54.水族館デート!②
「うぅ……。入場券買うだけですごく疲れた……」
なんとか水族館内に入れたわたし達は既にぐったり。理由は入り口に並ぶ人、というかカップルの多さ。
「外で無駄話せずにさっさと入ればよかったね……」
「うん……」
正直話なんて中でもできるのにね。なんでわざわざ寒い中話していたんだろう。
「つかさ、せっかく来たのにイルカショーとかアシカショーやんないって!うわー楽しみにしてただけにすげぇショック!」
加賀美くんがもらったパンフレットを見ながら言った。
「こればかりは仕方ないね……。あ、でもクリスマス仕様の水槽とかあるらしいよ」
「あー……だからか、こんなにリア充が多いのは……。マジ滅びろ……」
「加賀美くん、後ろ……」
「えっ?」
わたしが言うと加賀美くんは後ろを向いた。するとそこには戸惑い気味の桐崎くんがいた。
「わぁごめん!キリがリア充だって忘れてたよ!つか実感ねぇし!」
「まぁそうだろうな!その言動からして!」
「あーもう!ここにまで来てそんなことしないでよ!ヒロくんわざとでしょ!?」
「あ、やっぱバレた?」
「そりゃバレるって……」
麻由の言うとおりせっかく水族館来たんだから楽しもうよ!こんな機会、滅多にないんだから!
「ほら、早く行こ!混んだら一気に見えなくなるんだから!」
「そうだね。混む前にいろいろ見ちゃお!」
紗弥に促され、わたし達はようやく館内を回り始めた。
「あ、あれじゃね?クリスマス仕様の水槽」
少し歩くと前方には大きな人だかり。しかも見事にカップルばかりだった。
「カップルが多いなら間違いないね!これだよこれ!」
麻由はすごく楽しそうに跳ね上がった。クリスマス仕様ってどの辺りがそうなんだろう。もう少し歩いてみるとその水槽に近づくにつれ、周囲は暗くなってきた。
「あ、見て見て!」
麻由の言葉に反応してわたし達は一斉に麻由の指差す方を見た。そこにはクリスマスのイルミネーション風に装飾された大きな水槽があり、中にはふわふわと水中に浮かぶクラゲがいた。
「わぁ……きれい……」
「これは、オワンクラゲだね。発光するやつ」
さっきからわたしの後ろにいた桐崎くんが水槽の中にいるクラゲについて少し教えてくれた。……さて、彼はいつまでわたしの後ろにいるのでしょうか。
「へぇーそうなんだ!光ってるしふわふわしてるからなんか可愛い!」
「クラゲだから毒あるかもよ?」
「もう!せっかく可愛いと思ってテンション上がったのに!下げるようなこと言わないでよ桐崎くん!」
「だって事実だし?」
面白そうに笑っている桐崎くんを叩こうと少し後ろを向くと、思ったより距離が近くて一瞬ドキッとした。
「……乃愛さん?」
「な、なんでもないよ!」
今のわたし、絶対顔赤い……。顔を見られたくなくて桐崎くんに背を向ける。ここが暗くてよかった。紗弥も麻由も加賀美くんもわたしの顔が赤くなっていることに気付いていないはず。桐崎くんも多分気付いていないと思うけど……。
桐崎くんはなにも意識していないのかな?今、わたしのことを『乃愛さん』って名前で呼んだこと。
「そろそろ次行こうか?他の場所にもクリスマス仕様の水槽があるらしいよ!」
またも紗弥に促される形で次へ進むことになった。
「ヤッバー!人多すぎでしょ!土曜日なのに!まだお昼時なのに!」
ひとまず飲食スペースで休憩。1つのテーブルを5人で囲むようにして座った。
「クリスマスだから仕方ないよ、麻由」
「そうだよ池波さん。クリスマスだからリア充が多いのは当然なんだよ」
「加賀美、最近リア充リア充言い過ぎじゃねぇか?」
「あれ?俺、そんなしょっちゅうリア充言ってるっけ?記憶にないなー!」
加賀美くんはニヤニヤしながら桐崎くんに言った。しかも棒読みで。
「嘘つくな!ニヤニヤしてる時点で怪しいんだよ!」
「はいはい、公共の場ではやめようか。みっともない……」
紗弥は呆れ顔で加賀美くんと桐崎くんを見て言うと2人は黙り込んだ。
「ねぇ、これからどうする?ここでお昼食べるの?」
館内は一通り見終わったので、今後の動きについて話し合い。なにも決めずにただブラブラするのは時間がもったいないと紗弥が言ったので休憩も兼ねての話し合いらしい。
「だったら近くにあるショッピングモール行った方がよくない?ここより種類あると思うし」
「じゃあもう出ます?まだ見たい?」
「俺はいいや。イルカショーとかアシカショーないみたいだし!」
加賀美くん、いつまでそれを根に持つんだ……。そういうのはちゃんと調べてくればよかったのかな?
「俺はみんなに任せるよ。特にこれが見たいというのはないからさ」
「わたしもみんなに任せるー」
「うちはもういいや!カップル多いからやっぱり浮く!それにお腹空いちゃったし」
これで紗弥を除いて2人がもういい、2人がみんなに任せるという意見が出た。というわけだから多分もう出ることになるのかな。
「それじゃあここ出て近くのショッピングモール行こっか。わたしもお腹空いてきちゃったし。乃愛と桐崎くんは任せるって言ってたけど大丈夫?」
「あぁ」
「大丈夫だよー!」
「それじゃあ早くここから出ようぜ!周りがリア充ばっかりだからもううんざりだ!」
加賀美くんは子どもっぽい口調で言った。一瞬、本当に一瞬だけわがままを言う子どもに見えた。
「ヒロくん……」
「大丈夫大丈夫!キリに言ったわけじゃねぇし!」
「分かってるけどなんかイライラするな……。なんでだ?」
満面の笑みで言う加賀美くんに対して引きつった笑顔で言う桐崎くん。
きっと自分がリア充だからって自覚しているからだと思うよ、なんて言ったらなに言われるか分からないので言わないでおこう。
「ほら~!行くと決まったからには早く行かなきゃダメでしょ!早く行こうよ~!」
加賀美くんの隣にいたはずの麻由がいつの間にか入口近くにある売店のそばに立っていた。もう、麻由は食べ物のことになると人一倍行動が早くなるんだから……。
「今行くってばー!せっかちだなぁ!」
そう叫びながら麻由の元へ走っていった。
本編に出てきたオワンクラゲというクラゲ……。分からず調べてみましたが未だに分かりません(泣)
もし間違っていたらご指摘お願いします!