44.噂になってます!
放課後桐崎くんと2人で本屋に行った日から3日が経った頃、わたしはある噂を耳にした。
「乃愛!乃愛って男子苦手じゃなかったの!?」
珍しく遥奈と雪帆が2人一緒にわたしのクラスに来たなぁと思っていたら2人はわたしの元へやって来てそう言った。
「ちょ、ちょっと待って……。いきなりなに!?どうしてそんなことを!?」
一瞬嫌な予感がした。正直その予感が外れてほしいと思った。
「この前の放課後、乃愛が男子と一緒に駅前歩いているのを見たって子がいるの!しかも仲良さそうに!」
「って遥奈がうるさいから確認しに来たんだけど、違うよね?それって乃愛じゃないよね?」
興奮気味の遥奈とは裏腹に雪帆は冷静にわたしに言った。嫌な予感的中、かも……。でもそれがまだわたしのことと決まったわけではない!一応確認してみよう……。
「この前っていつ?わたし、いつもチャリだから駅前行くことなんて滅多にないよ?その子が見たのってわたしじゃなくて別の人じゃない?」
「うーん……。あれ、いつだっけ?雪帆聞いた?」
「ごめん、聞いたはずだけど覚えてない……」
よかった、これで今は本当のことを言わなくて済む。雪帆はいいとして遥奈は結構しつこいから……。
「あれー?珍しいね。ユキとハルちゃんがわたし達のクラス来るなんて」
うわっ、このタイミングで紗弥と麻由まで来ちゃったよ……。もしかしたらこの2人も知ってそうだなぁ。いや、知ってたらもうわたしに聞いてくるか。
「ちょっと噂のことで乃愛に確認しにきたの」
『噂?』
あれ?もしかして2人とも知らないのかな?わたしも遥奈に言われるまで知らなかったけど。……本当に遥奈は噂とかそういう類の話好きだなぁ。ついこの前の出来事についてもう嗅ぎつけているなんて。
「知らない?この前乃愛が男子と一緒に駅前歩いてるのを見た子がいるらしいの。それが本当か確認しようと思って……」
「えっ!?なにそれ!?」
あ、なんだ。やっぱり知らなかったんだ……。
「でもそれが本当に乃愛か分かんないし。乃愛は男子苦手だからさ一応確認しに来たんだ。でも何日前のことか覚えてなくて」
「……あ、うち、それ分かるかも」
『えっ……?』
麻由の言葉にわたし達4人は目を丸くした。だって、え?分かるかもってなにを?
「隣のクラスの子から聞いた話だと『3日前、乃愛っぽい人が背の高い男子と仲良く話しながら本屋から出てきた』ってらしいけど……」
3日前……。まさにわたしが桐崎くんと一緒に本屋に行ったり、雑貨屋に行ったりした日。まさか目撃されてたなんて。それも本屋から出てきたところを……。
「それで真偽は?」
遥奈は興味津々にわたしに聞き、
「素直に言った方がいいよ?」
紗弥はわたしに軽い脅しをかけ、
「黙っててもいいことないよ?」
麻由も興味津々にわたしに聞き、
「僕達の間に隠し事はなしだよね?乃愛」
雪帆は心配そうな、でもどこか相手を安心させるような表情でわたしに言う。紗弥の脅しや遥奈と麻由の興味津々な表情はさておき、雪帆にこんな表情で目を見られて言われたら言わざるを得ないよ。やっぱりわたし、雪帆に弱いんだなぁ……。
「――その噂の女子は、わたしです……」
『えっ……?』
わたしは正直に話した。やっぱりみんな、驚いた顔をしている。特に雪帆と遥奈は信じられないと言いたそうな顔をしていた。
「乃愛、その男子と付き合ってるの?」
「ま、まさか!付き合ってないよ!ただ……わたしは、好き……」
『えっ!?』
「まさか乃愛、一緒にいたのって……」
「……」
紗弥の問いかけにわたしは黙り込んでしまった。言えない。言えるわけないよ。言ったら現実を受け入れて変に期待してしまいそうだもの。
「……ユキ、ハルちゃん、今日の放課後暇?」
紗弥は突然2人に言い出した。
「あたしは暇だけど……」
「僕も今日は部活なしだから時間あるよ」
「じゃあ放課後またここに来て?そしたら話すから」
「分かった。じゃあまた後でくるから」
「うん」
遥奈は一足先に自分の教室に戻って行った。
「言いづらいことなら言わなくてもいいからね?じゃあまた後で」
雪帆も続いて自分の教室に戻って行った。大丈夫、雪帆。確かに言いづらいことかもしれない。でも、雪帆の言ったようにわたし達に隠し事はなし。だからちゃんと言わなきゃいけないの。
***
そしてほぼ同時刻。
「さぁ桐崎!素直に吐けぇ!」
「しらばっくれても無駄だからな!目撃者いるんだよ!」
……なんで俺はこんな目に?ちょっと真田に教科書借りに来たつもりがいつの間にか数人に囲まれて取り調べ?いやいや待て、おかしいだろ、これ。
「ちょっと待て……。一体なんのことだよ?いきなり言われても分かるわけねぇだろ?」
「3日前の放課後、って言えば分かるか?」
「……っ!」
その言葉で真田達の言いたいことは大体察しがついた。3日前の放課後、つまり俺が如月さんと一緒にいた時間帯だ。
「やっぱり分かってんじゃねぇか!」
ちゃんと言われなきゃわかんねぇよ!つーか何も言われないでわかるとかどんな奴だよ!第一3日前の話がなんで3日経った今されるんだよ!
