42.席替えです!
「へぇ~、桐崎くんとメールしたんだ。よかったね!」
翌朝、麻由に桐崎くんのメアドを聞いて早速メールしたことを一応報告した。
「う、うん……。すごく嬉しかった……。ありがとう麻由」
「うちはなにもしてないよ!乃愛が頑張ったの!」
そしてわたしは麻由に抱きしめられた。しかもかなりの力で。
「く、苦しい……」
「あ、ごめん!そういえば今日席替えだね!」
……そのことすっかり忘れてた。そうだ、今日は席替えだった。
「まさか忘れてたの?」
「うん」
「ちょ……えー!?忘れてたって嘘でしょ?」
いえいえ、本当です。
「と、とにかく!楽しみだね席替え!乃愛ちゃんはあの人の近くになれるのかな♪」
なんで麻由がこんなに嬉しそうに、そして楽しそうにそんなこと言うのかな?そりゃわたしだって席近くになりたいけどさ……。多分近くになったらなったで嬉しくて落ち着いていられないかも。でも離れすぎは嫌だなぁ。対角線とか、ね。
「なれたらいいねー」
本音を言わないでとりあえず流してみる。
「あーもう!つれないなぁ!」
つれなくてごめんなさいね。こういう性格なんですよ。
そして席替えの時間。順番にくじを引いていく。
「よっしゃ!後ろだ!」
「嘘……。一番前嫌だぁ……」
教室の至るところから次々と喜びの声や悲しみの声が上がる。わたしはと言うと……。
「乃愛ー。席どこ?」
「廊下側から3番目の列で後ろから2番目」
「じゃあわたしの前だね」
そう言って紗弥はわたしに自分が引いたくじを見せてくれた。
「や……やったぁ!紗弥の前!近くになれて嬉しい!」
「ねぇ聞いて~!窓側から3番目の列で一番後ろの席になった!」
麻由が紗弥に抱きつきながら言った。
「本当!?わたしの隣じゃん!」
「すごいね!みんな固まったよ!」
わたし、紗弥、麻由は見事近くになることが出来た。3人が固まることは初めてかもしれない。だから嬉しさ倍増!
「よし!一番後ろ!また寝れる!」
そう言って紗弥の隣に来たのは加賀美くんだった。
「加賀美くんの席そこなの?」
「うん。やった!」
加賀美くんの顔は喜びに満ち溢れていた。ホントこの人可愛いなぁ。モテるのが分かる気がする。
「うわっキリ前の方かよ!離れたじゃん!」
加賀美くんは笑いながら言った。その言葉を聞いてわたし達3人は桐崎くんのいる方を見た。
「笑うなよ加賀美!うわーマジでショックだ……」
桐崎くんの席は廊下側の列で後ろから5番の席、つまり廊下側の前から2番目の席。
「うわー!桐崎くんくじ運悪いね!また前の方じゃん」
「それ言わないで!池波さん!」
そう言えばまた前の方みたい。窓側から廊下側に移動しただけのような気がする。
「ちぇー、キリと近かったらいろいろいたずらするつもりだったのにこれじゃあできねぇじゃん!くじ運悪すぎだよ!」
「すいませんね!」
ちょっと加賀美くん!ちぇー、とかすごい可愛いんですけど!こう言ったら怒るかもしれないけどホント女の子みたい!下手したらわたし達より女子力高いって……。
「あ、桐崎くん」
突然クラスの女の子が桐崎くんに声をかけた。
「お願いなんだけど、もしよかったら席替わってもらえないかな?あたし、目悪いから前がいいんだ……」
「別にいいけど、ここでいいの?」
「うん。周りに仲良い人いるし、それに桐崎くんだって加賀美くんの近くになるから」
「えっ?そうなの?」
「だってあたしの席、桐崎くんの3つ後ろだから」
『……えっ?』
桐崎くんの他に2人の会話を聞いてたわたし達4人も声をあげた。桐崎くんの席から3つ後ろってことは……。
「俺のななめ前じゃん!近っ!」
「乃愛の隣の隣だね!」
加賀美くんと麻由の言うように桐崎くんと席を交換したい女の子の席はわたしの2つ左で加賀美くんの左ななめ前。
「キリ!こっち来いよ!彼女だって黒板見えなくて困るんだから!」
「そうだよ桐崎くん!桐崎くんがこっちに来れば加賀美くんのためだけじゃなく彼女のためになるんだよ!まさに一石二鳥なんだよ!」
ちょっとちょっと……。加賀美くんが必死になるのは分かるけどなんで麻由までそんなに必死になるの!?貴方、わたしよりちょっと離れてるのに!
「あ……じゃあいいよ。席替わるよ」
「ありがとう!」
そして桐崎くんはわたしの2つ左の席に移動してきた。
「やった!キリ近い!これでいたずらできる!」
「いたずらするつもりなのか……」
加賀美くんの表情はまるで欲しいおもちゃを買ってもらった子どものように無邪気な笑顔だった。桐崎くんも呆れるように言っていたけど顔には僅かに笑みが浮かんでいた。なんだかんだで桐崎くんも嬉しいんだね。
その時、突然麻由に肩をツンツンされた。そして麻由はわたしの耳元に顔を近づけて言った。
「よかったね♪桐崎くんと席近くなって」
「ちょ……!」
そういうのは堂々と言わないで!
