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39.本当なの?

「なぁキリ、さっき如月さんからなに渡されてた?なに話してた?」

 昼休み、加賀美と昼ご飯を食べていたら突然加賀美が言い出した。

「み、見てたのかよ!?」

「あぁ。ちょうど教室に入った時だったから。席は離れてるから話までは聞こえなかったけど如月さんがキリになにかを渡してるのは見えたし」

 なんでこいつはそういうところをちゃんと見るのかな。……別にやましいことは何一つないけど。

「なぁー!キリ教えてー!」

 ……ダメだな俺。加賀美に頼まれたら断りきれないと思ってしまうなんて。

「この間、停電になっただろ?その時に如月さんが寒そうにしてたから手袋貸したんだ。それでさっき手袋返してもらってありがとうってお礼言われた。ただそれだけだよ」

「手袋貸したってキリのを?」

「あぁ」

「……えっ?マジ?」

「あぁ。マジ」

 なんで俺がお前に冗談でこんなことを言わなきゃいけねぇんだよ!全て事実だ!

「あ、あのな……如月さんは女子だよ?よく自分の手袋貸せたな……」

「そうか?だってすごい寒そうにしてたから。それに自分だって怖いくせに意地張ってるの見たらなんかすげぇ心配になって」

「ふーん……。優しいんだなキリは。それと如月さんは男子苦手って噂あったからてっきり受け取らないと思ってた」

「優しくねぇよ。それに最初は受け取ってもらえなかったよ」

「はっ?マジ?」

「あぁ」

「え、受け取ってもらえなかったのにまた貸したの?」

「あぁ。そしたらちゃんと受け取ってくれたよ。半ば強引に押しつけたもんだけど……」

「お、お前な……」

 加賀美は呆れたのかため息をついた。ったくしょうがねぇだろ?あそこまで意地張られちゃこっちだってムキになっちまうんだよ……。まさか如月さんがあそこまで頑固で意地っ張りだとは知らなかったけど。

「で、如月さんはキリの手袋使ったの?」

「俺がいる前では使わなかったけど帰る時にちらっと見たらちゃんと使っててくれたよ」

 キョロキョロと周りを見てから如月さんは手袋をはめていた。やっぱり寒かったのを無理してたんだなって思った。

「――意外だな。男子苦手な如月さんが男子から借りた手袋使うなんて」

「俺も、貸してから思い出したけど如月さんは男子苦手だから手袋使ってくれるか不安だったんだよな」

「それでもし使ってくれなかったらって考えたりしなかったの?」

「少しは考えたけどちゃんと受け取ってくれたから多分使ってくれるだろうって思いの方が強かったかも」

 なんだかんだで如月さんは人の厚意をちゃんと受け取ってくれる人だから。一瞬不安になったりしたけど如月さんの性格を考えたらそんなの一気に吹き飛んでしまった。

「ふーん……。でも珍しいな。キリが女子にそんなことするなんて」

「そうか?」

「そうだよ。だってあまり女子に興味なかっただろ?未だにクラスの女子の名前さえ覚えてないくらいどうでもいいって感じだったのに如月さん達のことはちゃんと顔も名前も一致してるしさ。如月さんには手袋貸すし何気によく話してるし」

 ……ヤベぇ、一瞬加賀美のことを怖いと思ってしまった。こいつは一体どこまで俺の行動見てるんだ?つか、俺、クラスではあまり如月さんと話してないけど……。

「まぁ、女子に興味がないのは当たってる。如月さん達と話すようになったのは林原さんがいたからだよ」

「……なに?キリって林原さん好きなの?」

「ちげぇよ。二次元の話が合うからだよ」

「あっそ……」

 なんだよ、そのつまんねぇみたいな反応は。女子に恋愛感情を抱いたことは一度もねぇよ。

「キリって本当二次元好きだよな……。三次元興味ないの?」

「どうなんだろう。正直自分でもよく分かんねぇ」

「分かんねぇのかよ!でもついこの間言ってなかったか?」

「なにを?」

「まさか忘れたの!?俺、あん時めっちゃ驚いてたじゃんか!『えっ?キリ、三次元に手出したの!?』って」

 加賀美がそう言うとクラスにいた人の視線が一斉に俺と加賀美に向いた。

「なっ……!声でけぇよ!しかも手出したとかどんだけ人聞き悪いんだよ!」

「あれ、違うの?」

「だからそれは――」

「なになに?桐崎くんって好きな人いるの?」

 突然俺達の会話に池波さんが入ってきた。

「な、なんで?」

「だって今、加賀美くんが言ってたから。三次元に手出したって」

 うわっ……。やっぱり聞かれてたのか。恨むよ加賀美。

「で、どうなの?」

「さぁね。どうだろうね」

 俺は席を立ってその場から離れた。

「ちょっと~!ちゃんと教えてよ~!」

「おいキリ!待てよ!」

 池波さんはしつこく聞いてくるが、加賀美はなにも言及しないかわりに俺についてきた。

「悪かったよ……。結構大きな声で言ったのは」

 どうやら俺が怒ったと思ったみたいだ。でも実際、俺は怒ってなどいない。ただ知られたくなかっただけであって……。

「なぁ加賀美、今から言うこと絶対誰にも言わないって約束してくれるか?」

「えっ?」

「お前には、言っておこうと思うんだ」

 俺は加賀美を連れて人目の少ない階段の踊り場に行った。


 ***


 聞こえてしまった。桐崎くんと加賀美くんの話。ちょうど教室に戻って来たところで、思わず持っていた大量のプリント類を落としそうになった。

 だって、え?桐崎くんが三次元に手を出したってことはつまり、三次元に興味を持ったってことでイコール好きな人ができたってこと?

「どうしたの乃愛ちゃん?ボーッとしちゃって」

 クラスの子の声をかけられてハッとする。

「な、なんでもないよ……」

 そう言って大量のプリント類を教卓の上に置き、自分の席に着いた。まだ時間があったので机の中から本を取り出して大人しく読書。

 ……おかしいな。大好きなミステリーなのに小説の内容が頭の中に入らない。その代わりさっきの加賀美くんの言葉が頭の中を駆け巡る。二次元が好きな人でも三次元に興味を持つなんて別に不思議なことじゃない。好きな人ができるなんて変わったことじゃない。高校生なんだし。でも、桐崎くんに好きな人がいるって思っちゃうだけで胸の奥がギュッと締め付けられるんだ。なんか、見えない針が刺さったようなチクッとした痛みに襲われるんだ。なんでだろう。なんなんだろう、この切ない気持ちは……。

 ギュッと締め付けられる感じは少し前にもあった。でもそれとはなにかが違う。今の方がきつく締め付けられる気がする。苦しいよ。切ないよ。なんで……。

 この気持ちがなにかも分からないまま、わたしは午後の授業を受けた。一度も桐崎くんを見ることもなく。いや、正しくは見ないように意識して。


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