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64.電話がきました!

 その日の夜、桐崎くんからメールが来た。


〔2人で話したいことがあるって言ったの覚えてる?休み明けのいつだったら大丈夫?〕


 わたしはメールを見てみんなで水族館に行った日のことを思い出した。忘れてるわけないじゃん。わたしはその時、桐崎くんに告白するって決めたんだから。でも美嘉ちゃんと楽しく笑い合っていてキスまでしていた桐崎くんを見てしまったらわたしの決心は揺らいでしまったよ。


〔もちろん覚えてるよ。でもメールじゃダメなの?〕


 そう送ると返事はすぐに来た。


〔うん、ダメ。これは直接言わなきゃいけないことだからメールでは言えないし言わないよ〕


 ……なにそれ?メールじゃ言えないことってなに?そんなに大事な話なの?でもそれって今日の出来事に関係するんじゃないの?わたしの頭の中はハテナでいっぱいだった。


〔ごめん……。わたしは話すことないから〕


 あんな2人を見たら告白する勇気がなくなった。本当は言いたくて言いたくてたまらないけど桐崎くんに迷惑かけたくないから言わない。だから桐崎くんに話すことはないの。なくなってしまったの。


〔嘘。この前自分だって話したいことがあるって言ってたくせに〕


 確かにあったよ。その時は話したいことがあった。でも、もういいんだよ……。あの2人の仲を邪魔するようなことを言うのは桐崎くんだけでなく美嘉ちゃんに対してもひどいことだって気付いたからいいの。


〔話す気がなくなったの〕


 わたしは桐崎くんを突き放すように言った。絵文字や顔文字もつけずに。そうすれば桐崎くんだって諦めてくれると考えたから。そして桐崎くんから届いたメールを見た。


〔乃愛さんが話すことなくても俺はどうしても言わなきゃいけないことがあるんだ。だから2人で会いたい〕


 どうして……?桐崎くんは頑固だよ……。突き放すように言ったのにそれでも会いたいって言ってくれるなんて。そこまでして言わなきゃいけないことってなに?今日メールしてきたってことは今日の出来事に関係することじゃないの?頭の中は再びハテナでいっぱいになった。


〔……どうしても休み明けじゃなきゃいけないの?〕


 メールを送信して1分もしない内に今度は着信音が鳴った。知らない番号だった。

「はい、もしもし」

《……乃愛さん?》

「!?」

 電話をかけてきたのは桐崎くんだった。なんで桐崎くんがわたしのケータイの番号を……?

《あ、ごめん……。番号は林原さんに教えてもらったんだ》

「え、いや、それはいいの……」

 どうやってわたしのケータイの番号を知ったのかも気になるけど、それよりわたしが気になることはただ1つ。なんで……。

《なんでいきなり電話してきたの?って思っているでしょ。乃愛さん》

「えっ……!」

 わたしの考えていたことがすぐさまバレてしまった。

《電話したのはメールじゃ話が終わらないと思ったし、そんなことないと思いたいけど話したくないからってメールを一方的に終わらされるのが嫌だから、っていうのもあるかな》

 なにその思わせぶりな言い方。まるで理由はそれだけじゃないって言っているようなものじゃない。

《それと……乃愛さんの声が聞きたくて》

 ドキッ……!その言葉だけでわたしの胸は高鳴り、顔は紅潮した。

「……よ、用件はなに?」

《メールでも言ったように2人で話したいことがあるから休み明けに話せないかどうかを聞こうと思った》

「それだけ……?」

《うん。用件はそれだけ。電話にしたのはさっき言ったように乃愛さんの声が聞きたかったから》

 それだけのため?話したいことがあるから休み明けに2人で話せるかどうかについてわたしに聞くため、そしてわたしの声を聞くため……。それだけのために桐崎くんはわざわざ紗弥にわたしのケータイの番号を聞いてまで電話してくれたの?

