50.遊びの予定です!
「じゃあ遊ぶメンバーはうちと乃愛と紗弥と桐崎くんとヒロくんの5人ね!うわぁ楽しみ!」
それは昼休みに麻由が突然言い出したことが始まりだった。
***
「ねぇ、冬休みにみんなで遊ぼうよ!」
昼休みが始まると同時に麻由はわたしと紗弥に提案した。
「いいけど具体的には?」
「うーんとねー!遊園地とか!」
『やだ、寒い。ていうかそんなにお金ない』
わたしと紗弥は口をそろえて言った。
「あーもう!じゃあ室内?」
『賛成!』
「って即答ですか!?」
楽しみだなぁ。そういえば最近全然遊んでなかったもん。わたしは最近真面目に部活行きすぎて暇な時間があまりなかったし、紗弥も麻由も塾とかで忙しそうだったからね。
「で、3人で行くの?」
「せっかくだから誰か誘いたいよね。遥奈とか雪帆は?」
「ハルちゃんとユキとも遊んでみたい!でもさ、この前ユキに断られたよね」
『あっ……』
確かにそうだ。数ヶ月前にみんなで遊ぼうって雪帆と遥奈を誘ったけど雪帆は乗り気じゃなくて断られたんだよね。遥奈も雪帆が行かないなら行かないってことで結局わたし達3人で遊んだんだったなぁ。
「じゃあやっぱり3人?誰か一緒に行ってくれる人いないかな~!」
「さっきからなんの話してるの?」
と、そこで話に混ざってきたのは加賀美くん。本当この人はいつも突然話に入ってくるなぁ。
「冬休みにうちと乃愛と紗弥で遊ぼうって話になったんだけど他に誰かいないかな~って話をしてたの」
「そうなんだ」
すると麻由はなにか思いついたかのように笑顔で加賀美くんに言った。
「そうだ!よかったら加賀美くん達もどう?」
『えっ?』
まさかの男子を誘うパターン!?しかも加賀美くん“達”ってなに!?他に誰を誘う気なの!?……なんとなく予想出来ているけど。
「い、池波さん達がいいなら構わないけど?」
「えっ?いいの!?」
「どうせ冬休み中は暇だし。部活も毎日あるわけじゃないからさ」
なんか意外。加賀美くんって女子と遊んだりするんだ……。
「じゃあさ、加賀美くんにお願いがあるんだ」
「なに?大体検討はつくけど」
『えっ?』
「池波さんのお願いって『桐崎くんにも行くか聞いてみて』でしょ?」
「ご、ご名答……」
加賀美くんってやっぱり鋭いんだね。勘良すぎだよ。
「いいよ。キリに聞いてみるから」
「本当?ありがとう!あとついでにもう1つ」
「もう1つ?なに?」
「あだ名つけていい?」
麻由は目をキラキラと輝かせて加賀美くんに言った。
「あ、あだ名?」
加賀美くんは目をぱちくりとして麻由を見た。
「うん!えっと、加賀美宏希だから……ヒロちゃんとか!」
「ヒ、ヒロちゃん……」
麻由気付いているかな……。加賀美くんの顔が若干引きつっているんだけど。
「せめて“くん”にしてほしいな……」
「分かった!じゃあこれからヒロくんって呼んでいい?」
「べ、別にいいけど……」
……麻由すごい。そんなことを堂々と言えるなんて。それに男子のことあだ名で呼ぶなんて……。
「加賀美、なに話してるんだ?」
「おっキリじゃん。いいところに!」
一瞬桐崎くんと目が合ってしまい、思わず胸が痛んだ。ダメだなわたし。ちゃんと『友達』として接しなくちゃいけないのに……。
「池波さん達と冬休みに遊ぼうってなったからキリも誘おうとしたんだ!」
「遊ぶ?……メンバーは?」
「俺と池波さんと林原さんと乃愛さん。そこにキリも入れようと……」
「えっ、でもそしたら――」
そこでいきなり加賀美くんは桐崎くんの腕を引っ張り、わたし達から少し離れたところでなにやら内緒話を始めた。
「なに話してるんだろうね。あの2人」
正直わたし達は2人の会話が気になって気になって仕方なかった。
