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43.これはデートですか?

「……っと、帰っちゃったね、2人」

「う、うん……」

 緋華と真田くんが部室から出ていったので部室に残されたのはわたしと桐崎くんだけだった。一気に気まずい雰囲気に。

「今日って、部誌書いた方いい、かな……?」

「いや、書かなくてもいいと思うけど。書くとしたら急遽部活なしとかでいいんじゃないかな?」

「あ、そっか。じゃあそう書く……」

 筆箱からシャーペンを取り出し、いつもの場所からノートを出して書き始めた。

「『今日は顧問出張のため急遽部活なし』っと。これでいいかな?」

「うん。いいと思うよ」

 部誌を元の場所に戻して筆箱をバッグにしまった。

「それじゃあ帰ろうか」

「うん」

 電気と戸締まりを確認してわたし達は部室から出た。

『……』

 お互いなにも語らず、無言のまま歩いていく。このままはまずい、なんか話さなきゃ!なんか……!

「……桐崎くんってこの後予定とかあるの?」

 ってわたしは一体なにを聞いているんだぁ!この後のこと聞いてどうするんだって!

「いや、特には。あ、本屋寄ろうかなって思ってたくらいかな。如月さんは?」

「わたしも本屋行こうと思ってたの」

「……一緒行く?」

「えっ!?」

 それは思いもよらない提案だった。桐崎くんにこんなこと言われるとは思ってもいなかったもん。

「い、いいの?」

「俺は別に構わないよ。目的地は一緒だし」

「じゃあ……一緒行きます……」

「うん」

 桐崎くんと一緒に本屋行けるなんて信じられない!それも桐崎くんの提案だなんてもっと信じられない。けど嬉しい。

 そんな思いで緋華達が乗ったバスの一本後のバスに乗った。桐崎くんはわたしに席を譲ってくれて自分はわたしの近くに立ってつり革に掴まっていた。


 ***


 とりあえず駅前に到着。駅前なら大きな本屋がいっぱいあるからね。

「いつもどこの本屋行ってるの?」

「大体はバス降りてすぐのところにあるとこかな。グッズとかも売ってるし」

「そうなんだ。じゃあそこ行こ?」

「如月さんがいいならいいけど」

 そしてわたし達は桐崎くんがよく行く本屋に向かった。

「そういえば如月さんはどんな本買うつもりだったの?」

「この間発売した小説買おうかなって。あと漢検受けるつもりだからそれも……」

「へぇー。何級?」

「まだ決めてないけど出来れば準2かな。確定するのは問題見てからだけど」

「そうなんだ」

「桐崎くんはなに買う予定?」

「マンガと小説?本命は新刊のマンガだけど面白そうなのあったら小説も欲しい」

「……ラノベ?」

「もちろん!自慢じゃないが俺は基本ラノベしか読まない!」

「そうなんだ」

 桐崎くんの言い方が面白くて思わず笑ってしまった。

「えっ?俺なんか変なこと言ったかな?」

「言ってないよ。ただ言い方が面白くて……!」

「それって喜ぶべき?どうするべき?」

「どうぞご自由に?」

「じゃあ喜んでおこう!」

 なんか言動の一つ一つが可愛い。男子に可愛いなんてあまり言いたくけど思うだけならいいよね?



 本屋に到着し、お互い自分の欲しいものを探した。

 探していた小説はすぐに見つかった。でも、問題は漢検対策の本……。受けたことないからどうすればいいかすごく迷う。どういうのが一番いいのか、問題が多い方がいいのか、教本みたいな方がいいのか。うーん、どうしよう……。