《それで……どうかな?》

 桐崎くんは戸惑い気味に言った。桐崎くんの不安そうな気持ちが電話越しに伝わってくる。

「……電話でもメールでもダメなんだね?」

《あぁ。これはどうしても乃愛さんに直接伝えなくちゃならないことだから》

 わたしはどうすればいいの?桐崎くんと2人きりになったらきっと言ってはいけないことを言ってしまいそうになるのに。でも桐崎くんはどうしても2人で会って話したいみたいだし……。

《――2人で会えない理由でもあるの?》

「えっ……!」

 桐崎くんが突然拗ねたような声で言うからわたしは驚きを隠せなかった。

《もしかして、もう休み明けに誰かと会う約束でもしてるとか?》

「し、してないよそんなこと!どうしたの桐崎くん?いつもの桐崎くんじゃないみたいだよ……!」

《じゃあ2人で会えない理由があるの?》

 桐崎くんは未だに拗ねたような声でわたしの質問には答えずさっきと同じようなことを聞いた。

「……ないよ。でもわた――」

《じゃあいいよね?……お願いだよ乃愛さん。どうしても2人で会って直接話したいんだ》

 わたしの言葉を遮ってまでそんなに2人で会って話したい理由が桐崎くんにはあるんだ……。だったらわたしが話したくないからなんて自分勝手な理由で会いたくないなんていうのはいくらなんでも失礼だ。

「……うん、分かった」

 結局わたしは桐崎くんからの休み明けの呼び出しに了承してしまった。わたしは言ってはいけない秘密を抱えて桐崎くんと接することになるんだ……。

《ありがとう乃愛さん。日にちについてはまた今度メールするよ》

「分かった……」

《本当にありがとう。2人で会うことを了承してくれて。それじゃあまた今度メールするから。おやすみ》

「おやすみ、桐崎くん」

 わたしは桐崎くんが電話を切るのを待った。でもなかなか切る気配がない。

「……ねぇ!」

《……なぁ!》

 そしてほぼ同時にわたし達は声をあげた。

「な、なに?」

《いや、乃愛さんから先に言って》

「桐崎くんが先でいいよ」

《俺のはいいから、はい、言って》

「うっ……。な、なんで切らないの?」

 わたしは若干渋り気味に聞いた。

《乃愛さんが切るのを待ってたから》

 すると桐崎くんはわたしが考えていたことと同じことをさらりと言った。

「わたしもそう思ってた……」

《えっ!?》

 そんなに意外なことだったのだろうか。桐崎くんの声が少し大きくなった。

《ほら、乃愛さん先に切っていいよ》

「それを言ったら桐崎くんだって……!桐崎くんから電話かけてるんだから通話料が……」

《別に乃愛さんと話すくらいなら少しくらい増えたって構わないさ》

 それは一体どんな理由なのと言いたかったがあえて言うのをやめた。桐崎くんがなにを思ってそんなことを言ったのか分からないけど、あまりドキッとするようなことは言わないでほしい。この電話中にわたしは一体何回ドキッとしたのだろう。

《それとも……まだ話す?》

「えっ!いや、あの、その……」

《いいよ。話すことないなら無理にとは言わないし》

 桐崎くんは苦笑いしながら言った。そんなわけない。話したいことはいっぱいあるよ。でもいっぱいあるからこそなにを言えばいいのか分からない。

「あ、あのね……。話したくないわけじゃないんだよ?ただなにを話せばいいのか分からなくて……」

《そっか。じゃあ今日はやめようか》

「うん、ごめん……」

《乃愛さんが謝ることじゃないよ。またね》

「ばいばい」

 そしてしばしの沈黙。お互い電話を切る気配はない。

『……プッ』

 さっきと同じことになってわたし達は笑いをこらえられず吹き出した。

「また同じことの繰り返しじゃん!」

《そうだな!だから切れよ乃愛さん》

「やだ!桐崎くんから切って!」

《俺はいいから乃愛さんこそ……!》

 お互い譲らない。こんなんじゃ埒があかないよ!

「よし、じゃあせーので切ろうね!」

《えっ!?》

「だって仕方ないじゃん!じゃないといつまで経っても埒があかない!」

《それもそうだな》

「だからやるよ?」

『せーの』

 そしてわたし達は遂に電話を切って会話を終わらせた。桐崎くん、ちゃんと電話切ってくれたよね……?わたしはケータイの会話終了の画面を見て思った。

 不思議。メールが来た時は気分も暗くて桐崎くんと2人で会って話したくなかったのに今はそんな気がしない。むしろ気分は晴れていて早く会いたい。会って言いたい。そして桐崎くんの話も聞きたい。それがどんな内容でも今のわたしならきっと逃げ出さず最後まで聞くことが出来る。桐崎くんから電話が来て話しただけでこんなに変わるとは思わなかった。わたしって単純?これが恋の力ってやつなのかな?


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