事な話があるんだ」

「えっ?今じゃダメなの?」

「今はまだ話す時じゃないんだ。というか今はまだ話せない」

 今は話せない。彼女はまだ俺が美嘉の彼氏だって思いこんでるし、美嘉に彼氏役をやめたいとも言ってない。彼女に告白する前に美嘉とのことを終わらせなくちゃいけない。

「そ、そうなんだ……」

「だから休み明け、いつでもいいから2人で話せる時間をくれない?」

「……うん、分かった。わたしも今は言えないけど桐崎くんに話しておきたいことがあったの。だから、いいよ」

「ありがとう」

 彼女にお礼を言うと同時に彼女の乗るバスが来た。俺は彼女がバスに乗るところからバスが発車するまで彼女を見ていた。彼女も見えなくなるまで俺を見ていた。悪い、加賀美。俺も彼女に告白するから。多分お前と同じで冬休み明けに。諦めるつもりだったのに今日1日でさらに愛おしいと思ったんだ。だからもう決めたん。絶対に逃げないって。


 そして新年を迎え、誘われるがままに美嘉と初詣に行った。そこで彼女達に会ってしまった。彼女は俺と美嘉がキスしていたと思いこんで走り去った。追いかけようとしたが美嘉に止められてしまった。動けないでどうすればいいか迷っていると林原さんが冷たい目で俺を見た。

「……桐崎くん、乃愛を悲しませるようなことしたって分かってるの?」

「!?」

 そう言った林原さんの声は低く、冷たかった。言われた言葉が胸に刺さって一瞬固まってしまった。図星だったんだ。でも林原さんのおかげで目が覚めた。ついこの間彼女に告白すると決めたんだ。だからそのためにも今美嘉に本当のことを言うしかないんだ。そして本当のことを美嘉に告げた。案の定美嘉はいやだと反対した。本当はこんなこと言いたくなかったが納得させるために彼氏役になる条件を仕方なく口にした。

「美嘉は言ったよな?『もしはーくんが本当に好きになった人が出来たら彼氏のフリはしなくていいから』って。だから俺は美嘉の彼氏のフリをしたんだ。でも実際今、俺は本当に好きになった人がいるんだ。だから……」

「好きな人、はーくんが好きになった人ってさっきの逃げていった人でしょ……?」

「あぁ。そうだよ」

 ここまで言っといて隠すのは面倒くさい。だから質問には包み隠さず正直に答えた。

「そっか……。分かった。もう彼氏のフリしなくていいよ?あとは自分でなんとかするね」

 美嘉は俺が彼氏役をやめることを認めてくれた。これで俺を縛るしがらみがなくなった。あとは休み明けに彼女に告白するだけ。美嘉と付き合っていた本当の理由と俺の気持ちを。


わー!わー!わぁぁぁぁ!!

桐崎くんが本気になったぁぁぁぁ!


遂に自分の気持ちに素直になった桐崎くん!

次回は超重要です!!

お楽しみに!

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