「嬉しいんでしょ?ほらほら素直になりなさい!」
「うっ……。……い、で……」
「なになにー?聞こえないなぁ~」
このドS……。絶対からかってる!
「う、嬉しいです……!」
「よしよし、よく言った!」
正しくは言わせたんでしょ!なんて思っいても言えるわけない……。でも嬉しいのは本当かな。離れた時ちょっと残念だなって思ったし。
***
「あー、やっぱり嬉しいなぁ……」
席替えしてからのわたしの顔はずっと緩みっぱなしだった。それは部活が始まるという今になっても変わらなかった。
「乃愛、すごく嬉しそうな顔してるけど」
緋華はわたしの近くに寄ってきた。
「えへへー、だって席替えで嬉しいことあったからさ」
「へぇー席替えしたんだ!」
「うん!もう幸せ!」
あの席は本当に嬉しすぎる。だって紗弥と麻由と近くて、それに桐崎くんとも近いんだもん……。
「如月、顔がにやけすぎ」
「あの席は如月さんにとってすごくいい席だからね。ホント嬉しそう」
いつの間にか部室内にいた真田くんと桐崎くんに言われた。
「だってめっちゃ嬉しいんだもん!」
「よかったね。俺も加賀美と近くになってよかったけどさ」
なんだ、やっぱり嬉しかったんだね。あの時の2人の顔を見れば一目瞭然だけど。
「お前の席ってどこ?」
「俺の席は廊下側の後ろから2番目。如月さんはその2つ隣」
「へぇー!2つ隣ってことは結構近いんだね!」
桐崎くんの話を聞いた緋華はわたしを見た。……意味有り気な笑顔で。
「うん。でも最初は違かったんだもんね?」
そんな緋華の顔を見ていられなくて桐崎くんの方を向いて言った。
「うん。目悪くてよく見えないから替わってって言われたからね。それに加賀美の近くになるならいいかなと思って」
「へぇー……よかったな、席替わって」
「まぁな」
「加賀美の近くになったことだけじゃねぇだろ」
「えっ?」
桐崎くんにとってあの席は加賀美くんの近くになったことだけじゃなく他にもいいことがあったの?真田くんの言った言葉はそう捉えられるような気がした。
「あ……あぁ。それに後ろだし、な!」
「そういうことじゃ……あー、もういいや」
「……?」
結局真田くんの言葉の意味はよく分からないまま。
「てか、今日集まり悪くない?まだわたし達だけじゃん」
確かに緋華の言うとおりだ。部室にはわたしと緋華と真田くんと桐崎くんしかいない。
「……それがな、顧問出張らしくて今いないんだ」
「いや、だとしても活動はするじゃん」
「ここ来る途中に会った奴に顧問が出張でいないってこと言ったらみんな帰りやがった。多分それが伝えてない奴にも回ったんだと思う」
「じゃあなんで桐崎くんはいるの?」
来る途中会った人に言ったならそれを聞いた桐崎くんだって帰ってるはずだけど……。
「それはもちろん言ってねぇからだろ」
「おい!なんで言ってくれねぇんだよ!」
「別にいいだろ!どうせ帰ったところで暇なんだろ?」
「ま、まぁ……」
反撃失敗みたいですね、桐崎くん……。
「真田、4人じゃなにも出来ないと思うけど」
「いや、筋トレやら発声やらは――」
『やだ!』
真田くんの言葉を遮ってわたし達は声をそろえて言った。
「お前らな……」
わたし達3人の態度に呆れる真田くん。
「もう今日はやんなくてよくね?」
「そうだよ。帰ろうよ」
「まぁ、誰も来る気配ねぇしな。今日は終わりでいっか」
「やった!」
緋華はすごく嬉しそうな声で言った。
「駅前で買い物したかったんだよね。よかったよかった♪」
「……俺も駅前行こうかな」
真田くんは緋華にも聞こえるような声で呟いた。
「じゃあアイス奢って」
「えっ?一緒行っていいのか……?」
「奢ってくれるならね」
ちょっと緋華、それはひどいような気がするよ。
「アイスくらいならいいけど」
ってあっさりOKしてるし!もうなんなのこの2人は!
「桐崎と如月は今日もチャリか?」
「今日はバス」
「わたしもー」
朝は天気悪かったから一応バスで来たけど、お昼にはすっかりよくなっていた。
「じゃあ乃愛達も一緒行こうよ!」
『えっ!?』
わたしと桐崎くんは声をそろえて言った。
「えー……」
「なにその不満そうな声は!」
それに対し、真田くんはなにやら不満そうに。邪魔するなってことですね、はいはい。
「せっかくだけど遠慮するよ。2人の邪魔したくないし」
「じゃあ俺も」
「そっか……。じゃあまた今度ね!」
「うん」
「ほら、さっさと行こ、真田」
「あぁ。如月、戸締まりよろしくな」
「はーい」
そして緋華と真田くんは帰っていった。