40.メアドが知りたいです!
「ねぇ乃愛。桐崎くんとどんなメールしてるの?」
桐崎くんと加賀美くんの話が聞こえてしまったあの日から数日が経ったある日、麻由にそんなことを聞かれた。わたしは答えるべきか黙ってるべきか迷った。なぜならわたしは……。
「えっ?まさかメアド知らないとか……?」
「……」
そう、そのまさか。わたしは桐崎くんのメアドを知らない。知りたいと思う時もあったけど別にいいかなと思って聞かないでいた。聞けるタイミングはあったけどいろいろと無駄にしてしまった。
「嘘!?えっ、好きなのにメアド知らないなんて!」
「ちょっと!それ言わないでよ!聞かれたらどうするの!」
「大丈夫だって」
大丈夫って、一体どこにそんな根拠が……。
「で、なんで知らないの?メールしたいとか思わないの?」
「し、したくないと言えば嘘になるけどそこまでしたいというわけでもないし……」
そう言ったら麻由からデコピンをくらった。これが地味に痛い……。
「いっ……もう!なんでデコピンなんかするの!」
「素直になりなさいっ!本当は知りたいくせに!」
うっ……。麻由には全てお見通しなわけ?
「確かに一度くらいは知りたいなぁって思ったりはしたけど別に……」
「なんでそう素直じゃないのかな。乃愛の悪い癖だよ?」
「だ、だって……」
「だってじゃない!もう、後悔してもしらないんだから」
「えっ?なにを?」
「はっ!」
どうやら麻由は言ってはいけないことをうっかり言ってしまった様子。後悔って一体なにを後悔するの?メアド聞かないと後悔することなんてあったかな?
「なんでもない!乃愛が知りたくないなら別に知らなくてもいいと思うよ!メアド」
「えっ、あ、うん」
「一応言っておくけど桐崎くん、クラスの約3分の1の女子のメアド知ってるらしいよ?うちもその1人だけどさ」
「さっ……!」
3分の1!?ってことは約5、6人……。いや、別になにも不思議なことではないけど。もしかしてその中に好きな子がいるのかな……。ダメだなわたし、最近ネガティブ全開。
「大丈夫。桐崎くんは教えてって言えばちゃんと教えてくれるから!仮に断ったとしたら無断で教えるよ」
ちょっと待て麻由。無断はよくないと思うけど?一応プライバシーというものがあるんだから。それに教えてくれなかったら嫌われてるってことでメアド聞くことは諦めるよ。
「まぁ、聞けなかったらうちが桐崎くんに乃愛にアド教えていいか聞いてみるから。とりあえず部活終わって家帰ったらメールしてね?」
「う、うん……。ありがとう。なんか、ごめんね?」
「なんで謝るの!?しかも疑問形!全然迷惑じゃないんだから気にしないの!」
「ありがとう。頑張って聞いてみるよ!誰かに頼ってばかりじゃ成長しないもんね!」
「乃愛偉い!頑張れ!」
麻由はわたしを応援してくれてる。だから頑張って聞こう。それに意地張ったりしてもいいことはないんだから!自分の気持ちに素直にならなきゃ多分、前に進めない。
***
……メアド聞きたいのに、聞けるタイミングがなーい!聞こう聞こうって思ってるのに話かけられないなんて。気づけばもう部活も終わる時間。そろそろ部誌を書かなきゃいけない時間だし……。これは麻由に頼ってしまうパターンかも。
「如月、部誌書いたか?」
真田くんが近くにきて部誌のノートをのぞき込んだ。
「まだ……。書くことがない……」
「部誌なんてなんでもいいから適当に書けばいいんだよ」
「うわー、真田くん雑ー……」
「雑言うな!もうみんな帰ってんだから!」
辺りを見回すと女子はわたし1人、男子は真田くんを含め数人しか残ってなかった。
「ホントだ……。またおいてかれた……」
