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33.合宿です!⑪

 帰りのバスの中。俺の左肩に如月さんが寄りかかっている。それもすやすやと寝息を立てて……。

「ねぇ乃愛!明日さ――」

 前の席に座る宮本さんが座席の上から顔を出してきた。が、俺の左肩に寄りかかって寝ている如月さんを見て言葉が止まった。

「あ、起こ――」

「大丈夫!乃愛疲れてるから出来れば起こさないであげて!」

 宮本さんは焦り気味に言った。確かに如月さんは特に今日は全力で取り組んでたから疲れていても無理はない、か……。それより、一体どうしてこうなった?



 それは数十分前の出来事。

 会館の掃除を終えて荷物の整理をしていた。ほとんどの部員は既にバスに向かっている。

「よし、整理完了。あとはバスに荷物を――」

「きゃっ!」

 荷物を持とうとした時、舞台袖から聞こえた短い悲鳴。少し遅れて聞こえたなにかが倒れたようなバタンという音。この悲鳴の主は俺の勘が正しければ……。

「如月さん?」

 荷物をその場に放置して舞台袖に向かう。

「乃愛!大丈夫!?」

 すると聞こえたのは宮本さんの声。やっぱり如月さんの悲鳴だったのか。

「なんか音がしたけど大丈夫?」

 その場に来て驚いた。セットの一部が壊れて倒れていた。そしてそれの近くに如月さんが座っていた。

「大丈夫……かもしれない。ただ、倒れてきたのを避けようとして足ひねっちゃった……」

「ひねっただけ?よかった……。もしセットが当たって骨折なんかしたら大変だもん。とりあえずみんなバスに乗っちゃったからわたし達も行こ?乃愛わたしの肩に捕まって」

「うん……」

 如月さんは宮本さんの支えを借りて立ち上がり、肩に捕まった。が、見る限りそれだと荷物のせいで2人同時に転び兼ねない。俺は如月さん達のそばに行った。

「荷物持とうか?持ったままじゃ辛いだろ?」

「でも……」

「いいから。見てて危ない。転びそうで」

「乃愛、持ってもらったら?」

「……じ、じゃあお願いしていい?」

「あぁ」

 如月さんから荷物を受け取り、自分の荷物も持ってバスに向かった。



「おせぇよ!……って怪我したのか?」

 バスの前では真田が待っていて、如月さんを見ると心配そうな顔をした。

「怪我って程じゃないよ。ただ足ひねっちゃっただけだから」

「そうか、まぁとりあえず乗れよ。みんな揃ってるし」

 そう言われて中に入ってとりあえず如月さんを席に座らせて隣の席に荷物を置いた。

「ありがとう桐崎くん」

「これくらいなんでもないよ」

 そう言って俺も席に着こうとしたが、後ろは埋まってるし、前は宮本さんの隣しか空いてない。さすがにそこに座ったら真田に殺されるしな……。

「桐崎。席ないのか?」

「いや、補助席はあるから補助席座るよ」

「あぁ、分かった」

 とは言ったものの、おそらくこの流れからして如月さんの隣の補助席に座るようになるのか?なんかこの場所から動けないような気がするし……。

 補助席を出してそこに座った。



 そして今に至る。

 バスに乗ってから僅か数分の出来事。気付いたら如月さんは眠っていて、頭が徐々に俺の方に傾いてきて……起こすことが出来ずそのまま放置。

 よっぽど疲れたんだろうな……。バス乗って数分で眠ってしまったんだし。

「……ぅ…ん………」

 周りはガヤガヤとしてうるさいのに如月さんの小さな寝言がはっきり聞こえる。これがちょっとドキッとするんだよなぁ……。こんな経験したことないし。

「おい如月!足腫れてねぇか!?」

 突然真田が如月さんに声をかけたので如月さんはビクッと反応してから目を覚ました。

 空気読めよ真田!如月さんは疲れて眠ってるのになに起こしてんだよ!

「……えっ?」

「あーもう真田のバカ!空気読め!」

 如月さんはなにがあったのか分からないというような表情をしている。対して宮本さんは俺が言いたかったことを真田に言ってくれた。

「あれ?わたし、寝てた?」

「うん」

「乃愛ったら桐崎くんの肩に寄りかかってたんだから。そんなに疲れてたんだね」

「えっ?寄り、かかってた?」

 宮本さん、そこはあまり言ってほしくなかったんだけどな。まぁ言ってしまったことは仕方ない。

「うん。寄りかかって寝てたよ」

「ご、ごめんね!頭重かったよね!」

「いや大丈夫」

「っておい!人の話聞けよ!足腫れてねぇかって!」

 散々無視されてた真田がまた声を上げた。

「あっ……ちょっと腫れてる。帰ったら湿布貼るよ」

「湿布ならわたし持ってるよ。はい」

 宮本さんがバッグから湿布を取り出して如月さんに渡した。

「ありがとう緋華。多分演技には支障出ないから大丈夫。ちょっとひねっただけだもん」

「ならいいんだけどさ、気をつけろよ?」

「うん」

 本当にひねっただけならいいんだが……。もし捻挫だったら演技に支障が出る恐れがある。出来る限り如月さんのサポートをしよう。


 ***


 もう嫌……。すごく恥ずかしい。まさか桐崎くんに寄りかかって寝てたなんて!

「乃愛、ちょっと耳貸して」

 前の席に座ってる緋華は座席の上から頭を出してわたしに言った。わたしが緋華に耳を寄せると緋華は小声で

「よかったね」

 と笑顔で言った。

「よくないよ……。だって迷惑かけちゃったし」

「でも桐崎くん、全然迷惑そうじゃなかったよ?乃愛を起こす素振りなんてしてなかったし!」

「それは、桐崎くんが誰にでも優しいからだよ……」

 勘違いしちゃいけない。期待しちゃいけない。わたしだけに優しいなんて思っちゃいけない。本当は嬉しいのに心の中では正反対なことを呟く。……素直じゃないな、わたしは。

「もう!少しは喜びなさいよ!」

 多分紗弥と麻由に言ってもこんな反応されるのかなぁとか思ってしまった。



 無事学校前に到着。時計を見たらまだ6時前だった。

「明日からも普通に部活あるからサボんなよ」

『はーい』

「以上、解散」

 あぁ、これで合宿終わりかぁ……。3日間って長いような短かいような。

「足大丈夫?」

 ふと桐崎くんに声をかけられた。

「うん。今はなんとかね……。でも自転車は無理そうだから迎えにきてもらうの」

「そっか、お大事に。じゃあ俺は先帰るから。また明日ね如月さん」

「うん。ばいばい」

 別れの挨拶をして桐崎くんは自転車に乗って去っていった。

 ……なんでそんなに優しいの?心配しすぎだよ。これじゃあわたし、本当に貴方のこと好きになっちゃうよ……。貴方のこと、本当に好きになっちゃっていいですか?


今回で合宿編終了です!

本当ならもう少し短めのはずでしたが、まさか⑪まできてしまうとは思いもしませんでした!(泣)


合宿で乃愛と桐崎くんの距離は縮まりました。

この縮まった距離は今後どうなるのでしょうか。

更に縮まるのか、再び離れてしまうのか。


自分の気持ちに気付いた乃愛が今後どんな行動をとるのか楽しみですね。


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