3.2人きりで話しました!
「じゃあ今日はこれで終わり。はい解散」
『お疲れ様ー!』
真田くんの指示で軽く片づけに入る。只今の時刻は6時ジャスト。まだ外は少し明るいから怖くはない。
「如月。お前、副部長になったから戸締まりよろしくな!あとついでに部誌も書いといて。ノートはロッカーの上にあるから」
そう言って真田くんはわたしに部室の鍵を投げ渡した。
「……はーい」
鍵を受け取ったわたしは渋々返事をして帰りの支度をした。
「それじゃあお先ー」
「また明日ー」
片づけを終えた部員は次々と部室から出て行く。
「じゃあ俺も先帰るから!塾あるし!」
もちろん真田くんも。
まだ部室に残っているのはわたしと桐崎くんのみ。
「はぁ。副部長って面倒だな……」
そう呟いてロッカーの上のノートを取る。まだ真新しいノート。それには不釣り合いのお世辞にも上手とは言えない字。……真田くんの字だな。
椅子に座ってノートを開き、今日の活動について詳しく書いた。
「まぁまぁそう言わず。なんだかんだ言ってちゃんと仕事してるじゃん」
桐崎くんはわたしの座っている席の近くにあった椅子に座りながら言った。なんで近くに座るんだろう、とか思ったりしたがなにも言わなかった。
「……やるからにはしっかりやりますよ、わたし」
「そうそう、さっき真田が来たから言えなかったんだけどさ」
さっき?あっ、あの時……。そう言えば桐崎くんはなにかを言い掛けてたっけ。
「うん。なに?」
「如月さんってさ、その……」
桐崎くんは言葉を濁した。あれ?なにか言いたいことがあったんじゃないの?
「……どんな本読んでるの?」
ほ、本!?どうしてこのタイミングで?
「えっと……ミステリーとか、かな?」
とか思いながらもわたしは律儀に答えてしまう。本が好きだからつい……。
「そっか。ラノベとか読む?」
「うーん……。最近読むかなー?どうして?」
「だって如月さん、結構本読んでるから。見かけると林原さんや池波さんと一緒にいるか1人で本読んでるかだし」
ありゃ。意外と見られてたのね。まぁ紗弥たちと絡んでたらうるさいし、1人で読書はクラス内では浮いてるし目立つっちゃ目立つね。
「あぁ……確かに。でも桐崎くんだってよく読んでるよね?」
「まぁね。俺の場合はラノベ中心だけど」
あっ、やっぱり。なんかそんな気がした。なんでだろう。ぱっと見、あっ、この人ラノベ読んでそうって思ったんだよね。それにラノベとか読む?って聞いてきたくらいだし。
「へぇーそうなんだ。おすすめとかは?」
「おすすめかー……。俺的には……」
と言う具合でわたし達は本の話題で軽く30分は話していた。外を見ると既に日が落ちていた。
「あぁー……ごめん。俺が話を切り出したばかりにこんな時間まで……」
校舎を出たのは18時半を過ぎていた。よくそれだけの時間わたしは男子と2人きりで話していたなと自画自賛した。
「大丈夫だよ。どうせ部誌とか書かなきゃいけなかったし。逆に桐崎くんがいてくれて助かったよ!今日の出来事あんまり覚えてなかったから」
「如月さん……。今日の出来事、結構大事なんだから覚えて置こうよ」
「あはは。わたし忘れっぽいからさ」
ちなみに今日の活動は大会に向けての練習についてのミーティング。これが結構揉めたんだよな……。配役とか誰が脚本を書くかとか。散々揉めた結果、配役は脚本が書き終わってから、脚本は真田くんと桐崎くんに決まった。
「にしても、俺と真田が脚本なんて無理なんじゃない?真田はまぁいいとしても俺は入ったばかりだからさ演劇なんてよく分かんないし」
「じゃあなんで演劇部に入ったの?」
「えっなんとなく?」
なんとなくって……。そんな理由で演劇部に入るなんて……。まぁそういう人も何人かいるか。
「それに配役は脚本が書き終わってからだろ?中身が濃いのを出来るだけ早く……。難しいな……」
「よく読んでる本からピンときたシーンとかセリフ引用したら?」
「あぁーそれいいかも。真田も俺も読んでる本の趣味は似てるし」
ということは真田くんもラノベ中心なんだ……。何気にそういうの好きな人多いんだな、演劇部。わたしもなんだかんだで結構好きだし。
「よし、じゃあ真田と頑張って中身の濃いストーリー作るから!」
「うん。頑張って?どんなに役者がよくてもストーリーがつまらなかったらあれだから」
「あれってなに、あれって?」
「まぁまぁ。気にしない」
桐崎くんってなんか面白い。クラスの男子と話すことは滅多にないけど桐崎くんとなら話せそう。部活も同じだし。
でも、恋に発展することは絶対ないね。わたしは……男子が苦手なんだから。