59.水族館デート!⑦
桐崎くんと加賀美くんが戻ってきたのでわたし達はフードコートを出た。
「さぁなにしようか!どこか見る?」
「あ、ゲーセン行きたい!」
加賀美くんがすごく無邪気な笑顔で言った。
「ゲーセンなんてあったか?」
「あまり大きくはないけど一応あるはずだよ」
「じゃあゲーセン行く?まだまだ時間あるし行きたいところ順番に行こうよ」
紗弥がそう言うと加賀美くんはすごく楽しそうな顔をした。目の奥をキラキラと輝かせて小さい子どものように。
「ヒロくんたら喜びすぎ!すごく楽しそうな顔してるよ」
麻由は加賀美くんの背中を叩きながら言った。さり気なくボディタッチ。そんな麻由の行動にわたしは驚いた。
「だってゲーセン楽しいじゃん!なぁキリ!」
「そうだよな!」
「2人ってよく行くの?」
「あぁ!1年の時とかは部活が終わったあとによく行ってたよ。それでよくキリにUFOキャッチャーでいろんなもの取ってもらったんだ」
「そっか。桐崎くんってバスケ部だったもんね」
「UFOキャッチャーできる人ってなんかいいよね!てかそんな2人の関係がますます怪しいと思うのはうちだけ……?」
麻由がニヤニヤしながら2人に言った。この子は本当に加賀美くんが好きなのだろうか?でも好きって気持ちの表し方はいくらでもあるから多分これが麻由なりの加賀美くんが好きっていう気持ちの表し方なんだね。
「池波さんって……腐女子?」
加賀美くんは苦笑いしながら遠慮気味に言った。その言葉を聞いて麻由の顔は凍りついた。加賀美くん、地雷を踏んだようですね……。
「ひっどーい!ヒロくん!うちはそんなつもりで言ったわけじゃないのに!だってあまりにも仲が良すぎて距離が近いからそういうふうに見えちゃっただけなのに!うちは腐女子じゃないもん!」
麻由は今にも泣きそうな顔をして加賀美くんの腕を何回も叩いた。
「ちょ……池波さん!?」
「うちはBLなんて好きじゃないから!むしろ嫌い!でも2人があまりにも仲良いし近いからそうなのかなって思っただけだもん!そんなんで萌えたりしないから!」
同じようなことを言ってしまうほど麻由は興奮しているみたい。こんな麻由を落ち着かせるには一体どうすれば……?そんな時、加賀美くんが麻由に言った。
「池波さん痛いって。それと冗談だから!」
「……へっ?冗談……?」
加賀美くんの言葉を聞いた麻由の手が止まった。顔もさっきまでのような泣きそうな顔ではない。やっぱり麻由を止められるのは麻由の好きな人である加賀美くんだけなのかな?
「まさかそこまで本気にするとは思わなかったからあれだけど……冗談だから安心して?」
「よ、よかった……」
安心した麻由は全身の力が抜けたみたいでわたしに寄りかかった。
「わわっと!大丈夫麻由!?」
「だ、大丈夫……。ホッとしたら力抜けただけだから」
身体の力は抜けているのに顔の力は抜けていない。ちゃんと笑った顔をしていて安心しきった笑顔だった。
「ごめんごめん。今度からタチの悪い冗談はやめとくよ」
「ホントにそうだよ……。ひどいなぁ!」
麻由はそんなこと言っているけど何気に嬉しそうな顔をしている。今まで気付かなかったけど麻由の嬉しそうな笑顔はわたし達と話す時と加賀美くんと話す時で微妙に違っていた。加賀美くんと話す時の方が大きく口を開けていないし頬もほんのりピンク色に染まっている。
「よーし!こうなったらゲーセンではっちゃけてやるんだから!早く行こ!」
「分かったからそんな焦らないの!」
両手を上に上げてはしゃぐ麻由は1人ですたすたとゲームセンターに向かって歩いていった。
「あの子は本当にもう……」
「まぁまぁ。紗弥も早く行こうよ!」
わたしは紗弥の手を引いて麻由に追いつくよう早歩きで麻由の方へ向かった。
「ほら、桐崎くんと加賀美くんも早く!」
桐崎くんと加賀美くんに向かって手招きしてわたし達はゲームセンターに向かう。
***
「やった~!いっぱい取れた~!」