「池波さん、キリも行くって!」
「本当!?桐崎くん」
「あ、あぁ!俺も行くよ」
「じゃあ遊ぶメンバーはうちと乃愛と紗弥と桐崎くんとヒロくんの5人ね!うわぁ楽しみ!」
今この5人の中で一番テンション高いのは麻由だろう。逆に一番テンション低いのはわたしだろう。だってみんながいるとは言え、失恋した相手と一緒に遊ぶんだもん……。失恋と言っても直接言って振られたわけじゃないから間接的に失恋しただけなんだけどさ。桐崎くんはわたしが桐崎くんのことを好きだって気付いてないだろう。だから、桐崎くんはなにも知らない。わたしがこんなにテンションが低い理由なんて、知る由もないの。
「で、どこで遊ぶの?」
『……あっ』
桐崎くんに言われるまで忘れていた。というか、考えていなかった。
「室内で遊ぶって……どこがある?」
「だから遊園地にし――」
『寒いしお金ないんだってば!しかも室内じゃない!』
麻由の提案にわたしと紗弥は口をそろえて反論した。
「ぶぅ~!じゃあどこにするのさぁ!」
「あ、水族館がいい!」
『水族館?』
あ、ヤバい……。なんかすごい子どもっぽいこと言っちゃったかも。しかも水族館って絶対恋人同士か同性の友達で行くものだよね……。あちゃー、やらかした。
「ごめん、やっぱなんでもな――」
「いいね、水族館!」
「はぃ?」
やらかしたと思っていたそばから紗弥はわたしの提案に賛成してくれた。
「そうだね!水族館いいと思うよ!」
「水族館かー……。小学校の時以来だな」
「そういえば最近新しくなった水族館があるみたいだね。近くにはショッピングモールもあるみたいだし」
「えっ?あれ……?もしかしてみんな賛成?」
『うん』
嘘!わたしの案、賛成されちゃった!嬉しいっ!……ん?ちょっと待てよ。どうやらわたしはなにか大事なことを忘れているみたい。
「男女混合メンバーで遊ぶのもなんか楽しそうだな、加賀美」
「あぁ!中学時代だとこんなことありえなかったし!」
はっ!桐崎くんと加賀美くんを見て思い出した。そうだよ、桐崎くんは……。
「桐崎くんに1つ聞きたいことが……」
「なに?如月さん」
「えっと、彼女さんいるのにわたし達と遊んでもいいの?」
『あっ……』
ここにいる誰もが忘れていたみたい。みんなが桐崎くんを見た。
「ちょっと待って!なにその情報!初耳なんですけど!」
麻由だけ状況があまり分かっていないようだ。そうか、麻由は知らないんだっけ……。
「あー…池波さんは知らなかったんだっけ。キリ、彼女出来たんだ。しかも昨日」
「うわぁ!加賀美お前、さらっとバラしやがったな!」
「彼女!?誰々!?」
「黙秘!」
わたしと真田くんには教えてくれたのに麻由達には教えないんだ。いや、教えられないのかな。
「まぁまぁ、桐崎くんの彼女さんが誰かはまず置いといて……」
『置いちゃダメ!』
紗弥と麻由に突っ込まれたが無視して話を続ける。
「いいの?彼女さんいるのにわたし達と遊んだりして」
「大丈夫だよ」
ありゃ?意外にあっさりOKなの?いや、でもさすがにまずいでしょ……。
「でも、なんか彼女さんに悪いよ……」
「大丈夫。友達と遊ぶくらいなら怒られないって」
友達……。そうか、そうだよね。『友達』だから桐崎くんはわたし達の誘いに乗ってくれたんだね。わたし達は『友達』だから。
「俺が怒られはしないだろうけど、その代わりもしバレたら如月さん達が嫉妬されるかもね」
「ちょっ!?そこはどうにかしてよ!」
わたしは桐崎くんを叩きながら言った。
その時こんな関係がいつまでも続くといいなと思った。そのためなら、想いを伝えなくてもいい……。『友達』としてそばにいることが出来るならわたしはちゃんと桐崎くんの『友達』でいよう。