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56.水族館デート!④

「もう大丈夫だから安心して」

 桐崎くんはわたしの頭を撫でててくれた。わたしが早く落ち着けるように、安心できるように優しく。次第にその手の温かさが伝わってきてわたしの心は落ち着きを取り戻してきた。

「……震えがおさまってきたね。落ち着いた?」

「うん……」

 その時はっとした。未だに桐崎くんに抱きついた、というかしがみついたままで頭を撫でてもらっていた。しかもこんな人が多いフードコートで……。

「あっ!ご、ごめん桐崎くん!わたしったらつい……」

「気にすんなって。乃愛さんが落ち着けるならこれくらいどうってことないよ」

『乃愛!』

 振り向くと紗弥達が心配そうな顔でわたしを見て言った。

「大丈夫だった!?ナンパされたんでしょ!?」

「う、うん……。でも桐崎くんが来てくれたから大丈夫だったよ」

「だってキリ、鬼のような形相で走っていくくらい心配していたんだよ」

「えっ?」

「なっ、余計なこと言うなよ加賀美!」

 桐崎くんは顔を少し赤くして加賀美くんを叩いた。

「そ、そうだったの?」

 真偽が知りたくて紗弥と麻由に聞いてみた。

「そうだよ。桐崎くんが真っ先に気が付いて走っていったんだから」

「それはもうすごく必死な顔しててさ。いつもの桐崎くんじゃないように見えたから」

「俺のことはいいだろ!?乃愛さんが平気だったんだから!」

『えー……』

「『えー……』じゃない!」

 桐崎くんは顔が赤いままだ。そっか、そうなんだ。わたしのことすごく心配してくれたんだ。心配で走ってきてくれたんだ。どうしよう、すごく嬉しい……。あんなことがあったばかりなのにすごく嬉しいよ。でも『友達』だからって心配しすぎだよ?

「乃愛さんさ、やっぱり見られてるって自覚した方いいよ。危ないから」

 桐崎くんは真面目な顔になり、わたしに言った。

「は、はい……」

 見られてるって感じはしないけど言われたからには気をつけなくちゃいけない。

「……よし、乃愛さんメアド教えて!」

『えっ?』

 突然加賀美くんがそう言い出したのでわたし達4人は驚いた。なんで今メアド聞く!?

「ヒロくん!なんでこのタイミングで聞くの!?」

「乃愛さんにまたさっきみたいなことがあったら困るから。メアド知ってればなにかあった時助けに行けるだろ?」

『それもそうか……』

 加賀美くんの言うことにわたし達は納得した。確かに筋が通っている。それにナンパだったら女の子より男子に助けを求めた方がいいのかも知れない。女の子に助けを求めても相手が複数だったら一緒に連れていかれそうだもの。だったら男子に助けを求めて彼氏役してもらった方がいいのかもしれない。

「うん、いいよ」

 だからわたしは加賀美くんにメアドを教えることにした。

「ありがとう乃愛さん!」

 加賀美くんはニコッと笑った。あぁ、やっぱりこの人は可愛いなぁ……。モテるのがわかる気がするよ。つられてわたしもニコッと笑った。

「さぁ!乃愛も無事だったんだしご飯食べよ!お腹空いたぁ……」

「池波さん、さっきからお腹空いたばっかりじゃん」

「いいじゃん別に!乃愛が無事で安心したら更にお腹空いちゃったの!」

 安心して更にお腹空いちゃうなんて麻由らしい。ホント可愛いなぁ。

「乃愛」

 紗弥に呼ばれて振り向くと紗弥は穏やかな笑みを浮かべていた。

「なに?」

「さっきの桐崎くん、本当に心配そうな顔していたの。だからきっと乃愛は特別なんだよ」

「そ、そんなわけないよ……」

「だって特別じゃなきゃあんな鬼のような形相で走って行かないって。並んでいる時も乃愛が平気か気になっていたみたいでちらちら見てたんだから」

 う、そ……。桐崎くんがそんなにわたしのこと心配していたの?思わず桐崎くんをちらっと見る。……やめてよ。彼女がいるのに中途半端な優しさはやめてよ。余計に悲しくなる。余計に苦しくなる。そしてもっと好きになる……。


 ***


 なんだこの感じ。さっきからモヤモヤする。ただ加賀美と乃愛さんがメアド交換しただけなのに。それを目の当たりにしただけでこんな……。今までこんなことなかったはず。

「おーい、キリ。さっきからなにボーッとしてんだ?みんなもう食い終わったけど」

 加賀美に声をかけられてみんなを見る。まだ食い終わっていないのは俺だけか。まぁあと一口二口ぐらいだけどな。

「桐崎くん具合でも悪いの?」

「大丈夫だよ。いろいろ考え事してただけだから」

 あながち間違ってはいない。それに加賀美と乃愛さんがメアドを交換したのを見たらモヤモヤした、なんてことを本人に言えるわけがない。もしそんなこと言ったら加賀美にまた怒られるかもしれないしな。お前は彼女と乃愛さん、どっちが大切でどっちが好きなんだよ!はっきりしろよ!ってな。

「考え事ねぇ……。ひょっとして例の彼女さんのこと~?」

 池波さんはニヤニヤしながら聞いてきた。残念ながらそれは外れだけど、乃愛さんがいる前で美嘉の話はしないでほしい。美嘉の話が出てくると乃愛さんの表情が暗くなってしまうのだから。

「まさか。違うよ」

「なーんだ、つまんない……」

 池波さんはつまらなそうな顔をした。それから先を聞かないでくれて助かったよ。本当のことは誰にも言わない。誰にも言えないんだ。勘のいい人になら気付かれる。いや、もう気付いている人がいるかもしれない。頼むから誰も気付かないでくれ。誰にも言えない俺の本音に……。


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