麻由の足下にはたくさんのぬいぐるみやマスコットの入った紙袋が2つあった。まだここに来てから少ししか経っていないのにもうこんなに取ってしまった麻由。わたしはあまり得意でないから正直うらやましい。
「池波さん、そんなに取ってどうするの?」
加賀美くんが笑いながら麻由に聞いた。
「もちろん部屋に飾る!あとカバンとかにつけるの!」
麻由はさっきより上機嫌。UFOキャッチャーでたくさんぬいぐるみやマスコットを取れただけでなく、加賀美くんと仲良く話せているからだろうか。
なんとなく空気を読んでその場から離れた。
「わたしはなにしようかな……」
適当に歩いていると目の前にわたしの好きな猫のキャラクターのぬいぐるみがあるのを発見した。
「きゃーっ!か、可愛い……!」
わたしは早速お金を入れて取ろうと頑張った。が、思い切り空振り。かすりもしなかった。
「うぅ……。やっぱりわたしには無理かぁ……」
「あれが取りたいの?」
後ろから桐崎くんに声をかけられて振り返るとすぐ後ろに桐崎くんが立っていた。
「き、桐崎くん……!うん、あれが欲しかったんだけどUFOキャッチャーはどうも苦手で……」
「俺が取ろうか?」
そう言って桐崎くんはわたしの返事を聞かず、お金を入れてわたしが取ろうとしたマスコットを取り始めた。
「ちょ……えっ?桐崎くん!?」
「ん?なに?」
「えっと、一体なにを……?」
「いいからいいから」
桐崎くんはわたしの質問に答えず、ただ狙ったマスコットを取ることに集中していた。そんな桐崎くんの真剣な横顔をわたしはただ見ていることしか出来なかった。
「うわっ!クソ、外した……!」
見るとアームはマスコットには当たっているが僅か数センチ横にずれて掴むことは出来なかった。
「あー……惜しいね」
「……」
桐崎くんは無言でお金を入れて再び真剣な顔をした。
「き、桐崎くん……?」
「あと少しで取れる気がするんだ。だから待ってて」
そんなことを言われたら反論なんて出来ない。わたしは黙って桐崎くんの横顔やUFOキャッチャーのアームを見つめていた。
「よし!いける!」
桐崎くんが明るい声でそう言ったので視線をUFOキャッチャーのアームにずらすとちょうどわたしの狙っていたマスコットをアームが掴んだところだった。アームはゆっくりと上がり、しっかりとマスコットを掴んでいた。
『おぉっ!』
そしてアームが戻ってきてマスコットが落ちてきた。桐崎くんは取り出し口からマスコットを取り出してわたしに差し出した。
「はい、これでしょ?取りたかったやつ」
「えっ?あ、うん……」
「あげるよ」
「いや、いいよ!だってこれは桐崎が取ったやつだから……」
「俺は乃愛さんが欲しそうだったから取っただけだし気にすんな。それに俺にこんな可愛いものは似合わないから受け取ってくれたら嬉しいんだけど?」
「あ、ありがとう!」
わたしは桐崎くんからマスコットを受け取った。わたしの好きな猫のキャラクターのマスコット。それでいて桐崎くんが取ってくれたマスコット。これはもうわたしの宝物だよ!
「あっ!桐崎くん、お金!」
「ん?あぁ、いいよ別に。200円くらい」
「で、でも……!」
「俺が勝手にやっただけだからいいの。……なんて言えばいいかな。俺の取ったマスコットが偶然乃愛さんの欲しかったやつだったからあげた、ってことにしといてくれるとありがたいんだが?」
……桐崎くんはずるい。そんな言い方するなんて。確かに桐崎くんはわたしの返事を待たずに取り始めたけど、わたしの代わりに取ってくれたことは事実。でもそれじゃあさっきの言葉と矛盾してるんじゃないかとわたしが指摘したとしても桐崎くんが素直にお金を受け取るとは思えない。
「わかった、そういうことにする……。ありがとう!すごく嬉しいよ!」
素直にお礼を言うと桐崎くんは微笑みながらわたしの頭をポンポンした。……本日2回目の頭ポンポン。なんだかすごく嬉しい!今のわたし、絶対すごく嬉しそうな顔している。だってこんなにいいことがあったのに嬉しくないわけがないでしょ!