「さっさと部誌書かねぇからだろ」
「うっ……」
仕方ないじゃん。桐崎くんにメアド聞こうと思ってタイミングを見計らってたら部活でどんなことがあったのかあまり覚えてないんだもん。ってそれはまずいか。でもあまり人に頼らず自分でなんとかしたいし……。
「如月さん。書き終わった?」
横からひょこっと顔を出した桐崎くんはノートを見た。
「まだ。って見ないでよ。字、雑なんだから」
「雑じゃないから大丈夫。今日の活動内容は発声練習と部室の片づけ。裏方の人は器具の点検もしてたかな」
「えっ……?」
「ほら、書いてさっさと帰ろうよ」
「あ、うん」
もしかして桐崎くん、わたしに部活でどんなことがあったかを教えるためにノートを見にきたの?ノートを見ればわたしが書いてないことは一発で分かるもの。活動内容のところだけきれいに空白だったから。
……なんて思いこみが激しいのだろう。でもそう思いたいんだ。真実がどうであれわたしはそう思いたい。桐崎くんの優しさに触れたい……。でも仮にそうだとしたら桐崎くんはわたしに親切に活動内容を教えてくれたというのにわたしは見ないでなんて冷たいことを言ってしまったんだ。ごめんね桐崎くん……。
「おい、桐崎の話聞いてたか?さっさと書いて帰ろうぜ」
真田くんがもう帰り支度を済ませてドアの近くに立っていた。だったら自分で部誌書いてよ……。
「ちょっと待って。もう書き終わる……よし、書けた!」
ノートをいつもの場所に置き、帰り支度を済ませる。わたし以外の残っていた人はみんな帰り支度を済ませていた。
「ごめん、準備遅くて」
「あぁ、そうだな」
そう言う真田くんに対し、
「大丈夫。じゃあ帰ろうか」
桐崎くんはそう言ってくれた。少しは桐崎くんの親切さを見習ってほしいよ真田くん。
戸締まりをしてみんなで下へ降りる。とは言ってもわたしは男子の中に混ざる勇気はないので後ろの方へ。それに気づいた桐崎くんはわたしに歩幅を合わせた。どうしよう、隣に桐崎くんがいる。それだけなのに嬉しい……!顔が紅いとバレるのを恐れてわたしは顔の約半分をマフラーで隠した。
そして昇降口からみんなで駐輪場に向かって歩いた。わたしの隣には桐崎くんがいる。メアド聞くなら今しかないかな……。あー、でもやっぱり恥ずかしいし怖い!でも誰かに頼りっぱなしは嫌だし。聞くなら今しかない。逆に今聞かなかったら多分聞けなくなる!ここでやるしかない!わたしは勇気を出して桐崎くんに言った。
「ねぇ桐崎くん!メアド教えて?もしよかったら……」
なんてずるいかな。もしよかったら、って言われても余程のことがない限り桐崎くんは教えてくれるはず。嫌われてなければ。
「あ、うん。いいよ」
桐崎くんの返事はあっさりしていた。深く考えてたわたしがバカみたいで恥ずかしい。
「ホント?やった!」
つい本音がポロッと。やったとかどんだけ子供みたいなの!絶対単純とか思われてそう!あー恥ずかしい!(二回目)
「それじゃあ赤外線で送るよ」
「うん!」
ケータイを近づけるとピロリン♪と電子音が鳴った。桐崎くんのメアドや番号が送られてきた。
「ありがとう!」
「次は如月さんの送って?」
「うん」
再びケータイを近づける。わたしのメアドや番号はちゃんと届いたみたい。
「ありがとう。あとでメールしていい?」
「うん!いいよ!」
むしろわたしからメールしようと思ってた!なんかすごく嬉しい!メアド交換しただけじゃなくメールしてくれることが!素直になってよかった。
「ほら、さっさと来いよ。置いていくぞ」
少し離れたところにいる真田くんに言われた。というか叫ばれた?
「ちょっと待ってくれたっていいじゃん!」
わたしと桐崎くんは急いでみんなのところへ向かった。