「まだ見つからないの?」

 声が聞こえて振り返るとすぐ後ろに桐崎くんがいた。

「う、うん。小説は見つかったんだけど漢検対策はなにを使えばいいのかわかんなくて……」

「俺だったら……これかな」

 そう言って桐崎くんは取り出した本をわたしに見せてくれた。

「よく出される漢字が分かるし問題も多いし」

「そうなんだ」

 パラパラと中身を確認する。確かに問題が多い……。よし、1人だと絶対なににすればいいか迷うから桐崎くんに渡されたこれにしよう。

「じゃあこれにしようかな。桐崎くんはもう買ったの?」

「あぁ、すぐ見つかったから。それに小説もあったし」

「そっか。わたし、これ買ってくるね」

 カウンターへ行き、会計を済ませた。



 お互い目的のものを買った。さぁこれからどうしよう。やっぱり解散、かな……。

「これからどうしようか」

 桐崎くんがそう切り出してきた。わたしもそう思っていた。

「帰る……?」

 そう言ってみたけど、でもホントはまだ帰りたくない。もう少し2人で一緒にいたい。もう少し2人で話して桐崎くんのこと知りたい。

「……そう言えば如月さんはここからバスで帰るんだよね?」

「うん」

「次のバスまで時間あとどれくらい?」

 バス時間を確認してみると5分後に一本あったが多分間に合わない。それじゃなければ35分後かな……。

「もう少しで来るのには乗れないから多分35分後?暇だなぁ……」

「だったら時間つぶし付き合うよ?」

「えっ?いいの?」

「だって俺も次のバスまでそれくらい時間あるし。お互い30分も暇になるならその方がよくない?」

 それもそうだな。ここで解散したところでバスまで時間あるのだから1人で時間つぶしするより2人でいた方がいいのかもしれない。

「そうだね。じゃあ、お願いします……」

「うん。いいよ」

 まだ桐崎くんと少し一緒にいられる。この30分でわたしはどこまで彼に近づけるかな。

「どこか見たいところある?」

「うーん……」

 いきなり言われてもすぐにぱっと浮かばないよ。でも悩みすぎると桐崎くんを困らせちゃうから早く決めなきゃ。

「特にないけど強いていうなら雑貨?」

「雑貨か……。おすすめある?」

「おすすめというかよく行く場所ならあるよ」

「じゃあそこ行こうか」

「うん!」

 わたし達は次に雑貨屋へ向かった。



「見て見て桐崎くん!これ可愛いっ!」

 雑貨屋に入ってすぐのところにあったぬいぐるみを見てわたしは言った。

「ホントだ。でも俺はこっちの方が好きかな」

 そう言って桐崎くんは隣にあったぬいぐるみに触った。

「この目、なんかよくない?」

「ホントだ!うわぁヤバい!こっちも可愛い!あ、あっちにも可愛いの発見!」

 わたしはお気に入りのキャラクターのマグカップを見つけてしまった。そしてすぐさまそこへ移動。

「あー……ホント可愛い!」

「次はなに見つけたの?」

 桐崎くんはわたしの隣に移動してきて言った。

「じゃーん!わたしの好きなキャラのマグカップ!」

「へぇー、如月さんってこのキャラ好きなんだ」

「うん!だってほら、バッグにもつけてるし筆箱も手帳もこのキャラだし、あ、ケータイにもつけてるよ!」

「ホント好きなんだね」

「うん!」

 もしかしたらほぼ無言状態で過ごすのかなって少し不安になってたけどフツーに話せてる!よかった……。

「あ!あっちにも!」

 わたしは1人ですたすたと進んでしまった。それでも桐崎くんはなにも言わずについてきてくれた。

「あ、ごめん……。勝手にすたすたと……」

「全然構わないよ。俺が勝手に付き合ってるだけなんだから如月さんの行きたいところいけば」

「うん……。だとしても少しはゆっくり行動します……」

 子どもっぽくて自分勝手って思われたくないもの。それに少しでも一緒にいたいからね。

「あ、アロマ」

 次にわたしはアロマキャンドルを見つけた。

「如月さんは……そういうの好きなの?」

「うん。結構好き。いつか使ってみたいと思ってるの」

「そうなんだ……」

「もしかして匂いきついのとか苦手?」

「うん、まぁ……あまりきつすぎるとちょっと……」

「そっか、じゃあ今はいいや」

 ただでさえ無理やり付き合わせているのに苦手なところつれていくなんていくらなんでもひどいから今日はアロマは見ないでおこう。

「いや、別にいいんだよ?俺のことは気にせず……」

「いいのいいの!アロマはいつでも見れるし今欲しいわけじゃないから!」

 でも理由はそれだけじゃないかな?それは桐崎くんには内緒だけど。

「そういえば時間大丈夫?そろそろバス停行った方いいんじゃない?」

 時計を見るとバスが来る約10分前だった。

「そうだね。そろそろ行った方いいかな……」

「うん」

 わたし達はバス停に戻ることにした。



 楽しい時間ってあっという間に過ぎちゃうんだね。学校出てから1時間以上経ってるけどまだ1時間も経ってないような気がしたもの。

「桐崎くんってどこから乗るの?」

「ここの階段降りてすぐのところ。如月さんは?」

「わたしはもう1つ奥の階段降りたところ。まだバス来てないかな……」

「俺も。だから少し話してようか?」

「うん」

 一緒にいられるだけでも嬉しいのに話したりしたらもっと嬉しくなるよ。

「なんか今日は短時間で如月さんの意外な一面見れたなー」

「い、意外な一面!?」

「好きなキャラ見ただけで子どもみたいなすっごい無邪気な笑顔してたよ?」

 やっぱり子どもっぽいって思われてたんだぁ!うわぁ、恥ずかしい……。

「子どもみたいって言わないでー!少し気にしてるのー……」

「はいはい」

「……今適当に流したよね?」

「さぁー?」

「ほら!絶対流した!」

 あーもう!絶対また子どもっぽいって思われた……。

「あ、もしかして如月さんが乗るバスってあれじゃない?」

「えっ?」

 桐崎くんが指差す方向にはまさにわたしが乗るであろうバスがあった。

「嘘!もう来てる!ごめんね桐崎くん!お先に失礼します!」

「分かった。じゃあね」

「ばいばい!」

 そう言ってわたしは急いでバス停に向かって走っていた。


 桐崎くんはこの日わたしに嘘をついた。でもわたしはその嘘に気づけなかった。そしてその嘘の内容をわたしが知ることはない。



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