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45.決意しました!

 そして放課後、約束通りわたし達のクラスに雪帆と遥奈がやってきた。

「それじゃあ詳しいこと聞いてもいい?乃愛」

「うん……。なにから知りたいの?」

「まず乃愛と一緒にいた男子が誰なのか」

 やっぱりそこが一番気になるのか……。そりゃそうか。男子苦手なくせにその人のことは好きになってしまったのだから。

「同じ部活の桐崎くん……」

『桐崎くん?』

 雪帆も遥奈も誰それ?と言いたそうな顔をしている。

「元々バスケ部の人」

「ついでに言えばうちらと同じクラス」

「そして背も高くてメガネかけてる」

 麻由と紗弥が説明を補足してくれた。

「それじゃあ次の質問。なんで一緒に歩いてたの!?」

 遥奈の口調が語尾だけ妙に強くなった。ひとまず落ち着こうか、遥奈……。ちゃんと順番に話すからさ。

「急遽部活なしになって、お互い本屋に用事あったから一緒行こうかって流れに……」

「それ、提案したのどっち?」

 遥奈の声のトーンはさっきより僅かに低くなっている。

「……桐崎くん」

『嘘!桐崎くんから!?』

 わたしがそう言うと麻由と紗弥の目がキラキラと輝きだした。あー、言わなきゃよかったとすごく後悔した。

「ふーん……。ねぇ、乃愛はその人が好きなんでしょ?」

「う、うん……」

「告ったりしないの?」

「告……!えっ!?無理だよ!そんなこと出来ない……!」

 もういきなりなんてことを言うの!そんなの、出来るわけないじゃん……。

「なんで出来ないの?」

「だ、だって……振られたら今の関係崩れちゃいそうで怖いの。友達でいられなくなるのが怖いの……」

「大丈夫。そんなことないから」

「そんなことなくない!関係が崩れちゃうなら、友達でいられなくなるなら、わたしは言いたくない。わたしが気持ちを伝えなければ関係は保てるの!」

 言葉に出したことでわたしと桐崎くんの関係について思い知らされた。どんなに話をしても、どんなにそばにいても、どんなに仲良くしても、わたし達の関係は変わらない。ずっと友達のまま。進展することはない。

「……本当にそれでいいの?」

 ずっと話を聞きっぱなしだった雪帆がようやく口を開いてわたしに言った。

「今の関係のままで本当にいいの?」

 雪帆のその言葉がわたしの胸の奥深くに刺さるのを感じた。なんで雪帆には分かるの?本当は、今の関係のままじゃ嫌だっていうわたしの本音が。

「な、なんで……?」

「話を聞く限りじゃ、相手は乃愛に少なからずコウイを持っていると思う」

「コウイ?」

「僕が言っているコウイは親切な気持ちの『厚意』じゃなくて、好きって気持ちの『好意』だよ」

 桐崎くんがわたしに好意を持っている?そんなことがあるわけ……ない、とは言い切れない。100%そうだと言い切れるための理由がわたしにはないのだから。それに桐崎くんの行動はわたしを変に期待させるもん。

「あたしも思った。きっとその人にとって乃愛は特別な存在だと思うよ?じゃなきゃ一緒に行こうなんて言い出さないって!」

「わたしもハルちゃんと同じかな」

「うちも遥奈と雪帆の考えに同意!」

 なんでみんな、そう思えるの?わたしは不思議にしか思えないというのに。

「大丈夫。桐崎くんは乃愛を嫌ってない。保証する」

「桐崎くんは、好きでもない子に一緒に行こうなんて言うとは思えないよ?だから乃愛は特別な存在なんだよ、きっと」

 わたしが、桐崎くんの特別な存在?

「第三者から見れば間違いなく2人は両想いだよ。だから自信持って!大丈夫、きっと上手くいくから」

「ね、乃愛。告白してみよう?」

 みんなの目は真剣そのものだった。みんな、わたしが上手くいくことを信じているからそんなに強い目をしているの?なんで?なんでそんなにも……。

「……言わないで後悔するのってすごく辛いんだよ、乃愛」

 雪帆は消えそうなくらい小さな声で言った。

「言うことで後悔することだってそりゃもちろんあるよ。でも、言わないで胸の内に溜め続けていてもそれは誰にも伝わらない。知らないうちに外に漏れることはないの。だから言いたいことは自分から言わなきゃ伝わらない」

「雪帆……」

「それに、乃愛のモットーは『やらないで後悔するよりやって後悔しよう』でしょ?だったら『言わないで後悔するより言って後悔しよう』じゃない?なんか無理やりみたいだけどさ」

 ……そうだよ。今の今まで忘れていた。わたしのモットーは『やらないで後悔するよりやって後悔しよう』ってことを。だったらやるしかないじゃない!

「ありがとう、みんな。わたし、伝えてみる!わたしの素直な気持ちを」

『おぉ!』

 言うことで関係が崩れたらきっと後悔するだろうし、すごく悲しむはず。でも崩れてしまったのならまた関係を積み直せばいい。それは難しいことかもしれないけど、いつかはきっと元通りにとは言わなくてもある程度まで回復するはずだから。関係が崩れることを恐れていたらなにも始まらないじゃない!

 わたしは桐崎くんに自分の素直な気持ちを伝える。そう決めた。


 ***


「おっ、来たな桐崎」

「悪い、待たせた」

 さっきの続きをするため俺は真田のクラスに行った。ついでに教科書を返しに。

「まず教科書返すよ。サンキュー」

「おっ」

 教科書を受け取った真田はそれを自分のバッグの中に放り込んだ。もう少し丁寧に扱えよ……。

「じゃあ本題に入る。なんでお前は6時半前のバスに乗った?お前が乗るバスは6時前に一本あるってことは前にお前から聞いて分かっているだよ」

 過去の俺を恨むよ……。なんで真田にそんなことを言っていたんだ。

「……なんでだろうなー」

「流すな。正直に言え」

 真田はズバッと言った。なんだ今日の真田?珍しく迫力があって逆らいづらい。

「まぁおおよその検討はついている。如月が絡んでるのは間違いないな?」

 本当なんなんだこいつ?まるで俺の心を読んでいるみたいだな。ここまで気づかれているなら言うしかないか。

「……あぁ、そうだよ。俺が6時前のバスで帰れば如月さんが1人になる。例え数分でも如月さんを1人にするのは危ないと思ったからバス時間をごまかした」

 そうさ、俺はバス時間をごまかした。如月さんに嘘をついた。それが如月さんを1人にするのが危ないからという理由だろうがなんだろうが嘘は嘘。それを如月さんが知ったことで如月さんに非はないが。

「本当、お前は人がいいな」

「……はぁ?」

 真田はなにが言いたいんだ?俺には真田の考えていることがよく分からないよ。

「そんなんだから如月も……」

「如月さんがどうかした?」

 そう聞くと真田ははっとして口を手で覆った。

「なんでもねぇよ……!よし、話は終わり!部活行こうぜ」

「ちょっと待て真田!さっきのことは……」

「大丈夫だって。誰にも言わねぇよ。聞かれても直接桐崎から聞けって言っとくから」

 いや、そういう問題じゃねぇんだけど……。

「とにかく部活行こうぜ」

「あぁ」

 真田に続けて真田のクラスを出た。


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