「で、それが?」
「それがじゃねぇよ!それの真偽について知りたいんだよ!」
だったらそれを先に言えよ……。言われなきゃなにも言えねぇしなにを言えばいいかわかんねぇし。
「この前まで『リア充なんて滅びろ!』って言ってた奴が女子と歩いているのを目撃しちまったらこうなるのも当然だよな?桐崎」
「うっ……」
こいつ、一体いつまで根に持っているんだよ。この前っても結構前だぞ?――2ヶ月前だけど。
「素直に言った方が楽だぞ?さぁ言え」
おかしいだろこれ!ある意味脅迫めいてるし!まぁやましいことはないから言ってもいいだろうけど……。
「じゃあ素直に言うけど、真田と宮本さんが帰ってから俺らも駅前行ったんだ」
「やっぱり行ったのか!」
「誰と行ったんだよ!」
そこまで言わなきゃいけないのか?プライバシーの侵害じゃね?と思っていても今の俺は彼らに逆らえない。いや逆らおうと思えば逆らえるけど目が本気だからやめておこう。
「誰と行ったかなんてもう検討がついた」
真田が言うとみんなは真田の方を向いた。
「マジで!?」
「なんで分かるんだよ!」
「まさかお前が目撃者!?」
質問する相手が俺から真田に変わった。俺的には嬉しいけどそうなると真田が余計なこと話しそうで怖い。
「あいつだろ?桐崎。俺らが帰った後部室に残っていたのはお前と如月だけだもんな」
うわぁ!こいつ、さらっと暴露しやがった!言ってほしくないことだってあるんだよ!
『如月……?』
やっぱりみんな反応するのかよ……。
「如月ってあの如月!?男子苦手って噂の!」
「なんでそんな人と歩いてたんだよ!」
あー、もういい。なにも言いたくねぇしなにも聞きたくねぇ。
「まさか如月さんと付き合ってるとか?」
1人がそう言った瞬間、俺達は静かになった。
「はぁ!?付き合ってる!?」
「『リア充滅びろ』言ってた奴がリア充かよ!」
「いつからだよ!」
ちょっと待て……。誰も肯定も否定もしてねぇのになんでまた質問攻めなんだよ!しかもこいつら、既に俺が付き合ってると思って質問してやがる!
「ちょっと待てよ!俺は付き合ってない!話を最後まで聞け!」
「じゃあなんで一緒にいたんだよ!」
「目的地が同じだったから!」
嘘は言ってない。2人とも本屋に用事があったのだから。
「本当か?」
「本当だ!」
だから嘘は言ってねぇよ!……嘘はついたけどお前らにはついていない。
「でもだからと言って一緒に行くか?仲良さそうに隣を歩くか?」
「べ、別にいいだろ!?目的地は同じだし1人で行くより2人で行った方が楽しいだろ?」
「そうかもしれないけど、女子とは……」
「俺も女子と行くのは……」
えっ?そういうもん?
「桐崎、1つ聞いていいか?」
真田は改まったように言った。
「あぁ」
「如月と別れたのは何時くらいだ?」
別れた時間?そんなこと聞いて一体なんの意味がある?別に答えることで俺が困ることはなにひとつないけど。
「確か6時くらいだったような……。それがどうした?」
「そうか。だったら不思議だなー……」
真田はなにか言いたそうな顔で言った。
「なにがだ?」
「桐崎と如月が本屋から出てきたのは5時半くらいだって目撃者から聞いたんだが……」
「っ!」
そういえばそうだ。駅前についたのは5時くらいで30分くらい本屋にいたから本屋を出たのは5時半くらい。その時に目撃されたと言うのに別れたのは6時くらいだと言ってしまった。そうなると当然、6時までの30分間はなにがあった、ってなるな。
「不思議だよな桐崎。5時半に本屋から出たのに別れたのが6時だなんて。空白の30分はなんだ?」
うわー……。やっぱり聞きやがったこいつ。つーかこいつ、まるで見ていたかのように知ってるな。
「如月さんが次のバスが来るまで時間あったみたいだからその時間つぶしに付き合ってただけだよ」
「ということはお前も6時近くにバスが来たってことだよな?」
「あぁ、そうだよ!」
真田は一体なにが知りたい?俺になにを聞きたいんだ?
「桐崎。それは嘘だろ?」
「っ!」
『はぁ!?』
周りにいた奴らは真田の言葉を不思議に思った。でも俺は……。
「図星だろ?」
「……」
真田の言うように図星だった。なんで分かったのかな、こいつ。
「実は俺、見たんだよ。桐崎がバスに乗るところ。――6時半前のバスに」
「!?」
……見た?あの日俺が6時半前のバスに乗るところを?
「桐崎、部活始まる前にちょっと2人で話さねぇか?」
「……えっ?」
「この場じゃ聞きづらいことがあるんだよ!」
この場じゃ聞きづらいこと、要は周りの奴らには聞かれたくないことか。俺もあまり聞かれたくはないんだよな。本当ならあまり口外したくはないが、真田になら言ってもいいかもしれない。
「分かった。放課後またここに来るから」
「あぁ」
「じゃあまたあとでな」
「おう」
とりあえず話はここまで。続けたら長くなるだろうしな。
俺は真田のクラスから出ようとしてふと気づいた。
「なぁ真田」
「なんだ?」
俺が真田のクラスに来た本来の理由を。
「教科書貸してくれ」




